~『巫女』と『巫女』の戦い~
『西音寺尊とみことの物語』の続編を投稿いたします。
みことがその日、勤務途中に気を紛らわそうと、弁護士事務所の外に出て背伸びをしていると、
暗くなった夜空から、再び、先日見た女性が舞い降りてきた。
みこと「…。」
そして再び、西音寺の探偵事務所に入って行った。
みことも後を追うべきか悩みつつ、西音寺の探偵事務所の入り口を眺めていた。
西音寺の探偵事務所の二階の入り口が再びひとりでに開くと、
『巫女』の女性はその姿を確認し、スクッと立ち上がり、西音寺の席から入り口をつなぐ通路の間に入り、西音寺の席の手前まで後ろ向きに引き下がった。
西音寺は、ちょうど立ち上がっていたところであった。
その『来訪者』が事務所の中に入ると、後ろの入り口の扉はひとりでに閉ざされた。
『来訪者』は、その日も、『巫女』の女性と似た服装をしている。
白と黒がベースの、日本国では見当たらない服装である。
来訪者の女性は、足音を立てるでもなく、スススッと前に歩き、西音寺尊から見て、『巫女』の女性の右斜め前で立ち止まった。
尊「どうですか?日本国は、少しはご覧になりましたか?」
来訪者の女性《はい。幾分拝見させてもらいました。》(《》内は韓国語。)
『巫女』の女性は、その『来訪者』の女性に対し頭を下げたまま立っている。
『来訪者』の女性は、その姿を鋭い目線で目視した。
尊「今日はどのようなご用件か聞いて宜しいか?」
来訪者の女性《はい。今日は、『未来志向の話のみに差し控えさせてもらいたい。』と申し上げに参りました。》
尊「『未来志向』というと?」
来訪者の女性《これから生じる『新たな影響』のみの話に限定をお願いしたいという趣旨です。》
尊は何も言わずに頷いた。
尊「理解しうる。賛成と言える。」
来訪者の女性《ありがとうございます。》
来訪者の女性は、再び、『巫女』の女性に鋭い視線を向けた。
尊「ところで、『新たな影響』というと、どういうものが考えられるのか?」
来訪者の女性《さぁ、それは私には分かりかねます。ただし…。》
尊「ええ。分かって居ます。」
来訪者の女性《私の部下については…。》
尊は『巫女』の女性の方を見た。『巫女』の女性は、『来訪者』の女性に対し頭を少し下げたまま立っている。
尊「もうしばらくいらっしゃるのではないでしょうか?」
来訪者の女性《そうですか…。お前はどう思うのか?》
巫女《そうしようと考えています。》
来訪者の女性は、尊に対し、一度深く頭を下げた。そして、『巫女』の女性に対し、より明らかな『にらみ』を見せた。
尊は幾分笑っている。
『来訪者』の女性がそれに気づいて尊の方を見た。
尊「失礼。」
来訪者の女性《なぜこのような『天命』が下されたのか、わかってはいるのか?》
『来訪者』の女性は、『巫女』の女性に厳しい口調で尋ねた。『巫女』の女性はこう答えた。
巫女《詳しくは分かって居ません。》
来訪者の女性《お前に対しては、わたしからも聞きたいことがある。お前は気をしっかりと持っていなければならないのに、この状況は一体何なのか?》
巫女《申し訳ございません。》
来訪者の女性《聞きたいことが山ほどあるというのに。》
尊「…そうしてほしい。」
西音寺尊はつぶやくように言った。
『巫女』の女性は、来訪者の女性に頭を一度深く下げた。
『来訪者』の女性は、笑みを浮かべ、尊にこう言った。
来訪者の女性《少し、冗談抜きに、この者には聞きたいことが山ほどございます。》
尊「今この場でというわけにはいかない。」
来訪者の女性《『オリオン座』とは何でしょうか?》
尊「調べたのですか?」
来訪者の女性《はい。偽りようがございません。》
尊「この『巫女』の方の『召喚』の起点に関連しているであろう場所。」
来訪者の女性《なぜ、この者なのでしょうか?》
尊「冗談が悪すぎる。」
来訪者の女性は笑みを浮かべたまま頭を下げた。
来訪者の女性《いつ、『召喚』とやらが解かれるのでしょうか?》
尊「大韓民国の方々が、この謎に十分にたどり着いた時ではなかろうかと考えられる。」
来訪者の女性《…私は、もうしばらく、日本国に居ようかと考えております。》
尊「好きになさるがいい。」
巫女《ほかの者たちは…。》
来訪者の女性は、『巫女』の女性をにらんだ。
尊は笑みを浮かべてその表情を見る。
来訪者の女性は笑みにかえて、尊の方に少しばかり頭を下げる姿勢に戻した。
来訪者の女性《外に、隣の建物の女性を待たせてしまっているようです。》
尊「…そうですか。」
来訪者の女性《もう来る必要がなければ幸いです。》
『巫女』の女性は、西音寺尊の方を見た。
尊「この『巫女』の方は、『天命』に基づいてのみ、お戻しする。」
来訪者の女性《抗いようがございません。では、私はこれで。》
『西音寺尊』は、一度、その来訪者の女性に頭を深く下げた。
来訪者の女性が、スススッと後ろに下がると、出入り口の扉がひとりでに開き、来訪者の女性がそとに出ると、扉は閉ざされた。
来訪者の女性が外に出ると、『みこと』が隣の事務所の外で立ったまま、『西音寺尊』の事務所の入り口を見ていた。
来訪者の女性が、両手を上に掲げると、一瞬にして、その女性は姿を消した。
みことはようやく、西音寺尊の事務所の中に入った。
『巫女』の女性は、自席に座った状態でみことを確認すると一度深く頭を下げた。
表情は幾分恐縮していた。
西音寺尊は、何も言わず、窓の外を眺めていた。
みこと「どうだった?」
西音寺尊はその声でようやく振り返り、
尊「あ?何がだ?」
と答えた。
みこと「さっきいた女の人。」
尊「『巫女』の姉ちゃんの上司だそうだ。」
みこと「ふーん…。厳しそうなひとだね。」
みことが『巫女』に言うと、『巫女』は少し笑顔になって
巫女《はい。》
とだけ答えた。
尊「そっちの事務員のお姉ちゃんは?」
みこと「え?いつも事務所にいてくれてるよ?」
尊「そうか。」
『巫女』の女性が西音寺尊の方を見た。
みことには、その時、厳しい『巫女』の上司の顔が、『巫女』に伝わっていたような気がした。
『巫女』は、幾分恐縮したような表情に変わり、机の上に視線を移した。
その時、先ほどまでいた、来訪者の女性の声が、三人に聞こえてきた。
来訪者の女性《やはり、その娘をたやすく置いておくわけにはいかない気がします。》
みことは苦笑いを浮かべている。
尊「やめてほしい。」
来訪者の女性《日本国とは!》
『巫女』の女性が恐縮している。
尊「やめてほしい。」
みことと尊は、互いに顔を見合わせるでもなく、苦笑のような笑みを浮かべている。
尊「『部下』に聞きたいことがあるんだと。」
みことは、「ほうほう」と頷いた。
来訪者の女性《『未来志向』の話だけという点、お願い申し上げます。》
尊「承知仕った。」
みことが笑っている。
『巫女』は恐縮している。
みことは、『笑み』を『巫女』に浮かべて、お茶を入れにポットの方へと向かっていった。
引き続き、ご愛読の程、よろしくお願い申し上げます。
ことそばらすか。