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場所は良く覚えていない

作者: ゴエモン

作者の実体験です

場所はよく覚えていない


その古民家の前を通った時に

「常時内覧可 予約不要」

という張り紙を見て

内見がいつでもできる物件なのかな?と思い入ってみる事にした。

ちょうど向かい側から歩いてきた白いワイシャツのサラリーマン風男性から、

「あなたも内見ですか?」

と声をかけられた。

「ええ、そうです」

背広を小脇に抱え、黒いブリーフケースを持ち、ニコニコととても愛想が良い。

男性は古民家のインターフォンを押し、

「お電話した〇〇です、本日はお世話になります」

と、直ぐに竹の格子戸が開き、品の良さそうな70〜80代だろうか、お婆さんが出迎えてくれた。

「私は外の張り紙を見て来たのですが、あ、石川と、申します。内見しても良いですか?」

どうぞどうぞ、とお婆さんは内に促してくれた。

入って直ぐにL字のガラスに仕切られた作業場が見える。

蕎麦を打つ所と一瞥してわかる。

数本の麺棒と蕎麦包丁、更に数柄の包丁が揃っている。

どの包丁も手入れが行き届き、しっかりした職人像が窺える。

なんでも、蕎麦を打っていた大将であるお婆さんの旦那さんが亡くなったので、お店をたたむことにしたんだそうで。

住居も兼ねているのだろう、客席以外の部屋には生活感がまだ残っている。

張り替えてまだそれ程経ってないであろう畳みに、タンスや戸棚が鎮座する。古いが決してボロいわけではなく、年代を感じさせ良い味わいを醸し出す古民具である。


部屋を見ていると10代半ばと20代半ばの女性に挨拶された。お婆さんの娘さん?いや孫娘かな?と思いつつ、宜しくお願いしますと返す。

サラリーマン風の男性はただでさえ愛想が良かった表情に、更に磨きをかけ女性達と話し始めていた。

私はお婆さんに許可を得て、スマホで家の中の写真を撮り始めた。もちろんお婆さん達が写らない様に。


と、そこである違和感に気付く。撮った写真の画像がどうにも汚ならしい。

畳みは毛羽立ち、味わいのあったタンスや戸棚は古民具ではなくただボロい。疑問に思いながらも辺りを見ると、縁側から小さな日本庭園風の庭が見える。

苔むした石燈篭に、丁寧に刈り込まれた木々が風情を感じさせる。

頭をよぎった違和感を余所にして、庭に出てみることにした。

そこでは小鳥がさえずり、蝶が舞い、植木に目をやれば、三本角の黄色いカブトムシっぽい珍しい虫がいる。

不思議な庭だなぁと思いつつ家屋の方に目をやれば、縁側座ったお婆さん達とサラリーマン風の男性が楽しそうに歓談している。

何を話しているのだろう。

でも、なんか良い光景だ。

失礼かもしれないが許可を得ずに撮影しようとスマホを向けると、画面には男性しか映っていない。

あれ、おかしいな。

そこには、男性の他お婆さんと女の子が二人いるはずなのに。

いや、それどころか縁側ボロくね?

ん、まさかね

今度はスマホを庭に向ける


苔むした石燈篭?いや、これはただの崩れた石燈篭だ


丁寧に刈り込まれた木々?いや、ただの枯れ木だなこれは


小鳥や蝶?いや、図鑑でしか見たことないような、大人の腕程もある古生代のトンボのような虫?がこちらに大きな口を開けている。口ではなく顎だ?知らん


珍しいカブトムシ?生ゴミのような腐肉のような得体の知れない何かに群がる巨大なウジ虫だ


再び縁側に目を向ける。

男性と3人の女性達はまだ、楽しそうに話している。

内容は聞こえない

スマホを向ける

男性だけが1人で喋っている

朽ち果てたあばら屋で

もう、駄目だ

お婆さん達に挨拶もせず、男性に声をかけることもなく、私はただひたすらその家を飛び出た。



2020年6月29日早朝 備忘録がわりに

めさめさ怖かったです

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは恐ろしい体験ですね。 ゾッとしてしまいました。 その後この家はどうなったんでしょうか。 気になります。 話しまくるサラリーマンが一層不気味に思えました。 作者様の体験談というのが、よ…
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