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『冒険者ダルク、それにリッシュ・カルト。
てめぇらに依頼してぇ事がある。
至急ゴルドー商会に来られたし』
……そんな、果たし状みてぇな謎の手紙が俺らの元に届いたのは、リュートの事件から二日が経った頃の事だった。
横からその手紙を見ていたミーシャが小さく首を傾げる。
「……依頼?
ゴルドーさんから?」
問いかけてくるミーシャと同様に俺の足元からも、
「クヒ?クヒヒ?」
犬カバがこっちを見上げてかわいらしく問いかけてくる。
俺は──ゴルドーの事を考える時のクセでどーにも嫌〜な顔をして、そんな二人に、
「よく分からねぇけどそーらしい」
とだけ答えてみせる。
と──茶を飲みながら近くで椅子に座っていたヘイデンがフン、と鼻で息をついた。
「どうせ大した依頼ではあるまい。
行って話くらい聞いてきてやれ」
投げやりに、言ってくる。
どうせ行かなきゃうるせぇだけだ、ってぇ本音がしっかり滲んでいる。
……まぁ、そりゃ俺も同感だけど。
あれから二日──俺らは相変わらずヘイデン家に居着いていた。
犬カバを狙うノワール貴族の男ももういねぇし、そろそろ旧市街の自分の家に戻ったって別に構わねぇんだけどよ。
ヘイデンも執事のじーさんもそこに関しちゃ何も言わねぇし、俺らの方でも何とも言わねぇから、今の所そのまま ずるずるとここにいる。
まぁヘイデンだって、レイジスにミーシャの事を頼まれてたしな。
早急に出て行かなきゃならねぇ理由もねぇし……。
もうしばらくはここに住んでたって構わねぇだろ。
執事のじーさんのおかげで居心地もいいし、もれなくうまい飯とふっかふかのベッドも用意されてる事だしさ。
……と、まぁそれはそれとして。
俺は──げんなりしながら再び手紙に目を戻す。
っていうかだぜ?
ここにこの手紙が届くって事は、ゴルドーのやつ 俺らがまだヘイデン家にいるって知ってたって事だろ?
『至急』っつーんなら電話でもかけて依頼すりゃ話が早ぇだろうに。
たぶん、電話するほど超緊急じゃねぇが、なるべく早めに来い……ってくらいの依頼内容なんだろう。
そもそもこれ、依頼ってなってっけどちゃんと報酬払ってくれる気はあるんだろうなぁ?
思わず口を曲げて手紙を見下ろす俺になのか、それともヘイデンの言い様になのか──ミーシャが小さく苦笑してみせた。
「──リッシュ、」
窘め、答えを促す様に言う。
俺は──……はぁぁ、と息をついて肩をすくめた。
「〜分かったよ。
仕方ねぇからゴルドー商会まで出向いてやるかぁ」
「クヒクヒ」
犬カバも仕方ねぇとばかりに首を縦に振って言ってくる。
ミーシャがそれに──何故か少しおかしそうに小さく笑ったのだった──。
◆◆◆◆◆
ゴルドーの手紙にあった『ゴルドー商会』は、市街地の中心部から北西へ三十分程も歩いて行った坂の上にで〜んと大きく建っていた。
三階建ての赤レンガ仕立ての建物だけはわりと洒落てるが、その一階と二階の間辺りに掲げられてる黒い看板だけはいただけねぇ。
大きく太く書かれた『ゴルドー商会』の文字は何故かトラ柄。
そのトラ柄を強調する様に、周りを蛍光色の黄色とどぎつい色の赤で囲っている。
俺はそれだけで胸焼けを起こしちまいそーになった。
きっとこの、唯一まともな赤レンガ仕立ての建物は──これだけは、ゴルドー以外のもっとマトモな人間が設計・デザインしてくれたんだろう。
俺の記憶が正しけりゃ、この建物はゴルドー商会の会社の建物でもありながら、ゴルドー自身の住まいでもあったはずだ。
もし──運命が違って、ガキの頃の俺がこの家に世話になるよーな事になってたら……。
考えただけでも胸焼けしちまう。
それに、だぜ?
この場所は一年前、ゴルドーのやつと一億ハーツの借金の契約をした、丁度その場所でもある。