人の皮を被ったモノ 【月夜譚No.40】
上擦った声が、緊張と恐怖を雄弁に物語っていた。震えるその声を傍らで聞いていた少年もまた、握り締めた拳に力が入る。
目の前にしているのは、果たして本当に人間なのだろうか。姿形は確かに人間だ。しかし、このどす黒い気配と威圧感は、到底ただの人間には出せない代物のように感じる。
先ほど発せられた声に応えるように、〝それ〟がにやりと犬歯を見せた。途端にぞっと背筋が凍る。何をされたわけでもないのに、恐怖が身体中を這いずり回る。
早くこの恐怖から脱したい。〝それ〟の手の届かない場所へと逃げてしまいたい。それなのに、地面に縫い付けられたように足が、身体が動かない。
この苦痛から逃れられた時、自分達は一体どうなってしまっているのだろう。不穏な未来しか想像できず、恐怖は更に募るばかりだ。
〝それ〟が片腕を天に掲げた。少年は目を瞠る。もうお終いだ――その場にいる誰もがそう思った。