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冒険者たちの影に隠れてすっかり姿が見えねぇミーシャからも、全く同じ しら~っとした冷たい目線を感じる。


しーんと静まり返ったギルド内で……初めにその沈黙を破ったのは、男衆のうちの一人だった。


「……は?」


その『は?』が呆気に取られた『は?』だったのか、はたまた別の気持ちが入った『は?』だったのかは分からねぇ。


分からねぇが……俺は声を上げた手前、そいつを突き通すしかなかった。


「~リアは俺の双子の姉なんですっ!

弟が一億ハーツの賞金首じゃ、リアとダルにメーワクかけちまうと思って今まで隠してました!

ごめんなさい!!」


冒険者や、何より俺の目の前で呆気に取られまくっているラビーンとクアンの顔を見んのが怖くて、ガバッとそのまま頭を下へ下げる。


さらにそこから辺りは し~んとなっちまった。


その、沈黙を破る様に──ラビーンが震える人差し指をわなわなと俺へ向けて──……


「……お前が……リアちゃんの、双子の……弟……?」


衝撃と動揺も甚だしく、問いかけてくる。


途端──ザッ、と一瞬でその場にいた全員が、俺からミーシャの方へ──リアの弟である『冒険者ダルク』の方へ視線を移す。


ミーシャと俺との間が割れて、俺はよーやくミーシャの姿を再び見る事が出来た。


……つっても俺は恐ろしさのあまり顔を上げる事すら出来なかったから、見えたのはミーシャの足元と犬カバの四本足くらいのもんだったが。


「ダルくん、そりゃマジか?」


ミーシャの隣に立っていた冒険者が、ミーシャに問いかける。


ミーシャは深く嘆息した。


ミーシャが……この手のウソを好んでねぇのは知ってる。


レイジスの恋心を弄ぶよーなウソでもあるしな。


けどもしこの場でミーシャに双子の弟なんかじゃねぇと否定されちまったら──……もし『リア』の正体がこの俺だと明らかになれば、俺は確実にこの世から抹消されちまう。


まずはここにいるラビーンやクアン、そして冒険者共から。


そしてもしかしたら後で話を聞きつけたレイジスの兄貴からもボコられるかもしれねぇ。


仮にこの場を生き延びて、レイジスの兄貴も広い心でこのことを許してくれる事があったとしても……。


きっと絶対にミーシャとの交際は認めちゃくれねぇだろう。


そいつはある意味、ボコられるより辛い事になりそうだった。


頼む、ミーシャ!


この場はひとまず助けてくれ……!


必死で祈りながら頭を下げ続ける……と。


「……。

その男の言う通りだ。

『リッシュ・カルト』は、リアの双子の弟で間違いない」


ミーシャが……渋々、しょーがなくっていうように、そう皆にウソを告げてくれる。


俺は思わずパッと顔を上げ、ミーシャの顔を見た。


腕を組み、呆れ、半分怒ってる様な顔でミーシャが俺を見返す。


『だって、しょうがないでしょう?』


ミーシャがそう言っているよーな気がした。


その足元にいる犬カバも『ほんとしょーがねぇヤローだなぁ』って眼で俺を見てくるが、俺は気にならなかった。


「マ……マジか……!」


「双子……双子か!」


「そりゃどーりで顔が似てるハズだぜ!」


冒険者たちが今度はざわざわと色めき立つ。


当たり前っちゃ当たり前だが、どーやらミーシャの言葉の方は冒険者たちに一瞬で信じてもらえたらしい。


俺は心の底からホッとして あとは……と半分恐々、もう半分は期待を込めて目の前のクアンと、そしてラビーンの方へ目線を転じた。


ラビーンとクアンは……それこそ俺の顔面に穴が開くんじゃねぇかってくらいに俺をじっっっっ……っと見据えていた。


そーして何の言葉も発しねぇ。


永遠とも取れる長い時間を置いて──。


最初にアクションを起こしたのは、ラビーンの方だった。


「~リッシュくん(・・)!!」


ガッシと俺の両手を握って、ラビーンが熱く声を上げる。


「~おっ、おぅ……」


思わず身を引きながら──残念ながら後ろのカウンターが邪魔して大して後ろへ下がる事は出来なかったが──そいつに応えた。


っつーか今俺の事『リッシュくん(・・)』ってくん付けで呼ばなかったか?


頭の端で思うが、ラビーンの方はごく当たり前の様にもう一度 リッシュくん、と言葉を続けた。


「これまで追い回したり怒鳴ったり睨みつけたりしちまって悪かったなぁ。

リアちゃんの弟だって知ってりゃ、誰にも掴まらねぇ様に逃してやったり匿ってやったりしたのによぉ。

これまでの事は俺もゴルドー商会で働いてる手前、どーにも、仕方なく、やってた事なんだ。

どうか許してくれよな」


『どーにも、仕方なく、』の部分をやたらに強調しつつ、さっきまでとは打って変わって、やたらに親切で気のいい感じで言ってくる。


まるでリアの弟であるダルに話す時みてぇな調子だ。


クアンもうんうん、とそいつに大真面目にうなづいて同意した。


「そーなんだよ。

ほんと、ボスの命令で仕方なくやってたんだよ。

だけど今までひどい態度取っちゃってほんとごめんな?

あっ、ちなみに俺、クアンって言うんだ。

リアちゃんとは普段からすごく親しくさせてもらってて~」


うきうきるんるんとしながらクアンがさりげに自分の事をアピり出す。


そのクアンの頭を。


ラビーンが──俺の手から片手だけは離さねぇまま──もう一方の手でゴツンと一発殴った。


「クアン、てめー、俺が必死に謝ってる隙に抜け駆けするやつがあるか!

あっ、リッシュくん、ちなみに俺はラビーンってんだぜ。

リアちゃんと弟のダルくんとはものすごく親密な間柄でだなぁ……」


と、俺の手を握ったまま熱弁しよーとするラビーンの手を、ベシンッと横から冒険者の一人が叩く。


「おいコラ、抜け駆けはお前だろーが。

リッシュくんが困ってんのが分かんねぇのか?

リッシュくん、俺は……」


「あ~、リッシュくん、俺はね……」


リッシュくん、リッシュくん、とあちこちから声と自身の名を名乗る声が届く。


ふと気づけばまた俺はラビーン&クアンと冒険者たちに囲われて、ミーシャの姿もまーた影に隠れて見えなくなっちまった。


俺は俺はと次々に名乗り出る男共を見渡して。


俺は「あ~」と頬をぽり、と掻いて言う。


「ここにいる皆の事は、リアから聞いて大体知ってるぜ。

ラビーンにクアンだろ、そっちの人はカイル、ノーマン、リアンと、ガリウス。

そっちはロックと、バージェス」


みんな、『リア』の間にすっかり覚えちまった顔と名だ。


それぞれの顔を見ながら一人ずつ名を挙げていく……と。


冒険者たちが「「おぉぉ……!!」」と好奇に目を輝かせた。


「さすがリッシュくん!」


「俺らの顔と名前全部分かるのか!?」


「マジか!」


冒険者とラビーン、クアンに取り囲まれながら、「偉い」「すげぇ」とあちこちから褒めそやかされる。


『リア』でいる時とはまた違った“ちやほや”だが、まぁ何つーか、悪い気はしねぇ。


と、冒険者の一人がふと我に返ったんだろう、「そーいや、」と俺にとっては本題だった話題を思い出してくれる。


「ジュードを探してるんだったか?

何なら俺が探して連れてきてやろうか」


「あの憎っくきリアちゃんの敵、レイってやつでもいいみたいに言ってたよな?

そっちの方は俺に任せとけ」


ガッツポーズなんかを入れながら、冒険者たちが次々にいい提案をしていってくれる。


そいつをまとめ上げたのは、なんとも驚いた事に、ラビーンとクアンだった。


「よーし、てめーら!

それじゃあ手分けしてジュードとレイを探すぞ!!

まず、お前らは俺と街の北半分を捜索だ!」


「んで、残りは俺と南半分を捜索!」


「もしかしたら街を出た街道の方にいる可能性もある!

その辺まで念入りに探すぞ!

ついてこい!」

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