010 通話会議
本日はこのあと21時半に011を投稿予定です。
「もしもし。聞こえるか?」
『うん、音量も問題なし』
その日の夜。
俺と七重はお互いの部屋からパソコン越しに通話していた。
ベランダを渡る手間がないのはありがたいが、やや寂しさもある。
七重からの『ごめん、今日は通話でお願い!』という連絡により、今回はこのような形式になった。
向こうにも色々事情があるのだろうから詮索はせず、『あいよ』とだけ返して通話用のアドレスを送った。
『tuitterとYowTube見たわよ。モデルができたらtuitterに短い動画載せましょうね』
「初配信より前に?」
『もちろん。初配信にたくさん来てもらうためでもあるから』
なるほどね。
「コラボ配信はチャンネル登録者10000人達成してからとして、tuitterではこれから絡んでいくんだよな?」
『そうね。あの……』
「ん?」
『私の配信――見た、よね?』
「いくつかは」
頭の後ろで組んでいた手に、力が入るのを自覚した。
『どうだった? そりゃ登録者数少ないし、面白いってことはないのは分かってるんだけど、感想っていうかなんていうか』
「うーん。やっぱモデルの質とか声自体は人気の人にも負けてない。それはあらためて思った。ただ」
『……うん』
「笑いどころみたいのは少ないかなって」
やや慎重に言葉を選んだ。
平たく言えば――面白くはなかったから。
『そうよね……そうなのよねぇ……』
「そんなに凹むなよ。tuitterのフォロワーは1000人超えてたじゃん」
『あれは人気のVtuber絵描いてるからだもん』
だもん、って。
拗ねてるのか。かわいいじゃねぇかよ。
「配信だとアドリブで夜長らしい返しを考えないといけないから、それで上手くいってないだけだ」
そう。
配信での夜長の配信は、あまりに淡々としていた。
1人で喋っているときはまだいい。
しかし、いざコメントがあった際の返事が問題だった。
『今日も暑いよね』とコメントされれば『あ……はい』。
『初見、このゲーム好きなんですか?』とコメントされれば『えっと……わりと好きですわね』。
それで終わってしまう。
敢えてやっているキャラ作りなら好きにすればいいが、ただ思考が止まってしまっているだけなら改善が必要だ。
いつぞやの俺は『幼馴染の配信を盗み聞きしている』というシチュエーションだけで楽しめたが、一般のリスナーはそうはいかない。
「その証拠に、tuitterのリプライ返しはいい感じだぞ。あれはじっくり考えて書いてるんだろ」
『うん』
「じゃあ慣れれば大丈夫」
『……がんばる』
なんとかフォローできたか?
本当は七重が自分の本来の性格のまま配信すればいいと思うのだが、こいつだってこだわりがあって今のキャラで活動しているのだろう。
そこは俺がとやかく言うことではない。
それに、今さらキャラ変ってわけにもいかないだろうし。
あっ。キャラといえば――
「俺からも1つ、相談いいか?」
『ん?』
「どれぐらいキャラになりきるべきかなって」
『あっ、RPの話ね』
RP――ロールプレイングゲームのRPか。
『Vtuberって色んな分類があるけど、私はRPの程度でも分けられると思う。設定に沿って忠実にキャラを演じるタイプと、敢えて設定を崩して面白くするタイプ』
「なるほど」
『流行りは後者よね。動画より配信が流行ってるし』
「ちゃんとRPしてコメントに返事するのは大変そうだもんな」
丁寧にRPするほど縛りがきついってわけか。
面白いネタを思いついても、キャラに合わないことはできないし。
『どっちが正しいなんてのはないけど、RPを徹底してる人は尊敬しちゃうわね』
「俺は最初から崩していくべきかな?」
『好きにするのが一番よ。私なら素を出しちゃうけど』
「だよなぁ」
バ美肉おじさんの原点となった人も、それで爆発的に人気を博したと聞いている。
もちろん、それは先駆者だったからこその結果だけど。
「俺に金髪メイドの気持ちは分かんないしな」
『口調以外は素でいいんじゃない?』
「まぁ……やりながら考えていくか。ネカマが一番男の望む女性を演じられるって聞くし、全力の媚びムーブを見せてやるよ」
方向性は見えてきた。
『あっ! そうだ』
「なんだ?」
『こういうメタ的な話は、表ではあんまり……ね。RPがどうとか、中の人がどうとか』
「そりゃそうだ」
俺はそこまで無粋ではない。
考えようによっては、アニメキャラと声優の関係よりデリケートかもしれないもんな。
わざわざテーマパークで着ぐるみの頭を外すような……あるいは人形劇の紐を懐中電灯で照らすような、そんなことはしない。
最初から中の人がオープンな、名義分け的なキャラなら問題無いんだろうけど。
イラストレーターが自分をVtuber化なんてのも数人見たし。
「で、初配信はいつにする?」
『来週の金曜日にしましょ。1週間あれば少しは交流もできるし、金曜夜は一番のゴールデンタイムだから』
来週の金曜日。8月16日か。
それまでにやれるだけのことはやっておこう。
配信自体も何年かぶりだし、ツールがちゃんと動くかも見ておかないと。
『――それじゃ、早いけど今日はそろそろ終わりで。まだお風呂も入ってないから』
「あぁ。これからたまにtuitterでリプライするわ」
『また配信までに作戦会議もするわよ』
通話が切れた。まだ21時か。
けっこう雑談もしたが、1時間も経っていなかった。
「……言い過ぎてないよな」
振り返ってみて、どうだ?
『面白くない』『つまらない』といった露骨な単語は使っていないものの、内容的にはそう言ったようなものだ。
しかし、あそこで嘘をつくのもよくないよな。
一応できるだけのフォローはしたし、そこまで傷ついてはいないと信じよう。
自覚もあったようだし。
待てよ?
今日の会議が通話になったのは、顔を合わせて自分の配信の話をするのが嫌だったからって可能性はないか?
だとすればもう少し言い方を考えたほうが……いやいや、それは流石に深読みしすぎだろ。
「配信でも見るか」
切り替えよう。
今の俺に求められているのは、七重を慰めようという甲斐性ではない。
初配信に向けて状況を整えることが夜長の、ひいては七重のためになる。
今夜は四つ葉うさぎではなく、彼女と同じRL所属のメンバー達の配信を見るつもりだ。
お手並み拝見といこう。
___
「……めっちゃよかった」
なるほど。これは、強い。
まず個々の配信が面白い。
オーディションをくぐり抜けている企業勢だからか、トークの平均レベルが高い。
そのうえ、多くの配信にメンバー間の繋がりを感じさせるトークが入る。
「この前に〇〇ちゃんとご飯食べに行って~」とか、そういうやつ。
そんなのさぁ、見たことなかった〇〇ちゃんもチェックしちゃうぞってなるじゃん?
そういう構造になっているわけだ。
「これが『箱推し』を生み出しているのか」
箱推し。
元々はアイドル界隈の用語らしく、『グループ全体を応援している』というニュアンスで使われている。
まず1人を気に入る。
次に、そのメンバーが参加しているコラボ配信を見るようになる。
コラボ相手の配信を見るようになる。
あとはその繰り返し。
まるで底なし沼だ。
ちなみにRLの所属人数は70人を超えている。
動画より配信メインの箱なので、全員を完璧に追うのはまず不可能。
それでも好きになったメンバーが配信していれば、なるべく見にいくだろう。
上手いやり方だ。
ようやく俺にも理解できた。
コラボ配信は、メリットがでかい。
それは個人勢においても同じ。
よほどの事故がない限りはデメリットも少なそうだ。
七重も相手を求めていたものの、いまいち人気が出ず、誰からも声がかからなかった。
そして自分から誰かを誘う勇気も出せず、どうしようかと悩んでいて――
「ベランダにいる俺を見つけたのか」
そんなことある?
いや、あったんだけど。
あれはタイミングがよかったのか、悪かったのか。
答えは――9月末までに出る。
___
8月9日 18時半
◆多々良まひるの部屋◆
YowTubeチャンネル登録者数:4人
tuitterフォロワー数:8人
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活動報告もこまめにしていくつもりです。




