剣術指南、前
さて、どれくらい時間が過ぎただろうか?見詰め合う俺とマキ。どちらからともなく顔が近付く。
「そろそろ良いか?二人共?」
「「っ!!?」」
突如聞こえた痣火の声。それも、すぐ背後から聞こえてきた。
俺とマキはばっと勢いよく離れる。顔が熱い。見ると、痣火は俺達二人をにやにやと意地の悪い笑顔で見下ろしていた。これは、ずっと見られていたな?・・・これは恥ずかしい。
・・・うん、顔が熱い。まさか見られているとはな。
マキなんか、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯いていた。それが何だか可愛くて、思わず抱き締めたくなるがその寸前で抑えた。俺は理性の無い獣では無いからな。これ重要。
・・・一体誰に言い訳してるんだか。まあ良い。俺はごほんっと咳払いする。
「それで、一体何の用だ?」
「そう不貞腐れるなよ、少年。君の力量は正確に把握した。まずはマキに剣術の基礎を習うと良い」
「・・・・・・マキに?」
俺はマキの方を見た。マキは何とか立ち直ったのか、元の冷静な表情に戻っている。えっと、マキに剣術の指南を受けるのか?・・・彼女に?
別の事にハッスルしそうだな。俺、頑張っちゃうよ?
「不服かね?」
「・・・別の事に意識を持っていかれて集中出来ないかもしれんぞ?」
「っ!!?」
その言葉を聞いたマキはばっと自分の身体を抱いて後退った。うん、いや可愛いんだがな?
可愛すぎるんだがな?
思わずほっこりとする俺に、痣火は苦笑を浮かべる。
「その点は大丈夫だ。私が傍で見ているからな。そんな不埒な真似をしている余裕は無い」
「ああ、そう・・・・・・ちっ」
「そう露骨に残念そうにするなよ、少年・・・」
「無念」
「口に出しても駄目だ」
いや、そう言われてもだな?残念な物は残念なんだよ。
これ、何て生殺し?マキを前にして酷いじゃないか?
「それとも何か?マキが可愛すぎて集中できないか?ん?」
「その通りだ」
「・・・・・・あ、あうあうあ~っ!!!」
奇声と共に、マキは駆け出して行った。
俺と痣火の会話に、マキはついに真っ赤な顔で飛び出して行った。うん、からかい過ぎたか。俺と痣火はほんの少しだけ反省した。うん、ほんの少しだけな?マキは可愛い。
少しの間、見詰め合った俺と痣火。やがて、俺達は無言で固く熱い握手を交わした。うん、痣火も同じ想いを持つ同志らしい。やはりマキは可愛い。それが全てだ。それが全てで正義だ。
ひゃっほう、マキ可愛い!!!
何?性格が変わっているって?俺は元からこんなのだ。悪いか?




