五 幕間の弐
神社から自転車を走らせ日もだいぶ傾いてきた。逢魔が時には少し早い時間。川沿いを登り少し小道に入る五分もすると赤い屋根の一軒家が見えた。窓から明かりが見える。そのままガレージに入り自転車を停める。そこから三メートルの位置に玄関。チャイムを鳴らした。
「はい。どちら様ですか? 」
「ただいま」
「おかえり。今開けるね」何秒かしてドアが開く。そこには変わらない母の姿があった。
「よく帰って来たね」
「うん」久しぶりの実家。別にホームシックだった訳ではないが少し嬉しい。
「ごはんもうすぐできるからね」
「ありがとう」そう言い靴を脱いだ。
「あんた少し太ったんじゃない」
「えっ」唐揚げを頬張りながら少し考える。一人暮らしを始めてから自炊をよくする様になり食べる量は減ったと思っていたが。
「ちゃんと食べているようで安心したよ」母は笑いながら箸を進める。「そうそうお父さんは今日仕事で帰らないから全部食べていいよ」
「うん」少しばかりおかずの量は多いが、今日はたくさん移動したのでどんどん口に入っていく。
「お風呂も沸いているよ」
「ありがとう」
湯船で肩までぬくもると外気温は高いのにすごく気持ちよい。自転車をこいでパンパンになった足の乳酸が消えていくようだ。脱衣所から母が声を掛けてきた。
「桃剥いたからね」
「ありがとう。今行く」タオルで火照った体を拭く。ここは都会と比べて標高が高いため湿度が低い。拭いたそばから乾いていく。暑い事には変わりないが、汗を流すだけでこんなにも心地よいとは。
「先食べてるわよ」
「今行くよ」さあ桃が待っている。
桃を頬張りながら母に近況報告。たわいもない話。大学での成績。母は頷き時折質問をしてきた。テレビでニュースを見ながらその内容について話もした。
最後の桃を食べたところであくびが出た。時計の短針は北北西を指していた。
「疲れてるから今日はもう寝なさい。二階に布団を敷いておいたから」
「そうするよ」
「歯は磨きなさいね」
「分かってるよ」そう言い洗面所へ向った。歯磨きもそこそこに、二階の自室へ。久しぶりに見た自分の部屋はあまり変わっていなかった。ただ少し物置にされつつある。
しかし家に帰って明かりが点いている、温かいご飯がある、お風呂が沸いている、布団が敷いてある。こんな当たり前だと思っていたものがこんなにありがたいとは。世のラッパー達が親に感謝する気持ちも良くわかる。
ガチャとドアが開く。振り向くと母が「明日おばあちゃまに桃を届けてくれる。あと片付けも手伝ってあげてね」
「わかったよ」
「それだけ。じゃあお休みなさい」
「うん。お休みなさい」そう言い電気を消す。
暗い部屋で物思いにふける。
見える意味って何だろう。修道さんも意味とか言ってたっけ。「意味かぁ… 」考えがまとまらないがそのまま意識が遠くなり眠りに落ちた。




