011 提案
【君達こそがウサギの王、ウサ王だ!!】
20分後。俺達は優勝していた。
途中で何度も濃霧が無茶をして窮地に陥ったが、それでいて彼女が被弾することは一度としてなかった。
俺の支援がよかった?
それもなくはないと思いたいが、俺が少々ミスしていても結果は変わらなかっただろう。
濃霧には、敢えてピンチを作り、それを楽しむだけの余裕がある。
尋常ではない腕前だ。
――祝 杯
――つえぇwww
――話せるのはデカいね
――おめでとうございます!!
――1回で勝つとは
「はい、かんぱ~い!」
「乾杯! キャリーしていただきました!!」
エナドリの缶と紅茶のペットボトルをこつんとぶつけ合った。
サクッと1戦で勝てたので、まだまだ冷たい状態だ。
ひと口飲むと、口内で炭酸が弾ける。
炭酸飲料というのはこうでなくてはならない。
「次は私ももっと仕事します」
「や、まひるちゃんも働いてたよ」
そりゃまぁ……目を離すと1人で敵陣に突っ込んでいく相方がいたからな。
サポートは頑張ったよ。
とはいえ、目立っていたのはやはり濃霧だった。
こいつのプレイはとにかく派手だ。
俺は一気にエナドリを飲み干した。
次は自分も活躍しよう。というか、目立とう。
気合いを入れてマウスを握りなおした。
そして――
「はい、勝ち~」
配信開始から1時間後、俺達は3勝目を挙げていた。
土つかずの3連勝だった。
――強すぎるwwww
――3連勝!!
――こんなデュオ来たら諦めるわ
――最強コンビ生まれちまったよ
やはり濃霧は強く、暴力的で、それでいて華麗だった。
一方、2戦目以降の俺はというと――相変わらず、地味。
自身の名誉のために弁解させてもらうと、アグレッシブに行こうとしなかったわけではない。
だが、体に染みついたプレイスタイルはそう簡単に変えられるものではない。
堅実・効率的・冷静。
俺に限らず、上手いプレイヤーって普通はそういうものだろう。
なんとか暴れてやろうと突っ込んでもみたのだが、瞬く間に瀕死になり、濃霧に介護されてしまった。
それはそれで笑いには繋がったものの、そうじゃない。
俺だって獅子奮迅・八面六臂の快進撃を見せたかったんだよ。できるものなら。
「そろそろ折り返しやね。うちらだったら、このまま最後まで連勝しちゃうかもわからんな」
コラボは2時間前後を予定していた。
エンディングにトークを挟むとしてもあと2回、場合によっては3回ほどプレイできる計算になる。
視聴者数は増え続け、今や5000人にまで到達していた。
これは濃霧の配信の中でも歴代最高クラスらしい。
「そうですね」
流行が始まったゲームであること。
そのゲームのチームプレイ配信が貴重であること。
濃霧が人気Vtuberであり、また彼女のプレイが配信映えすること。
5000人ものリスナーが集まったのは、これらの理由が合わさってのことだ。
つまり。俺の手柄ではない。
たらればの話になってしまうが、コラボ相手が俺でなくとも、きっとさほど変わらない数字が出た。
相手によってはこれ以上になっていたかも分からない。
華麗な勝利を演出したのも、コメントを上手く料理したのも、トークで俺に絶妙なパスを送り続けてくれたのも。
全部、濃霧だ。
「あの、濃霧さん」
「ん~?」
「私……思いついちゃったんですけど」
この時、俺は焦っていたのだろう。
俺自身が何かを起こさなければ。何かしなければ。
そんな気持ちが溢れ出してしまったのだと思う。
でなければ――
「タイマン、やりませんか?」
ビビりの俺が、格上に喧嘩を売るような真似はしなかった。
「あっ、いや、よかったらでいいんですけど」
「ええよ。やろやろ」
返事は早かった。
今日一で嬉しそうな顔をしているように見える。
濃霧はロビーを解散し、タイマン用の部屋を立てた。
――超期待
――まひる、男を見せてやれ! あれ? 男?
――タイマン見たことないな
――格付け始まっちまうのか?
このゲームには、バトルロワイアル以外に1vs1と2vs2のモードが用意されている。
バトロワほどではないが、1vs1もなかなか盛り上がっている。
ちなみに2vs2はというと、やはりオフラインでなければ身内とチームを組めないこともあり、あまり流行っていない。
「得意なん?」
「そこそこですかね」
これは、保険というよりは謙遜のつもりだった。
はっきり言ってバトロワより得意だからな。
俺は元々、格闘ゲームや対戦アクション上がりのプレイヤーだ。
今は多対多のゲームが流行なので、あまり腕を披露する機会がないが……配信映えもしづらいし。
FPSやTPSに比べると、格ゲーとかって何をやってるのか伝わりづらいんだよなぁ。
「じゃ、3先やってからもっかいデュオやって終わりにしよか。マップはランダムな」
「はーい」
3先。3本先取の略だ。
正直ありがたい。
何が助かるって、これなら自分より強い相手にもワンチャン引ける確率はかなり高い。
1戦は長くても数分、短ければ数秒で終わるので、5戦目までもつれこんでもそう長くはかからないのもいい。
「な~に使おっかな」
「私はスナですかねぇ」
「絶対ウソやろ」
武器は自由に選択したものを1種類だけ持ち込むことができる。
キーボードの数字キーで選ぶことができるので、相手に知られることはない。
つまり、この時点で読みあいが始まっているわけだ。
相性を気にせず、とにかく得意な武器を選ぶもよし。
何が相手でも安定して戦える武器を選ぶもよし。
とりあえず、スナイパーライフルなんて選ぶべきではない。
狭い戦場では1発外したらほぼ終わりだ。
1戦ごとに相手の使える武器や戦い方を知ることができるので、心理戦もより深くなっていく。
初戦は情報がないので、俺は……アレにしよう。
「選んだ?」
「はい」
「よっしゃ。いくで」
試合開始ボタンを押す濃霧。
画面はロード状態へと遷移した。
オフラインでの対戦なので、読み込みはほんの数秒だ。
俺は、ゲーセンに通いつめていた在りし日を思い出し、集中する。
マップはランダム設定なので、始まった瞬間に把握しなければならない。
「手加減せんでええよ」
「できるわけないでしょう」
5000人が見守る中、1戦目が始まった。
ステージは――森か。
障害物となる樹木が多いため、遠距離武器だと戦いにくいことだろう。
俺の武器は竹槍なので問題ない。
中威力、軽量、そして近距離武器の中ではリーチが長い。
そして俺が得意ということもあり、相手の武器も戦場も分からないタイマンには最も適しているはずだ。
遊び無しの、ガチで勝ちにいく選択肢。
このモードはマップが非常に狭く、2分もあれば外周を一回りできてしまう。
なので、木々が視界を遮っているとはいえすぐに会敵することになる。
俺は太い木の陰から頭を半分出して様子を窺い――
ターンッ! と銃弾が耳を掠めていった。
「えっ!?」
「あら、外したわ」
まだかなり遠いはずだ。
この距離で届くってことは……視認できずとも間違いない。
「お前がスナ使うんかい!」
「きゃっ、まひるくん急に怒るの怖~い」
「死ぬほどかわいい声を作るな!!」
濃霧よ。流石に俺を甘く見すぎだろう。
思わず変なキレ方しちまったよ。
スナイパーライフルは、超長射程・高威力。
その代わりにリロード時間が極端に長い。
バトロワでは文句無しの強武器だが、タイマンで使うものではない。
動いている相手に当てるのは相当難しいうえに、リロード中にすぐ近づかれてしまうのだから。
俺は弾が飛んできた方向に走る。
――見つけた。
あとはマップ中央側をキープすることを意識して、壁際に追い込めばいい。
武器の重量の関係で俺の方が足が速いので、もうどうやったって逃げ切れるはずがないのだ。
リロードが完了する頃には、俺は濃霧に肉薄していた。
「せいっ」
スイカを狙って竹槍を突き出す。
濃霧は銃身で受け止めるが、遠距離武器のガードは性能が低い。
ガードされたこちらが先に動けるので、反撃の隙を与えずに攻撃を続ける。
流石のテクニックで何発か防がれてしまったが、10秒後には濃霧のスイカに竹槍が突き刺さっていた。
【まずは1勝! 勝って兜の緒を締めろ!!】
勝利メッセージが表示される。
思ったよりも際どかった。
濃霧のリロードも完了していたわけで、詰め損ねて近距離で狙い撃たれたら分からなかった。
それでも勝ちは勝ちだ。
「ま、こんなもんですよ」
「まひるちゃん、わりと容赦ないなぁ」
「手加減無しって言いましたから」
――スナに全力でいって勝ち誇るの草、でもそういうとこ好きだぞ
――ステージも武器相性もまひる寄りだったね
――流石に勝てんか~
――両方上手すぎてちょっと引くわ
「いくら濃霧さんでも、もうちょっと本気出さないと危ないんじゃないですか?」
「かもしれんねぇ」
リアルの方で濃霧の顔を覗き見るも、彼女に焦りは全く見られなかった。
『勝ててよかったね』と言わんばかりの微笑みを浮かべている。
これもまた一つのポーカーフェイスなのだろう。
……いいだろう。
その表情、俺が崩してみせようじゃないか。
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活動報告もこまめにしていくつもりです。




