プロローグ
面木七重。
俺の幼馴染の名前だ。
お互いに幼稚園児の頃から隣の家に住んでいて、当時から現在に至るまで家族ぐるみでの付き合いがある。
とはいえ小学校・中学校・高校と進学するにつれて、俺と七重との距離は少しずつ離れていった。
何かきっかけがあったわけではない。
嫌いになったわけでもない。
やや直情的だが裏表のない性格。
贔屓目なしに目鼻立ちの整った顔。
昔から変わらないセミロングの黒髪。
白い肌。
気取らないラフな出で立ち――これについては、お節介ながらもう少しお洒落をしてもいいのではないかとも思うが。
どれも、今の俺にとっても素直に好ましいものだ。
それでも、ふと気づけば俺達の間には隔たりができていたのだ。
大学に入る頃には、お互いが家を出るタイミングが被った際に「おう」とか「うん」とか、そんな短いやりとりをする程度の間柄になっていた。
今は七重も俺と同じく大学2年生のはずだが、どこの大学に進学したのかも知らない。
創作の中ならいざ知らず、現実での男女の幼馴染なんてそんなものだろう。
逆はさておき、俺に七重を惹きつけるような魅力は無いのだし。
腐れ縁とはよく言ったものだ。
しかし、腐りきればあとは風化していくだけ。
そういえば「腐れ縁」の「くされ」は「鎖」からきているんだっけか?
だとすれば。
俺と七重の縁は、錆つき、朽ち果て、ギリギリで繋がっている鎖だ。
玄関先やら最寄り駅やらで顔を合わせた際、よそよそしい会話をするのが辛かった。
小さい頃は、あんなに遠慮なく何でも言い合えたのに。
気まずいコミュニケーションの後、決まって俺は足早に退散する。
それでも、七重との遭遇を積極的に避ける気にはなれなかったのは……。
いつか何かのきっかけで、昔のように気安く付き合えるようになるんじゃないか。
心のどこかで、そんな期待を抱いていたからかもしれない。
そんな状態だったので、俺が七重の部屋に入るのはおよそ10年ぶりだった。
ひいては――
「佑人」
「……はい」
フリルひらひら、真っ赤なロリータ服を身に纏った七重の前に正座する。
そんな体験は、俺にとって初めてのことだった。




