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016 プチバズ

「は?」


 バグか?

 それとも何かの間違いで40人に減ったとか?

 スマホから見ただけではとても信じられなかったので、ベッドから飛び起きてパソコンでも確認した。

 YowTubeチャンネル登録者数、428人。

 間違いないようだった。


「なんで!?」


 寝てる間に、100人以上増えてるじゃねぇか!

 夢か?

 それにしてはマウスや椅子の感触がリアル過ぎる。


「これ、喜んでいいんだよな?」


 素直に諸手を挙げて小躍りしたいところだが、1人増やす大変さを知っているだけに、理由が分からないのが怖すぎる。

 最悪のケースとしては、寝ている間に何らかのきっかけで炎上していたとか。

 震える手でマウスを操作し、tuitterも開いてみる。


「ふぉっ……!」


 フォロワー数、783人。昨夜の配信終了時は300人だった。

 落ち着いて引き算してみよう。

 783から300を引くと――483。

 一晩で483人増えたわけだ。

 483人って、何人だ? 483人ぐらいか?


「落ち着け落ち着け。なんか理由があるはずだ」


 炎上以外であってくれ。

 俺は『+99』と出ている通知アイコンをクリックした。

 睡眠中に届いていた通知一覧が表示される。


「ほとんどフォロー通知……そりゃそうだよな」


 「〇〇さんがあなたをフォローしました」といった表示がずらっと並んでいる。

 これだけだと何も――ん?

 いくつかリプライがきていた。 


――切り抜き見ました。絵がお上手ですね!

――画力やばすぎて笑った。あと顔と声かわいい

――切り抜きめっちゃ笑ったのでtuitterとつべ登録させてもらいました


「切り抜き?」


 もしかして。

 俺は1つの可能性に気付き、tuitterの検索欄に『多々良(たたら)まひる』と入力した。

 これで俺について話している呟きが見つけられる。

 ターンッ! とエンターキーを強く叩くと、すぐに見つかったのは――


【三毛猫を描いたはずが泥になってしまった新人Vtuber多々良まひるさん】


 そんな文が添えられた動画だった。

 再生ボタンを押してみる。


『あ~、これなら楽勝ですね。当てられなかったら右腕置いていけよ?』


 昨夜の俺の配信だ。

 かわいい声してるじゃねぇか、まひる。

 どうやら俺が絵を描き始めてから2分ほどの部分を抜粋してtuitterに投稿したものらしい。

 俺へのリプライにあった『切り抜き』というのはこれのことか。

 そういえば、Vtuberの配信の動画切り抜きってよく見かけるな。

 えーと、RT数は――4300!?


「嘘だろ……」


 どうやらこの切り抜きがきっかけで、俺のチャンネル登録者・フォロワー数が急増したようだ。

 それはめでたい。嬉しい。

 だが、これはつまり……俺の絵のやばさが、とんでもない人数に周知されたってことだよな。

 動画を見てRTやいいねをしなかった人は更に多いわけだし、一体どれだけの範囲に広まったのだろうか。

 恥ずかしすぎる。


 よくもやってくれたな……!

 いや、プラマイで言えば超プラスで嬉しいけども!

 投稿者はどこの誰だ! ありがとうございます!


「『Vtuberここすきシーン切り抜き侍』か。フォローしておこう」


 これ以上なく体を表している名前だった。

 投稿を見ると、ほとんどはVtuberの配信からの切り抜き動画だ。

 有名無名を問わず、気に入ったシーンをクリップして広めているようだ。


「すげぇたくさん感想ついてるし」


 腕利きの切り抜き職人のようだ。

 俺の切り抜きには『逸材(いつざい)』『本編見たら全部の絵が狂ってた』『絵より声の方が凄くね? バ美肉勢なんでしょ?』といったリプライが山ほどついていた。

 これ、いわゆる『バズった』ってやつなんだろうか。

 朝から変にテンションが上ってしまった。

 誰かに話したい。

 となれば、相手は七重(ななえ)しかいなかった。


『俺の登録者数見てくれ。tuitterのフォロワー数も』


 手短なメッセージを送信した。

 あっ……あいつ、まだ寝てる可能性もあるか?

 今さらながら確認すると、時刻は8時半だった。

 まぁ、寝てたとしても起きたら見るだろう。

 とりあえず1階に降りて麦茶でも飲んで――


 ドンッ!


 窓の外から大きな物音がした。

 具体的には、ガラス窓に頭でもぶつけたかのような音が。

 続けてガラガラと、その窓を開けるような音が聞こえてくる。

 俺は椅子から立ち上がり、カーテンを開けた。

 すると、そこには額を手で押さえた七重の姿があった。


「……焦りすぎだろ」


 窓を開け、俺もベランダに出た。


「起こしちゃったか」

「そんなのいいから! あれ、どうしたの!?」

「うぉっ、ちょ……落ち着けよ」


 食いつき方が尋常じゃなかった。

 こちらのベランダに飛び移ってきそうな勢いだ。

 俺のメッセージで起きたらしく、髪がぼさぼさだった。


「あとで話すって。昨日の反省会もするだろ」

「今!」

「そんな一言で説明できねぇよ!」

「別に時間かかっ……ても……」

「……どうした?」


 七重のテンションが急速に下がった。

 右前方を見て固まっている。

 その視線を追って、顔を左に向けると――


「おは」


 隣のベランダに、沙都(さと)がいた。

 Tシャツにプリントされた『熱帯雨林』の文字が異様にダサい。

 

「朝から仲良しだね?」

「そう……でも、ない、よな?」

「そうよ! そんなことより、沙都ちゃんお久しぶり! ますます美人さんになったね!」


 七重。

 お前、誤魔化すのが世界一下手糞だな!


「ありがとうございます。で、『昨日の反省会』ってなんですかぁ?」

「えぅ」


 えぅ、じゃねえよ!

 お前が()かれたんだからお前が答えるべきだろ。

 なんで『なんとかしろ』って目で俺を見るわけ?


「今、ネットで無料で映画見れるだろ。たまに同じの見て感想言い合うんだよ」

「へぇ~?」


 にやにやと笑う沙都。

 こいつ1ミリも信じてないな。

 敢えて細かく突っ込んでこないのがまたいやらしい。


「じゃあやっぱり仲良しじゃん」

「まぁ……別にいいだろ」

「そうだねぇ」


 沙都はそう言ってベランダから引っ込んだ。


「助かった?」

「まさか」


 七重は分かっていない。

 これは長くなるパターンのやつだ。

 廊下から、とたとたとた……と軽やかな足音が聞こえてくる。

 ガチャッ、パタン、シャッ、ガラガラ。

 振り向くまでもない。

 俺の部屋のドアが開き、閉じ、カーテンと窓が開けられた音だ。


「お待たせ」


 待ってねぇ。

 沙都は俺と並んで柵に寄りかかる。


「最近、おにぃの機嫌がいいなって思ってたんですよ」

「そうなの!?」

「今月の頭あたりからですね」

「へぇ……!」


 乗るな七重!

 ちょっと嬉しそうにするんじゃない!


「あたしに教えてくれなかったの、ショックだなぁ」

「何がだ」

「付き合ってるんでしょ?」


 何言ってんだこいつ。

 あれか。

 距離の近い男女を見ると全部カップルにするやつな。

 やれやれ……綺麗で頭がよくて運動もできても、所詮は15歳の小娘か。 


「すぐそういう話に結びつけるの、どうかと思うぞ」

「そう、ホントそうよ! それよね! それ!」


 七重の語彙(ごい)が消失していた。

 お前もJKの妄言にいちいち動揺するなって。


「沙都ちゃん、いい? 私達はそういう関係じゃ――」

「これぐらいはしました?」


 沙都が俺の肩にしなだれかかってきた。

 朝っぱらから暑苦しいことこの上ない。


「なっ……!?」

「あとこんなのとか」


 背後から俺の腰に両手を回し、体を密着させてくる我が妹。

 七重はそんな俺達を見てわたわたとうろたえていた。


「してないんですか?」

「してないわよ!」


 いや、酔って抱きついてきてたよな?

 覚えてないのか。


「佑人もなんで平気にしてるの!?」

「アホか。妹だぞ」

「ねー」


 俺は妹相手に興奮する変態か。

 こいつは昔からベタベタくっついてくる方だったし、いちいち動じていたらキリがない。

 更に言ってしまえば、我が妹はスタイルこそいいが、七重と違って胸は控えめだ。

 兄妹という要素を抜きにしても、ありがたみは少ない。


「つっても、暑いんだよ。そろそろ勘弁してくれ」

「はいはい」


 思いの外、素直に解放された。

 ひとしきり俺達をからかって満足したのか、沙都は『あ~ウケたウケた』と立ち去っていった。

 

「なんの話だったっけか……そうだ、登録者数な!」

「佑人。兄妹でも、あれはやり過ぎだと思う」

「ん? だからあんなの――」


 目がマジだった。


「今後、節度を守ってのスキンシップを心がけます」

「よろしい」


 そんなに気になるもんかね?

 ――あぁ、沙都を心配してのことか。

 俺にするようなボディタッチを他の男にすれば、間違いなく勘違いされるだろうしな。

 変な癖がついてしまったら、今世紀最強のサークラ女子が誕生してしまう。

 

「で……登録者数さ。昨日の配信の切り抜きがtuitterでバズったら増えた」

「一言で説明できたじゃないの」

___

 8月24日 8時40分

 ◆多々良まひるの部屋◆

 YowTubeチャンネル登録者数:428人

 tuitterフォロワー数:783人

もし面白いと感じていただけましたら、最新話下部の評価・作品ブックマーク・感想などよろしくお願いします。


活動報告もこまめにしていくつもりです。

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