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3

「──ええ……。

私も、ずっとそれが引っかかっていたの。

ダルクさんもそうだけれど……どうして二人とも、あの通路の存在を知っていたのか分からなくて……。

私も父から聞いて、サランディール城にある秘密通路やその入口のいくつかについては知っていたわ。

きっと私が知らなくて、国王と次期王の位にある人にしか伝えられない通路もたくさんあるはず。

だけど……リッシュが言う様に、本来ならジュードやダルクさんの様な人が、その内の一つでさえ、知っているはずはないの」


ミーシャが真剣な表情で言う。


俺は口をへの字に曲げたまま、問いかける。


「何か心当たりとかねぇのか?

ダルクの事は……とりあえず置いとくにしても、ジュードがその通路の事を知ってた理由に心当たりは」


ミーシャはそいつに首を横に振った。


その表情が、どっかしょぼくれて見える。


「もしかしたら──私の一番上の兄──アルフォンソがその入口を知っていて、私をそこへやる様にジュードに言ったのかも、とは思うのだけれど……。

リッシュが怪我で寝込んでいる頃に、そう思ってジュードに聞いてみた事があったの。

だけど、何も答えてはくれなかった。

地下通路の事も内乱の事も──兄がどうなったのかも……あの日の事で、自分に話せる事は何もない、と言われてしまって」


ミーシャの言葉に──俺はミーシャと同じ様に眉を寄せたまま、考えを巡らせた。


あの(・・)ジュードがミーシャから話を求められて、何も答えなかった?


ミーシャに一言『お願い』と言われたら、心底嫌そうにしながらも俺に飯まで食わせてみせよーとする、あのジュードが?


んな事が、あり得るかよ?


それも、『話せる事は何もない』?


知っているのに、教えたくねぇ。


教える事が出来ねぇ……ってか?


何でだよ?


意味が分からず口を曲げたまま考え込んでると、俺の背後でドゴンッと一つ大きな音が鳴る。


続いて、「きゅうぅ」って情けねぇ鳴き声も。


俺はもしかしてと思って立ち上がり、俺の部屋に続く戸をゆっくりと開ける。


と、戸の前に犬カバがばったりと倒れて床に伸びていた。


「おっ、おい、犬カバ?」


若干心配になってしゃがみ込み、犬カバの両脇を持って抱え上げる……と。


くひー、ずぴー、といつも通りのヘンないびきと、まったく何の問題もねぇ呼吸が出る。


ミーシャが俺のすぐ横に膝を落として俺と同じに犬カバの様子を見る。


俺は思わずミーシャと顔を見合わせて、二人一緒に笑っちまった。


どーやら犬カバのやつ、寝ぼけたまま歩いて部屋の戸に激突したみてぇだ。


頭にぷっくりタンコブが出てきたけど、それでもぐーすかそのまま寝込めちまうってんだから、流石としか言いようがねぇ。


俺はやれやれと半分呆れながらも、肩をすくめてミーシャに言う。


「──とりあえず、俺らも寝るか。

ジュードの事は、俺もさりげな〜く探ってみるよ。

あいつの事だからそう簡単にボロは出さなさそうだけど……案外、部外者の俺にはうっかり口を滑らすとかあるかもしんねぇし。

まぁ、俺に任せとけ」


最後はへらっと笑って言ってやると、ミーシャが憂い混じりに「……うん」と一言答える。


俺は──ちょっとでも何か気を逸らしてやりたくて、へらっとしたままいつもの軽〜い調子で付け加える様に言う。


「あっ、もしまた悪い夢見そうで怖くて眠れそうにねぇってんなら、俺が朝まで添い寝してやろ〜か?」


へら〜っとしながら冗談半分、もう半分は──それもちょっとはアリだったりして、と思いつつ聞いてみる。


と──ミーシャが目をぱちぱちと瞬いて俺を見つめる。


「え?」


たった一言で問いかけられた声が──ミーシャのこんな声初めて聞いたってくらいぽけっとしている。


んな事聞かれるなんて、まったく思ってなかったみてぇな感じだ。


それに、もう一度瞬き。


その目があんまりにも純真無垢な目だったもんだから──俺は自分で言った言葉だってのに、何だか恥ずかしくなって ぎこちなくそそくさと明後日の方を向いた。


俺のこの口は……また何言ってんだよ、まったく。


……顔から火が出てんじゃねぇかってくらいに熱い。


「あっ、いや、これはその、ヘンな意味じゃなくって、俺はただミーシャに元気出してもらおーと思って言っただけで……」


変にあせあせしながらしどろもどろに言う──と、ミーシャがほんのちょっとの間を置いて……ふふっと穏やかに笑う。


「──ありがとう、いつも気遣ってくれて。

でも、大丈夫。

リッシュと話せてちょっとすっきりしたし……。

きっとよく眠れるわ。

私より犬カバと一緒に寝てあげて。

きっとリッシュの気配がなかったから、寝ぼけながらこっちに来ようとしたのよ。

本当にリッシュの事が好きなのね」


心底どこにも何の疑いもなさそうに、ミーシャが穏やかに微笑んだまま言う。


俺は何だか──騙してるような、申し訳ねぇような、ガックリしたような気持ちで「はは……は、そーかな?」と両手に持ち上げたままの犬カバの間抜け面を見る。


もちろん、この犬カバの間抜け面よりもっと間抜けなのはこの俺だ。


部屋の電気を付けてなくって、犬カバが寝込んでてほんと良かった。


でなきゃたぶん赤くなっちまってるだろうこの俺の顔をミーシャに気づかれちまってただろうからな。


けど………う〜ん……。


まぁミーシャがこーやって微笑んでくれるんならなんだっていいんだけどよ。


いいんだけど……。


ちょっともこれっぽっちもドキッともされねぇくらい、まったく相手にされてねぇ感が、ちょっと悲しい……気もする。


俺、ちゃんとミーシャん中で男の扱いになってんだろーか。


こーまでまったく警戒されねぇってのは信頼されてるからなのか、それとも……?


いや、考えてると虚しくなってきそうだ。


俺は無理にへらっと笑ってその場をやり過ごしたのだった──。


◆◆◆◆◆


ミーシャはパタン、と後ろ手に部屋の戸を閉める。


リッシュとお休みを言った後、一人自室に戻ったのだったが……戸に背を持たせかけて、両手を口の前まで持ってくる。


触れた顔が、焼ける様に熱い。


多分相当赤くなってしまっているだろうが……リッシュに気づかれなかっただろうか?


困った様にぱちぱちと瞬きをして、軽く天井の方に目線を上げる。


気持ちを落ち着ける為に一つ息をついた。


とたん、


『あっ、もしまた悪い夢見そうで怖くて眠れそうにねぇってんなら、俺が朝まで添い寝してやろ〜か?』


先程のごくごく軽〜い調子のリッシュの声が蘇る。


リッシュの言葉には、たぶん大した意味はなかっただろう。


本人も変な意味じゃないと言っていたし。


けれど──


一瞬、どきっとしてしまった。


ミーシャはもう一度息をついて、ぽふんとベッドの上に転がった。


なんだかどきどきしてしまって、また眠れそうもない──。


◆◆◆◆◆


次の日──


俺は昨日の夜の若干の落ち込みからも回復して、


「いらっしゃいませ〜」


とにっこり笑顔で微笑みながら、カフェでウェイトレスの仕事をしていた。


おかげさまであの後は何の夢も見なかったし、ぐっすり眠れて目覚めもバッチリだ。


ミーシャも……たぶん少しは寝れただろう。


今朝見た感じじゃ顔色も悪くなさそうだったし、特に思いつめた様子もなかったからな。


そして、昨日の話の肝心(かなめ)のジュードだが……今日はまだ姿を見てねぇ。


いつもは朝、ギルドが開くのとほぼ同じ頃にやって来て、ミーシャのお付きを始めるってのによ。


ミーシャじゃねぇけど、確かにあいつ、この頃本当に行動が怪しいんだよな……。


今日も今、ミーシャと行動を共にしてんのか怪しいところだぜ。


昨日は『任せとけ』なんて安請け合いしたけど……あいつからあの内乱の日の事を聞き出すなら、なんか上手い話の振り方考えねぇと警戒されて何も話しちゃくれなくなりそうな気がする。


さて、どーしたもんかね……。


な〜んて事を頭の隅に考えながら、仕事の方はきっちりしっかりこなしている……と。

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