表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

012 初配信

『あーあー……聞こえてますか……?音量バランスとかも大丈夫かな』


 言ってから、悪手だったかなと思った。

 配信って、見てはいてもコメントまではしない人が多いんだよな。


――初配信おめ

――音大丈夫

――かわいい


『あっ、コメントありがとうございます! ホントに助かります。tuitterの動画を見てくれた方もいるんでしょうかね』


 ありがたや。

 これでコメント0は回避できた。

 tuitterに動画をアップしたお陰か、視聴者が20人を超えている。

 俺の昔のゲーム配信の10倍じゃん。


『えっと、初めての配信なので自己紹介しますね。長月(ながつき)家のメイド、多々良(たたら)まひるです。16歳の高校2年生です。夜長(よなが)お嬢様の素晴らしさを世に知らしめるべく、Vtuber(ブイチューバー)活動を始めました』


 にこっと微笑む。

 俺はともかく、画面上のまひるはかわいい。

 頭を左右に振るとツインテールもよく動く。

 七重(ななえ)は本当にいい仕事をしてくれた。


――チャンネル登録した

――夜長ちゃんも高2だっけ? 同級生なら2人とも誕生日まだか

――金髪メイドたすかる

――がんばって

――夜長ちゃんおるやんけ


 おぉ……意外とコメントつくもんだな。

 よく見ると『がんばって』というコメントは夜長のものだった。

 頑張りますよ、お嬢様。

 既にいっぱいいっぱいだが、コメントを読むだけでも間がもつのは助かる。


――お前ら忘れてないか? tuitterの動画のラストを

――この声で男ってマジ?

――え? マ???


『えっ? 声? 何の話なのかさっぱり――』


 きたか。

 まぁ、あんまり引っ張っても意味ないか。

 リスナーから触れてくれて、かえってやりやすくなった。


「あー。あれ? 喉の調子がちょっと……飲み物開けていいっすか」


 ボイチェンを切って地声で一言二言喋り、エナドリの缶を開ける。

 さぁ……どうだ?


――!?

――?????

――お兄さんかな? 妹さんと声似てますね

――さっきの声かえして


 そんなコメントがずらっと流れてくる。

 視聴者数は――45人。

 バズったとまで言えないが、期待の10倍は来てくれている。

 同じ人だけがコメントしているわけでもないようだし、もう成功と言ってもいいだろう。

 エナドリを飲みながらボイチェンを戻す。


『え? なにかありましたか? 私の声、嫌いですか……?』


――なんでもない

――すき

――俺の耳がおかしかった


 ノリがいいリスナー達で助かる。

 Vtuberの視聴者層って、こういう茶番に対しての付き合いがいいよな。


『今日は初めましてのご挨拶ということで、あとちょっとだけ……10分ぐらい皆さんとお喋りしたらおしまいにしようと思います。何かありますか?』


 ここから俺の地力が試される。

 だが、全く勝算がないではない。


『好きな食べ物ですか? ラーメン、じゃなくて……マカロンです。なんだったらマカロン以外食べません。いざとなれば餓死を選ぶね』


――とってつけたようなマカロン

――草

――泥をすすってでも生き延びそう


『好きなお酒は……って、私は未成年ですよ? 梅酒のソーダ割りなんて飲みそうに見えますか? 梅酒はロック一択だろうが』


――通報した

――『だろうが』じゃないでしょ

――夜長さんこいつ飲んでます


 『美少女の外見と内面(俺)のギャップ』というネタは分かりやすい。

 コンテンツとしての方向性を提示できれば、初回放送の目的は達成できたと言える。

 滝のように――というほどではないが、全部拾っていてはおいつかないぐらいの量のコメントもついている。

 それから、たまに素の声を出したり引っ込めたりしつつ、予定より長く15分ほどリスナーと対話を楽しんだ。

 これは当然といえば当然だが、モデルの評判もいい。


『では、今日はそろそろお開きにしましょうか。これからはゲーム配信などもやっていくつもりなので、よかったらまた来てください』


 『いかないで』といったVtuber配信での定番コメントもついているが、今の俺のレベルではあまり長く続けるとグダってしまうだろう。

 なんでも腹八分目がちょうどいい。


『はいはい。お客様、お帰りはあちらになります。チャンネル登録と評価、あとtuitterのフォローもよろしくお願いしますね。もちろん、夜長お嬢様のも』


 今日一番の笑顔でそう言って、配信終了ボタンを押した。

 配信ページをチェックして、ちゃんと配信が終了していることを確認する。

 よし。終わってるな。


「――ふぅ」


 ヘッドセットを外して一息つくと、どっと疲労が襲ってきた。

 とりあえず、なんとかやりきった……!!

 背もたれにもたれかかって両腕をブラブラさせる。

 ただ喋ってただけなのに全身に力が入っていた。

 しばらく天井を眺めていると、机の上のスマホが振動した。


『お疲れさま。面白かったよ』


 七重からのメッセージだった。

 短い言葉だが、身に染みる。


『変なとこなかったか?』

『全部変だったから良かった』


 なるほど。なるほどね。

 俺が美少女メイドになりきって配信してたんだもんな。

 そりゃ変だよ。


『反省会したいけど、今日は寝ていいか?』

『もちろん! ゆっくり休んで』

『おやすみ』


 重い体をなんとかベッドまで運び、仰向けに転がる。

 マジで疲れた――けど、達成感はあった。

 俺が俺ではなくなって、俺を知らない人間と時間を共有する。

 これが『Vtuber』としての配信か。


 配信終了時の視聴者は53人。

 途中で減っていかなかったのは本当に心の支えになった。

 最初に『実は男』というインパクトを与えたあとは、ジワジワと数字が下がっていくだろうと覚悟していたから。

 YowTubeのチャンネル登録者は73人。

 配信直前に50人ぐらいだったから、20人は増えている。

 できすぎなぐらいだ。


 スマホでtuitterのフォロワーも確認すると、91人だった。

 こっちも15人ぐらい増えてるな。

 夜長しか後ろ盾のいない新人Vtuberの初配信後としては、決して悪くない数字だと思う。

 中には初配信前から千人単位のチャンネル登録者・フォロワーがつくような人もいるらしいが、上を見たらキリがない。


 ……でもなぁ。

 目標の10000人まであと9927人か。遠いな。

 今日は初回ってことで見てくれた人も多いだろうし、2回目からは苦戦するよなぁ。

 次はどんな配信をしようか――


 長い道のりをぼんやりと思い浮かべつつ、俺は眠りについた。

___

 8月16日 21時40分

 ◆多々良まひるの部屋◆

 YowTubeチャンネル登録者数:73人

 tuitterフォロワー数:91人

もし面白いと感じていただけましたら、最新話下部の評価・作品ブックマーク・感想などよろしくお願いします。


活動報告もこまめにしていくつもりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ