三 幕間
手にお礼を言ったあと男は修道さんにも深く頭を下げた。「申し訳ないですけど、これから出張なのでそろそろ出なければなりません。謝って… 」
話を遮り、修道さんが「貴方の誠意は十分に伝わりました。仕事で忙しいでしょう。私のことは気にせずに行きなされ」
「失礼します。また時間を見つけて来ます」また深く頭を下げ、そして忙しなく走り去っていった。
「社会人って忙しそうだな」と僕。自分もいずれは大学を卒業し、ああなるのかと思うと少し憂鬱と思いすぐ考えるのをやめた。
居間で修道さんと冷たい麦茶を飲んだ。一呼吸おいたところで修道さんが切り出した。
「さて、成瀬君。君には見えるのだろう。普通の人には見えないモノが」
「わかりますか? 」
「君の言動や行動からそんな気がしてな。昨日の会話も嘘ではないが何か隠していることがあるのではと。勘ではあるが」
修道さんは自分よりも多くの人と接してきただろう。その経験が僕の浅はかさを見抜いたのだ。
「ごめんなさい。大学の研究というのは嘘です。ただ自分が人と違うモノが見えるのに悩んでいて… 」
「いいのだよ。そう簡単に人に話せる悩みではないだろう。それに素直に謝れる人に何を怒ることができようか」
「すみません」僕はうつむいた。
「そういう時はありがとうと言うといい」
「えっ」
「多く人はありがとうと言えばいいタイミングで、すみませんを使うが、ありがとうと言えばお互いにいい気持ちになれる。君もありがとうをよく使うといい」僕は顔を上げ、
「ありがとうございます」と言い直した。
「うむ」そういうと修道さんの顔は優しく微笑んだ。




