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重く、けれどはっきりと意志を込めてそう言うと、ミーシャが戸惑いの様な悲しみの様な目でヘイデンを見つめる。
ヘイデンは言う。
「──レイジス殿がここへ現れるより、ずっと以前の事だ。
その頃と今とでは状況はかなり変わってきているが、私の考えは変わらない。
……。
ミーシャ殿があの男をサランディールの事に巻き込まない様にと気を配り続けてくれていた事は、よく分かっている。
だがリッシュが自らの意志でそれに関わると決断し、あなたがその決断を尊重すると決めたのなら、私が言う事は何にもない。
あなたやリッシュと約束した通り──私も、二人の助けになろう」
心からの、本音の気持ちでそう告げる。
ミーシャは自らの拳をぎゅっと口元に押し当てて、泣いてしまいそうになるのを堪えた。
もちろんその姿はヘイデンの目には映っていなかったが……。
ヘイデンは温かみのある息をついて、小さく笑んだ。
もしこの娘でなかったら。
こんなにも真正直に、生真面目に、自分に都合の悪い事も包み隠さずきちんと伝えようとする、そんな娘でなかったら。
自分はこんな言葉を『サランディールの元王女』にかけてやっていただろうか。
ふいにそんな事を思い浮かべて──ヘイデンは心の中で軽く頭を振った。
愚問だ、と自分でも気づいていたからだ。
その事に軽く苦笑しつつも、ヘイデンはミーシャへ向かって言う。
「──レイジス殿にはもう話は通してあるのか?」
「──いいえ、まだ……。
明日、リッシュと一緒に会いに行ってみようという話になっています。
兄がどこを本拠地としているか分からないので、明日会えるかどうかも分からないのですが……」
ミーシャが言うのに、ヘイデンはうなづいてみせた。
「ではもしレイジス殿とお会いでき、話がついたら 一度こちらへもお越し頂ける様お伝え願えるか。
僅かばかりだが、私にも力をお貸し出来る事があるから、と」
言うと……ミーシャが大きく二、三度瞬きをして──
「──はい!」
大きくそう、返事をしたのだった──。