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それでもレイジスは俺の言葉をしっかり受け入れてくれたらしい。
一人顎に手を当て大真面目に頷いて、ちょっとだけ立ち直ってみせる。
「……そうか。
そうとも言えるかもしれないな……」
妙に前向きに納得して、言ってくる。
と、それ以上聞くに耐えないと思ったのか、それとも話題をどうにかそこから逸らす為か──
「──執事殿が、」
ジュードが珍しく気を回した様に正面を見据えながら、一言声を発する。
言われて正面を見ると──。
確かに、ヘイデンの屋敷の門の前に、執事のじーさんが立っている姿が見えた。
初めは心配そうな様子だったが、俺らの姿を認めるとホッとした様に笑顔を浮かべる。
そうして折り目正しく一礼をした。
まるで”おかえりなさい“とでも言う様に──。
俺はそいつに──色んな意味でホッとして、一人さらに考えに耽っているレイジスを差し置いて執事のじーさんに向かって手を振った。
とりあえず……レイジスのリアへの想いについては──今度、ゆっくり考える事にしよう。
どういう事になるかは分からねぇし、ミーシャの視線も痛ぇが……。
まぁ、なるようになるだろう。
そもそも『リアとリッシュは双子だ』なんて言って事態をややこしくしたのはジュードだし。
もしもの時はジュードを巻き添えにして怒られよう。
そう勝手に思っていると──。
何かの気配を察知したのか、ジュードがぶるっと一つ身を震わせた──。
◆◆◆◆◆
次の日の午後──
ギルドの病院に輸送された犯人の男が死去したという知らせが俺らの元に届いた。
もちろん他殺や、自殺じゃねぇ。
これまでの無理が祟って……体も心も、限界だったんだろうっていう事だった。
見世物屋の店主が話してた通り、その身元はノワールに住む貴族で間違いはなかったらしい。
ノワールでは男の引き取り手がなく──ノワールの外交官からの希望もあって、その遺体はこのトルスの地に埋められる事になった。
男が言っていた、『保存された』娘の遺体がどうなったのか──その領地がどうなったのかは、分からねぇ。
なにはともあれ、これで犬カバも安心して外を出歩ける様になる、とホッとした反面──その知らせは、何故か俺の心を沈ませたのだった──。