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ジュードのやつ、頭に血が上ってんじゃねぇのか?


んなやつにミーシャの居場所をむざむざ教えたりなんかしねぇが、これじゃもし俺が何かをジュードに話したくったって、何も喋れやしねぇじゃねぇか……。


俺を殺す気か。


俺は息も途切れ途切れに、とにかく声を上げる。


「く……。

だ……れが、てめぇなんかに……教えるか……!

てめぇがあの紺色の髪の男に俺らの情報漏らしてんのは、知ってんだぞ……。

俺や……ミーシャの事、裏切って……てめぇ、一体何が目的で……」


言いかけてる間にも、首に込められた力が強まっていく。


目の前がチカチカする。


気が遠くなる。


やべ……。


このまま行くとマジで殺されそうだ。


体から、力が抜けかける──ところで。


「──……ジュード、そこまでにしてやれ」


ある一つの声が届いた。


ジュードがこっちにかける力を一ミリも緩めず「しかし……」と言うのが聞こえる。


だが相手の声は穏やかだった。


「そのまま行くと大事な情報源がこの世から消えてしまうぞ。

彼が死んだら、それこそミーシャを見つける事が出来なくなるかもしれない。

──ほら、」


言って……どうやら俺の首を掴むジュードの腕をそいつがやんわりと押し留めたらしい。


ジュードがゆっくりと……未練を残す様に俺の首から手を引く。


膝で押さえつけられていた背からも、スッと圧迫が消えた。


力も出ずにグッタリとうなだれる中──ジュードを止めた人物が、俺の腕を持ってゆっくり起こしてくれる。


「悪かったなぁ。

連れが手荒な事をした。

喋れるか?」


ゆったりと──その男が声をかけてくる。


俺はそいつの顔を見た。


紺色の髪に、薄紫色の目。


穏やかな表情に、何だか洗練されたもんを感じさせる笑み……。


そいつを見た時、俺の頭の中でまた『誰か』の姿とこいつの姿が重なって見えた。


けど、違う。


何つーか……そいつに『似てる』けど、『全く似てねぇ』。


すげぇ矛盾だと自分でも思うが、そんな感じだった。


俺はジュードに掴まれてた後ろ首の辺りに手をやりながら──ぼんやりとその男の姿を見る。


確か──レイって言ってたっけかな。


こないだ見た時は街の往来で涙して、ラビーンやクアンなんかにまで同情されちまってたが……。


今こーして見る限り、ごくごく普通の(いや、まぁちょっとイケメンだってのは認めるが……)ただの男だ。


上半身だけ起き上がり、地面に座り込んだまま──俺はゴホッと一つ咳をする。


そうして軽くうなだれる様にしながら横に首を振って、声を絞り出す。


「〜あんた……一体何なんだ……?

ミーシャの事もそうだけど……飛行船の事まで知って……。

ジュードにスパイみたいなマネまでさせて……一体、何を……」


何をしようってんだ?


何を企んでる?


そう問いかけたかったが、喉が未だに圧迫されてるみてぇになっていて、声が出ねぇ。


代わりに出たのはまたゴホッゲホッという咳だった。


と、男──レイが、それ見ろってばかりにジュードを見る。


ジュードの方は未だに射殺す様な勢いで黙って俺を睨んでいたが。


レイは仕方なさそうにジュードから俺へ視線を移し、思いの外優しい、やんわりとした口調で俺の言葉に答えた。


「──俺は君達の敵ではない。

ジュードに君達の事を報告させていたのは、ミーシャが心配だったからだよ。

城で姫君として大切に育てられたあの子が、この街で、それも男装して暮らしていると聞いたから。

だが、ジュードから色々な事を聞いて安心した。

──リッシュ・カルトくん。

君がミーシャや……それにリアさんの大きな助けになってくれていたそうだね。

ミーシャに代わって礼を言おう」


言われて……俺は、一瞬何の事だか分からずに、ゆっくり瞬きして男の事を──レイの事を見た。


そうして、ジュードの方を見る。


ジュードが、黙したまま一つ頷いた。


俺はそいつに、もう一度目の前のレイの顔をまじまじと見つめた。


紺色の髪。


薄い紫色の目。


やんわりとした、語り口調──。


全く同じじゃねぇ。


同じじゃねぇが、よく見たら顔立ちも少し、似てる……か?


俺の頭の中で、ゆっくりと思考の歯車が動き出す。


レイが爽やかに微笑む。


レイ──


──レイ、ジス……?


急に思い出されたサランディールの第二王子の名に──俺は思わず目を見張ったのだった──。


◆◆◆◆◆


両手を口元にやって、目を大きくして──ミーシャがレイの姿を見る。


ヘイデンの屋敷の中──ちょうど今朝朝食を取るのに使っていた、あのダイニングルームでの事だ。


部屋の中には俺、ミーシャ、レイの他に、当たり前の様に一緒についてきたジュードと、屋敷の主であるヘイデン、そして犬カバに、執事のじーさんまでいる。


そう──俺は、ジュードとレイの二人をヘイデンの屋敷に連れて来る事にした。


死んだって噂のレイジスが本当にこの『レイ』なのか……。


絶対の証明はミーシャに実際に会わせてみなけりゃ出来ねぇが、十中八九間違いねぇ、と踏んでの事だ。


そして──どうやらそいつは正解だったらしい。


レイがふんわり爽やかに微笑んで目の前のミーシャの顔を優しい目で見つめた。


「〜久しぶりだな、ミーシャ。

元気に暮らしていたか?

少し痩せたんじゃないか」


レイが温かみのある声で言うのに──ミーシャは両手を口元にやったまま、胸をいっぱいにした様子で言う。


「〜レイジス……兄上……。

本当に……生きて……」


言いかけたが、それ以上に言葉が出ねぇみてぇだ。


目元が赤い。


声も手も震えていた。


レイは──……いや、レイジスは、そんなミーシャの言葉に温かみと力強さのある声で応えた。


「──ああ。

どうにか無事にな。

長い間……苦労をかけたな、ミーシャ」


その言葉に我慢出来なくなった様に、ミーシャがレイジスの胸に飛び込んだ。


そのままギュッと両手でレイジスの服を握って、震える声で言う。


「〜良かった……。

本当にご無事で良かった……兄上……」


ミーシャがレイジスの胸に顔をうずめる。


頬にポロポロと涙の粒が溢れる。


レイジスがそっと優しく微笑んで、そんなミーシャの頭を撫でた。


感動の兄妹の再会だ。


俺はそんな二人の再会に半分もらい感動しながらも──ふいに、横に立つジュードの横顔を見る。


ジュードだってこの二人の再会にゃあホッと胸を撫で下ろしたろ、とそう思ったんだが。


ジュードの野郎、こんな時まで真面目くさった辛気臭ぇ顔してやがる。


まったくよぉ、せっかくのもらい感動が台無しじゃねぇか。


思いながら、俺はジュードの脇をちょっと小突いた。


そうして二人の邪魔をしねぇ様、小声で文句を垂れてやる。


「……何辛気臭ぇ顔してんだよ?

つーか、ミーシャの兄貴の事、もっと早くに言ってくれてても良かったんじゃねぇの?

そうって知ってりゃ、俺だって『お前が俺らを裏切ってる』なんて妙な勘違いしなくて済んだのによ」


それならミーシャの居場所をジュードに隠す必要もなかったし、俺がジュードに首根っこ掴まれて張っ倒された挙句殺されそうになる、なんて事もなかったハズだ。


俺の不平にジュードは当たり前の様に無視を決め込んでくる。


……まぁ、いいけどよ。


な〜んか釈然としねぇんだよな。


けどまぁ──。


ミーシャがレイジスの顔を見上げて、泣きながらもすげぇいい笑顔を見せる。


ミーシャがこんだけ喜んでんだから、ジュードのヤローの事なんかどーでもいいか。


そう、簡単に結論づけて俺がミーシャとレイジスの再会を心から祝っている──と、ふいにレイジスの目と俺の目が合った。


そーして急にレイジスがそわそわし出す。


「?」


「兄上?」


ミーシャも若干不審に思ったんだろう、レイジスの顔を見上げて、問いかける。

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