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013 決着

 4戦目は、更に明確な完敗だった。

 試合開始から20秒ほどで、濃霧(のうむ)の日本刀が俺のスイカを上下に両断していた。

 不本意ながらどう明確だったのか説明すると、俺の得物も日本刀だったのだ。


 3戦目に関しては、狙撃が外れていればまた俺が勝っていたかも……と言えないこともない。

 しかし、同じ武器で正面から瞬殺されてしまったら言い訳のしようもない。


「ちょっとだけ指の調子悪かった可能性、ありますね」

「ほんまに~?」

「っていうか今まで足でやってましたし。そろそろ手ぇ使いますから」


――逆3タテきちゃう?

――どっちもがんばえ~

――まひるが手を使うならまだ分からんな

――足で他人のキーボード触るメイド、おる?


 せいぜい強がってみせるのが精一杯だった。

 これでもショックを受けながら頑張ってボケたのだから、むしろ褒めてほしい。


 自己のメンタル管理も対人ゲーマーとしての必須スキル。

 ついでに言えば、おそらくは配信者としても必要な能力だ。

 次の5戦目で泣いても笑っても最後。

 急に上手くはなれないのだから、全力を尽くすのみ。


「最後なんやけど、武器決めとかん? ラス1で相性ゲーもどうかと思うんよね」

「いいですよ。どれにします?」


 平等な条件でやろうということであれば、俺だけ得意な武器であるとか、濃霧だけ得意な武器であっては意味がない。


「これでええやろ」


 濃霧はこちらのキーボードに手を伸ばすと、テンキーの3を押した。

 ほぉ。本当にそれでいいんだな?


「後悔しても遅いですよ」

「させてくれるん?」


 不敵に笑い、試合開始のボタンを押す濃霧。

 ごく短いロードを挟み、すぐさま最終戦が始まった。


 ステージは、体育館。

 何の障害物のない四角いフィールド。

 最も狭くシンプルな戦場だ。


「ガチタイマンにはちょうどいいですね」


 そして装備は――竹槍。

 初戦でも使った、俺の最も得意な武器。

 濃霧が敢えてそれを選択した理由など、考えるまでもない。

 俺の土俵であろうと自分が格上だという自信の表れだ。

 

 最初からお互いの姿が見えているので、俺達は開幕から正面に飛び出した。

 これは自分から攻めてやろうという気持ちだけの問題ではない。

 この手の対戦ゲームの常として、戦場の中央側に陣取るのは基本。


 中央ではない。中央『側』だ。

 背後にスペースがあれば、いざという時に後退することができる。

 敵を壁際に追い込めば、間合いを詰めるも距離を取るも思いのままだ。


「ほっ」


 遠間から牽制の突きを繰り出すと、濃霧は退かず、斜め前に踏み込んで(かわ)す。

 俺が竹槍を戻すのに合わせて、一瞬にして間合いを詰めてくる。


 ほら。

 すぐそうやって、定石(じょうせき)を無視した動きばかりしてくる。

 リーチが強みの武器を持っているというのに、体当たりでもするかのような突撃だ。

 予想外ではあったが、問題無い。

 俺は長い槍が届くギリギリの距離を保って行動していたので、奇策にも見てから対処できる。

 慌てず、横に数歩移動して回避した。


「避けんといてよ」

「自分こそ」


 数合打ち合う。

 強い――が、やはり無駄が多いように思う。

 セオリーには理由がある。

 敢えてそれを無視するような動きは効率的でないのだ。

 この武器での『正解』の動きに関しては、俺は濃霧にだって譲るつもりはない。


「まひるちゃんの動きは性格が悪いなぁ」

「濃霧さんは性格が悪いですよね」

「おっ。殺したろ」


 物騒なことを口にすると、濃霧は再度、強引に距離を縮めてきた。

 俺は濃霧の大ぶりな攻撃を避ける。


「――!」


 決められる。

 濃霧が間近で隙を晒した瞬間、直感した。

 このタイミングであれば、彼女が槍を引き戻してガードする前に俺の攻撃が決まる。

 避けようにも攻撃後の硬直中だ。

 仮にこいつが世界で一番強くても、ゲームの仕様は変えられない。

 

 俺は勝利への確信をもって竹槍を突き出す。

 集中できている。

 槍の切っ先がスイカに真っすぐ向かっていくのがスローモーションに感じる。

 どうやっても攻撃を防ぎようのない濃霧は――


 竹槍から手を離した。


「え……?」


 身軽になった濃霧は、すいっと、こともなげに俺の一撃を躱した。

 そして、こちらのスイカを素手で殴りつける。


「おらぁ! 誰の性格が悪いって!? 言ってみ!!」


 このゲームはモードによって特に操作方法が変わることはない。

 であるので、1vs1でもバトロワ時と同様に武器を捨てることもできる。

 普通なら操作ミス以外ではありえないが。


 武器攻撃の隙を、その武器を捨てることでキャンセルする。

 タイマンの中でも限定的な状況でしか使えないテクニックだ。

 こんなシステムの裏を突くような技は、ルール・仕様といった枠の中で動く俺には思いつきようもなかった。


「濃霧さん以外いないでしょ!!」


 だが、ただ驚いて圧倒されるだけの俺ではない。

 まだ俺が有利だ。


 こちらのスイカは、ヒビこそ入ったもののまだ割れやしない。

 素手で相手を倒すには、かなりたくさん叩かなくてはならないのだ。

 俺の検証によると、クリーンヒットで3発。


「待てこら!」


 竹槍を拾いもせず両手を振り回す濃霧に対し、俺は数歩後ろに下がる。

 そこで背中が壁にぶつかり、ようやく体育館の隅に追い込まれていたことに気づいた。


「もう逃げられへんよ?」


 足が止まった際の隙に、2発目のパンチを叩き込まれた。

 頭上のスイカに大きな亀裂が入る。

 あと1発で死ぬ。負ける。

 

「あぁっ!」


 恐怖心にかられて、俺は情けない声を上げながら竹槍を横に薙ぎ払う。

 いつもの俺なら絶対にしないような雑な攻撃だった。

 それを低い姿勢でかいくぐった濃霧は、胸元で拳を構える。

 

 終わった。

 再び、過剰な集中によって自他の動きをスローに感じる。

 いや。今回は走馬灯か。

 濃霧はしゃがみこんだ状態から一気に飛び上がるようにして、アッパーカットを放つ。

 そして、とどめの一撃は――俺のスイカの真横を通り過ぎていった。


「あっ」

「えっ」


 空振り。

 必殺のアッパーを外し、空中で大きな隙を晒す濃霧。

 気付けば俺は、無防備になったスイカを貫いていた。


【辛勝でも勝ちは勝ち! 君こそがウサ王 of ウサ王だ!!】


 画面に勝利メッセージが表示される。

 3勝2敗。俺の、勝ちだ。


「うちの負けやね。とっといたネタやったけど、慣れんことはするもんやないな」

「えっ……あ……」

「勝ったんやからもっと喜ぶ!」

「わ、わーい!!」


――GG(Good Game)!!

――マジで最後の一瞬まで分からなかった

――武器捨てるのって硬直キャンセル?

――これアーカイブでまた見よう

――アッパーって発生フレ速いけど外れやすいんだよな

――2人ともお疲れ!!


 そこから先は、よく覚えていない。

 締めのデュオは、優勝した。

 その後のエンディングトークも、なんとか無難こなした、はず。


「次の配信はみなもとのコラボかな。ほいじゃみんな、また来てな~」

「お客様方、お忘れ物のございませんよう。多々良まひるでした」


 濃霧は配信ソフトを停止させた。

 それから配信画面を10秒ほどチェックし、こちらに指でOKサインを出す。


「配信切ったよ」


 視聴者は、最終的に5500人を超えていた。

 内容的にも数字的にも、大成功と言って差し支えないだろう。

 それでも。

 今この瞬間の俺にとっては、()()()()()はどうでもよかった。


「いや~、お疲れさん。お菓子食べるタイミングとかなかったなぁ」

「なんでだ」

「ん?」


 俺は、相手が初対面の女性であることも忘れ、感情に任せて叫んだ。


「なんで、わざと負けた!?」

もし面白いと感じていただけましたら、最新話下部の評価・作品ブックマーク・感想などよろしくお願いします。


活動報告もこまめにしていくつもりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう続きはお書きになられないのでしょうか、、、
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