~成仏した来訪者の来訪~
取り急ぎ、『西音寺尊とみことの物語』の続編を投稿いたします。
その日、みことが、西音寺尊の事務所を訪ねてきた。
みこと「やっほー!」
尊と『巫女』がいつも通りそれぞれ、インターネット、読書をしていた。
みこと「あれ?誰か来るんじゃなかったっけ?」
『巫女』が微笑む。そこで、事務子ちゃんから、尊の事務所に電話があった。
事務子「来た。」
尊「あーあ。」
みこと「行こうか?」
尊は重い腰を上げて立ち上がった。
尊「『巫女』のお姉ちゃんはここにいてくれ。」
すると、(《》内は韓国語)
《私が一緒に残っています。》
と声がして、扉が開いた。
『巫女』の上司の女性であった。
尊「おねがいする。」
尊はそういうと、みことと、みことの法律事務所に向かった。
尊「ずいぶんとぶしつけな来訪だ。」
事務子「『春夫』」
事務子ちゃんは、来訪者の名前を告げた。
ひげを生やしており、壮年層の男性のようだ。
みこと「それで、ご用件は?」
春夫「分かり切ったことを…。」
尊「は?」
みこと「え?もう一度お願いします。」
壮年層の男性は、躊躇を隠さなかった。
尊「お引き取り願っていいか?」
みこと「お引き取り願えますか?」
春夫が何か言おうとしたところで、尊が制止した。
尊「ふざけるな。ぶしつけにもほどがある。」
みこと「英国からのお戻りか何かでしょうか?」
尊は『春夫』を見ると明らかに渋い顔をしていた。
尊「図星か貴様。我々は、市民に対して物事の記し方というものを教えるもの。」
みことが頷く。
みことは、尊の左斜め後ろに立っている。
尊「まだ何か用でもあるのか?ちょっとふざけすぎているぞ貴様ら。用が済んだのなら帰れ。」
みこと「ラーメンなら出しますけど。」
みことはそう言って、事務子ちゃんの方を見た。
みことの弁護士事務所の事務の女性、こと『事務子』は黙ってうなずく。
みこと「出すことできるんだって。出しましょうか?ラーメン。」
尊「帰れ。」
何も言わない『春夫』に尊はそういった。
『春夫』はもじもじするだけで何も言わない。尊は事務子ちゃんの席に行き、
尊「事務子ちゃん、『折り紙』ってできるんだっけ?」
事務子「…できる。」
尊「じゃあ、ちょっと、今からいうもの作ってよ。」
事務子が頷くと、尊は、事務子の机に何か文字を書いた。
それを見て、事務子は、A4用紙を折り曲げて折り紙を始めた。
みことは尊の近くに行きながら、来訪者の『春夫』に言う。
みこと「お帰りにならないんですか?」
春夫「まだ話がある。」
みことは笑いながら言った。
みこと「話とは何でしょう?」
春夫「あなたにではなく、尊さんにある。」
尊「何でしょう?」
春夫「事務所には行けないのか?」
尊「貴様を入れるわけにはどうやらいかないようだ。話とは何か?」
尊は少し考えて笑った。
事務子「できた。」
事務子は、かぶとのようなものを折り紙で造り上げた。
みこと「うわ、うまーい。何それ。」
尊「『オルテガのかぶと』だ。」
みこと「…。」
みことの脳裏に、『巫女』のうつむき加減の微笑みが伝わった。
みこと「…うん、まぁ、『何かある』ことくらいは分かるわよ。」
尊は、『春夫』の方を向き、
尊「かぶってみるか?それとも、要件を話すか?」
と言った。
春夫「辞退してほしい。」
尊「何をだ。」
春夫「分かりきったことを言うな。」
尊「『星』の命に逆らえというのか。」
春夫「必ずしも『星の命』とは言えないはずだ。」
尊「それでもかまわん。今更逐一星の命を受けて良いなら受けても構わん。」
春夫「やめてほしい。」
尊「であれば立ち去れ。お前を、これを用いずして消す方法もあるのだが…。」
春夫「不敬である。」
尊「『正室』の『声』に逆らえと言っている者がいる。」
《成仏せよ。》
どこからともなくそう声が聞こえてくると、『春夫』は黒い炎に包まれ、この物語の世界から消え去った。
みこと、尊、事務子の三人が気付くと、尊の事務所に戻っていた。
そこには、『巫女』と『巫女』の上司がいた。『巫女』の上司は驚いた表情をした。
《今日は、みことの法律事務所は閉鎖した。》
とどこからともなく声が聞こえてきた。
みことは、尊のつくえの左側に行き思いっきり机を叩いた。
尊「…分かる。」
みこと「冗談じゃないわよ。」
尊「『正室』の『声』に逆らえというのか、といったら成仏した。」
尊が『巫女』の上司にそう告げると、『巫女』の上司は幾分怒りの表情を見せた。
尊「そういう来訪者だとは思ってたけどな。」
みこと「その言葉、ちょっとうちの事務所に掲げとく。」
そういうと、事務子が頷いた。
すると、尊の事務所の出入口の扉の向こうで声がした。
春夫「頼む!」
懇願しているようだった。
尊「ここにまで来るな。お門違いだ。『正室』の『声』に逆らえというのか?」
すると、『春夫』の声はしなくなった。『巫女』の上司がこういった。
巫女の上司《我が国の言葉をよく理解していない連中が多いですね。》
尊「面目ない。そういうことだ。成仏すべきものは成仏せよ。」
『巫女』がいくぶん、不安そうにしている。
尊「心配するな。」
みことがうなずいた。
尊「さて、要件は終わった。『巫女』の姉ちゃんの上司におかれては、帰還されよ。」
巫女の上司《はい。そうします。》
『巫女』の上司は、再びひとりでに出入口の扉を開かせ、探偵事務所を出ていった。
いつも通り、両手を点に掲げて瞬間的に帰還されたらしかった。
尊「さてと、俺達も帰るか?」
巫女《先ほどの方は、どういった方だったのでしょう?》
尊「気になるか?」
巫女《はい、少し。》
尊「いずれ分かる。心配する事は無い。無理に知ろうとしたところで、良いことはない。」
みことが頷いている。
『巫女』はみことが頷いているのを見て、何も言わなかった。
『巫女』を、三人で、みことのマンションに送った後、事務子ちゃんと別れて、みことと尊で帰っていると、いつもよりなんだか、帰宅する道のまわりが騒がしかった。
引き続き、ご愛読の程、よろしくお願いいたします。
ことそばらすか。