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〜さあ、行くぞ!
鍵穴のすぐ上にあるギアを上に押し上げると、飛行船がゆっくり前へ向けて──断崖絶壁へ向かって動き出した。
長い距離を走っての、加速はいらねぇ。
飛び立つ地点までの距離、およそ五メートル。
それで十分だ。
下から──飛行船から少し離れた所から、ヘイデンが声を上げる。
「──行って来い!」
そいつは、ヘイデンの口から聞いたことがない程真っ直ぐな、熱の込もった声だった。
そいつに後押しされる様に、俺はギアをグッと上げ切る。
飛行船が地面と鋭角に絶壁の方へ向け上がっていく。
そうしてそのまま、俺と俺の飛行船は洞窟の中から絶壁の先の大空へビュッと飛び出した。
途端にブワッと強い風が俺の身体中顔中に吹きつけてくる。
俺は怯まず叫んだ。
「〜行っけぇ〜!!!」
バタバタと服の裾が後ろへはためく。
そのまま加速に乗せて空を真っすぐに横切って行く。
俺の左手は舵に、右手はギアにかかったまま。
俺の髪は後ろにはためいて──そして俺の前には、気持ちいいくらい真っ青な空が、遠く果てまで続いていた。
『──想像してみな。
頬や髪を叩く風、目の前は一面の空と雲だ。
その中を、どこまでも自由に飛んでいく──な?
最高だろ?』
ダルクの言葉が蘇る。
ニッと笑った顔も、楽しそうな響きを持つ声も。
何もかもを抱えながら俺は限りなく広がる空を、海の上を、自由に切り裂いて飛んで行ったのだった──。
◆◆◆◆◆
「──そろそろ飛んだ頃か」
そう、小さな一つの墓の前でぽつり呟いたのは、ゴルドーだった。
墓に彫られたのは、『ダルク・カルト ここに眠る』という文字。
『~こんな……、こんなのダルクの墓じゃない!!
墓の中には何にもないだろ!!』
子供の頃のリッシュの声が、今でも耳に残っている。
そう──ここには、誰も眠ってなどいない。
こんなものは墓でも何でもなく、ただの石碑と同じだ。
それでもゴルドーは、ヘイデンやシエナは、石に彫る字をこれに定めた。
ゴルドーは手に持って来た酒瓶の酒を墓にかけ、自分の杯にもその余りの酒を淹れて軽く杯を上げた。
墓の後方は断崖絶壁になっていて、遠く果てまで続く空と海を見渡す事が出来る。
リッシュが飛行船を飛ばすのはゴルドーが見ているこの空とは真逆の方向だから、ここからリッシュの飛ばす飛行船を見る事が出来ないが、まぁ構わないだろう。
「──てめぇはどっかで見てんのかもしんねぇな」
自分でもらしくないとは思いながら──そうだったらいいという願いを込めて、言う。
ゴルドーはダルクの墓を、そしてその先に広がる空と海を眺めながら──静かに今は亡きダルクと杯を交わしたのだった──。




