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2

前半は俺らに向けて、後半はギルド内にいた冒険者達に呼びかける様にして、シエナが言う。


けど、その中の誰からも、俺らが期待する様ないい答えは返ってこなかった。


俺は思わずミーシャと軽く顔を見合わせて──腰に両手をやって ふぅ、と息をつく。


……まぁ、分かっちゃいたが。


んなに都合良くジュードやレイジスと行き会える訳もねぇか。


ちっとばかり、目算を誤っちまったらしい。


さぁて、これからどうするか……なんて考えてると。


シエナは軽く肩をすくめて笑いながら言う。


「まぁでも、そこまで急ぎじゃないならここで少し待っててみたらどうだい?

闇雲に探し回るより案外早く捕まるかもしれないし。

それか……そうだねぇ。

一番話が早いのは、やっぱりリアを連れてくる事だと思うけどね。

ジュードの連れのあの男、リアにゾッコンだって噂じゃないか。

ここにリアが来てるとなればすぐさま駆けつけてくれるんじゃないのかい?」


冗談混じりにシエナがそんな事を言ってくる。


俺は思いっきり嫌〜な顔でそいつに応えて見せた。


十二分にあり得るよーな気がしたからだ。


シエナが俺の顔を見ておもしろいもんを見た様に笑う。


……ったく、笑い事じゃねぇぜ。


思わず半眼になってシエナを見る……と、その俺の右肩を、グッと力強く掴む手があった。


〜へっ……?


慌てて掴まれた肩越しに後ろを振り返る。


そこには、俺も何度かお目にかかったことのある、顔馴染みの冒険者の男の姿があった。


男の顔がぬんっと俺の顔面を見る。


強面の、がっしりした体格の持ち主に、俺は思わず後ろへ半歩、後ずさる。


犬カバもそそくさっと俺を見捨てて俺の足元からいかにも安全そうなミーシャの足元後ろへ移動した。


ミーシャが横から声を挟もうとしてくれよーとすんのが分かったが、それより何より、なんか分かんねぇがとりあえず男から発せられる圧がすげぇ。


俺は思わず目の前の男から身をよじる様に避けて片目を瞑る。


──と。


「お前……よく見りゃ横顔がちょっとリアちゃんに似てんな……」


低く、探る様な声で男が言ってくる。


そいつはまるで、指名手配犯を前に『お前、あの犯人と似てんな』ってぇのとおんなじテンションで。


男が目を細くしながら俺を見る。


俺は冷や汗をたらたら垂らしながら視線を横へ逸らした。


ミーシャとシエナが互いに目を合わせ、犬カバがきょときょとと慌てるような慌てねぇような様子で俺を見上げんのが気配で分かる。


男の言葉にハハッと笑ったのは、近くの席に座っていた別の冒険者だ。


「おいおい、何だ何だ、ヤブから棒に。

いくらリアちゃんロスだからってお前、そりゃあねぇだろう。

一体どこに目ぇつけてやがん……」


だよ、とまで言いかけようとしたんだろう、笑い半分に言いかけながら俺を見て……冒険者が


「……んんっ?」


と大きく声を上げる。


顎元に手をやり、俺を心底まじまじと見据えてから……


「……いや、言われてみりゃ、確かに……ちょっと似てるな……」


まじまじとして、言う。


その一言に、ギルド内の男衆がにわかにざわめき出した。


「おいバカ、んな訳ねぇだろう。リアさんに失礼だぞ」


「いや、でもよ……。ちょっとよ〜く見てみろって。

目元とか口元とかほんと似てんだって」


「あぁ〜?どれどれ?」


やいのやいの言われながら……気づけば俺はギルド内の冒険者共にしっかり逃げ場なく取り囲まれちまった。


噴き出る冷や汗がとまらねぇ。


目の前がぐるぐる回る。


背中側にある木製のカウンターだけが今の俺の頼りだった。


やべぇ……。


こんな状態でリアの正体がこの俺だったなんて事に気づかれちまったら、冒険者共にタコ殴りにされちまう……。


助けを求める様に目線でカウンターの向こう側にいるシエナと、冒険者達に埋もれて姿が見えなくなっちまったミーシャの方を見る。


……が、俺の位置から全く見えねぇミーシャはもちろん、シエナも助け船を出そうって気はねぇらしい。


一瞬目が合ったが すい、とそのまま視線を外されちまった。


前から横から、俺をしっかりと取り囲んだ冒険者たちが様々に意見を取り交わす。


その最も多い意見が、『やっぱりリアちゃんと似てる』『すごく似てる』ってぇもんだった。


やべぇ……。


マジでやべぇ……。


ちょっとジュードとレイジスを探しに来ただけだってのに、何で急にこんなピンチに陥ってんだよ、俺は。


目をぐるぐるさせながら困り果てる俺の耳に。


「おっ?

何だ何だ、何の騒ぎだ?」


「兄貴ぃ、どーしたんですか?」


さらに事態を悪くさせるよーな二つの声が聞こえてきた。


俺を囲む冒険者の一人が「おお、お前らいい所に来たな」とその二人を手招きする。


「おっ、ラビーンとクアンか。

ちょうどいい、お前らもちょっと見てくれよ」


もう一人、他の冒険者が余計な一言をかける。


俺はその場に凍りついて真っ青になったまま、背中のカウンターにずり、と背を押しつけた。


余計な時に、さらに余計な二人が──ラビーンとクアンが、俺の目の前までやってくる。


ラビーンもクアンも、完全に敵視した目で俺を睨み降ろす。


俺の脳裏に──最悪の映像が走馬灯の様に流れていく。


リアと俺が同一人物だと気づいたラビーンとクアン。


やっぱりそーか!!とギロリと俺を睨む冒険者の男衆。


そして──……『よくも今まで騙しやがったな!!』と怒鳴られメタメタのボコボコにされる、俺……。


「このリッシュ・カルトなんだけどよぉ、どーもリアちゃんに激似だって言うやつがいてよ。

お前らどう思う?」


「俺ぁ気のせいだと思うぜ。

皆リアちゃんがいねぇショックで気が迷ってんだろ」


「いやいや、似てるって。

お前目が腐ってんじゃねーのか?」


「なにおぅ〜!」


「だーっ!

んな狭いトコで暴れんな!

とにかくお前ら二人、リアちゃんとはなんだかんだ結構顔合わせてただろ?

その二人の目から見てどーよ?」


冒険者が言うのに……ラビーンとクアンがギロリとした眼でグラサン越しに俺を見下ろす。


『リア』を見る時とは全然違う。


二人揃って眉を寄せ、顎を上げながら俺を見下ろし、睨む。


俺は半ば絶望しながら……目を不自然に開けたまま、そいつをただただ眺めていた。


そーして……永遠とも言える長い時間をかけてじっくりと俺を検分してから……最初に口を開いたのは、クアンの方だった。


「……兄貴、」


と妙に重々しく言って、兄貴を──ラビーンの方を、見る。


ラビーンは俺から一切目を離さないまま「ああ、」とこいつも重々しくうなづいた。


そーして顎に手をやりながら、低く唸る様な声で「確かに、」と口を開いた。


冒険者の男衆が、ラビーンの声に集中する中、ラビーンは言う。


「──確かに……。

言われてみれば、よく似てやがる……。

顔立ちもそーだが、背格好や雰囲気も……。

髪を下ろして着飾れば……」


自分で言いかけながら、ラビーンが何とも嫌そうに顔を歪ませる。


俺の女装姿を想像したのに違いなかった。


クアンもラビーンのやつと同意見なんだろう、コクコクとそいつにうなづいてみせる。


冒険者たちがまたにわかにざわめいた。


「やっぱりそう思うか」


「マジかよ?」


「いや、でもラビーンとクアンがそう言うならやっぱりそうだろ」


ざわざわと声がひしめき合う。


その声は段々に、また別の方面に転がっていこうとしていた。


「おいおい、待てよ、なんで赤の他人のこいつがあの最強に可愛いリアちゃんとこんなに似てんだよ?」


「いくら世間にゃ自分に似た顔が三人はいるっつってもなぁ……」


冒険者の一人が……最初に俺に『リアちゃんに似てるな』と言ってきた、あの冒険者だ……「おいまさか、」と強めの声で言い出す。


「まさかこいつ、リアちゃんの……」


言いかけるのを、遮って。


「〜リアは俺の双子の姉ですっ!!」


俺は思わず思いっきりデカい声でそう宣言した。


ぎゅっと目を瞑り、全身全霊でそう訴える──と……。


その場の空気がいきなりし〜んと静まり返った。


カウンターの向こうからシエナがほんの一瞬俺の大声に驚いた様に目を大きくして……それから じと目で俺を見るのが、気配で分かる。


それにもう一人。


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