日常とのお別れ
「・・・・・・・・・・・・此処は、何処だ?」
ふと、目が覚めた。知らない天井だった。というか、知らない場所だ。
・・・ていうか、何処だ?此処は?周囲を見回す。どうやら、此処は何処かの廃墟らしい。廃墟?
何で俺は廃墟に居るんだ?疑問は尽きない。
・・・すると。
「・・・・・・目が覚めた?」
冷めた声が聞こえた。振り返ると、其処には俺と同い年くらいの少女が、俺を睨んでいた。はい?
何故、俺は少女に睨まれているんだ?俺は混乱する頭を必死に働かせて、記憶を手繰り寄せる。俺は何故こんな少女に睨まれているのか?考えて、考えて、考えて・・・
うん、やはり少女に睨まれる覚えがねえな。全く記憶にねえわ。
しかし、ふと思い出した。・・・意識を失う直前の記憶を。
そうだ。俺はあの戦いの後、意識を失って倒れたんだ・・・・・・。思い出した瞬間、俺は喉元に刀の刃を突き付けられる。見ると、少女が俺に冷めた視線で刀の刃を向けていた。
「・・・・・・何の真似だ?」
「答えなさい。貴方は異能者?」
何処までも冷徹な声音。
俺の問いに答えず、少女は俺に質問を返してきた。俺は、黙って少女を睨み付ける。しかし、少女はそれを一切無視して続ける。
「答えなさい。貴方は異能者?」
「まず状況を説明しろよ。俺は一般人だぞ?まずは状況の把握が先だろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は心の動揺を必死に隠し、質問を投げ掛けた。そうだ、まずは状況の把握が先決だ。
少女の瞳が鋭さを増す。しかし、知った事か。俺は真っ直ぐ少女の瞳を見返す。
少女はしばらく、俺に刀を突き付けた状態で考え込む。俺も、しばらく両手を頭の上に上げたままその場に座り込んだ。俺と少女の視線が交わる。
やがて、少女は溜息と共に刀を下げる。
「把握したわ。貴方は一般人、これに間違いは無いみたいね」
「おい、状況を説明しろよ。一人で勝手に納得するな」
俺の言葉をまたもや無視し、少女は言った。俺の都合など、少女にとって一切どうでも良いのだ。
「良い?これからはあの出来事を一切忘れて貴方の日常に戻りなさい。もう、私に関わらないで」
「そんなの納得出来るか‼俺は状況を説明しろと言っているんだ!!!」
「黙りなさい、貴方の意見は聞いていないわ」
瞬間、俺の喉元に再び刀が突き付けられた。その刃の鋭さに、俺の首の皮が一枚切れる。しかし、そんな事構うものかよ。俺はこの状況を知りたいんだ。
俺は、黙って少女を睨み付ける。少女の視線の鋭さなど、一切関係ない。
「俺は、この状況を知りたいと言ったんだ。一度関わっておいて、それではいさようならなんて、俺のプライドが許さねえよ!!!悪いかっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・っ。世の中には、知らない方が良い事もあるでしょう?それとも、それも分からない程に貴方は馬鹿なのかしら?」
「はっ、そんなの知らないね。俺は俺の思ったまま生きるんだ。下らない事を言うなよ」
「・・・・・・っ」
少女の表情が一瞬憎悪に歪んだが、それでも俺は少女から目を離さない。決して、少女から視線を逸らしたりはしない。しばらく、俺と少女は睨み合う。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・はぁっ
少女は溜息と共に、俺から刀の刃を下ろした。その視線には呆れと侮蔑が混じっている。
「良いでしょう。今更後悔しても遅いからね?」
そう言って、少女は俺を睨み付けて言った。はっ‼そんな脅し、俺には効かねえよ。
俺は鼻で笑い飛ばした。少女は心底呆れた顔で語り出した。
・・・・・・・・・
・・・まず、少女の身の上から語ろう。少女は至って平凡な家庭に生まれた。
何処までも平々凡々な、一家庭。そんな中、彼女は生を受けて育った。
少女の名前はマキ。平凡な家庭で育ち、平凡な家庭で生涯を終える筈だった一般人だった。
———そう、その筈だったのだ。決して壊れる筈の無かった日常だった。
しかし、彼女の人生は無残に打ち砕かれる。異能者の手によって。
辺り一面、火の海だった。その中にマキは呆然と立ち尽くしていた。足元には、家族だった者達の死体が一面に転がっていた。皆、無残に死んでいた。
目の前には家族を殺した男が一人。じっと彼女を見ている。マキは只、呆然と立ち尽くすのみ。それしか今のマキには出来なかった。只、それしか出来なかったのだ。
異能者の男は目を鋭く細めて彼女を見た。びくっとマキは震える。
異能者の男は言った。生きろと。生きて、何時か俺に復讐を果たしてみろと。生きて、何時かその命の価値を俺に示してみせろと。
そう言って、男はマキの前から姿を消した。マキは只、呆然と立ち尽くすしかなかった。
当時の彼女には、それしか出来なかった。それが、とても悔しかったのを今でも覚えている。
・・・その後、マキは復讐の為に自らを鍛え上げた。ひたすら、剣を振るい続けた。
復讐の鬼と化し、ひたすら剣を鍛え続け、復讐の為だけに生きると誓った。
そして、その傍ら異能者の男の情報を集めた。徹底的に情報収集をした。そして、マキはその異能者の男の情報に行き付いた。ついにマキは男の足掛かりを得たのだ。
その男は、異能の集団の長だった。世界の裏で、異能者を束ねて破壊活動をしていたという。
その破壊活動に、一体何の意味があったのかは分からない。もしかしたら、本当はその行為にも意味があるのかもしれない。しかし、犠牲者は自分だけではなかった。
大勢の人達が、その異能の男の犠牲になっていたのだ。それだけで、復讐の理由には充分だった。
マキは復讐の為に動き出した。異能者の集団に独り、喧嘩を売ったのだ。
・・・・・・・・・
「そして、喧嘩を売った先に俺が居た訳か」
「・・・・・・ええ。まさかあんな所にまだ人が居るとは思っていなかったけどね」
そう言って、マキは肩を竦めた。そして、俺を睨み付けて言った。
「で、どうする?此処で手を引き、日常に帰るなら私も何もしないけど?」
マキは刀の柄に手をやり軽く叩いた。しかし、それは暗に此処で手を引いて欲しいという事だろう?
俺はその願望を軽く鼻で笑った。マキの片眉がピクリと動く。
「はっ、俺を見くびるなよ。此処で手を引くなんて選択肢、最初からねえよ」
「・・・・・・貴方、馬鹿なの?」
マキは呆れた顔で刀の柄を握る。しかし、俺はそれを笑い飛ばす。
「それこそ知るかよ。俺は俺の思った通り生きるだけだ。それに、な」
其処で、俺はマキの方を真っ直ぐ見詰めて言った。
「お前の過去を聞いて、それで尚お前を独りになんてさせるかよ」
「・・・・・・っ、な!!?」
マキは一瞬で顔を真っ赤に染めた。そして、俺を必死に睨み付けて刀の刃を俺の喉元に向けた。
しかし、それでも俺は一向に気にしない。俺はマキの瞳を真っ直ぐに見詰め返す。
「俺は決めたぞ。俺はお前が何と言おうが、お前に付いていく。お前を意地でも独りにさせない」
———これは決定事項だ。
分かったか、と俺はマキに全力で宣言する。マキはその言葉に、真っ赤な顔で喚く。
「馬鹿なの!!?貴方はそれで善人を気取っているつもり!!?善意の押し付けは止めて!!!」
「はっ、そんな訳あるか‼俺は俺のわがままを通しているだけだ!!!それの何が悪い!!!」
「っ、馬鹿なの!!?」
マキは真っ赤な顔で喚く。しかし、俺には関係ない。俺はもう決めたんだ。俺は俺の意地を通す。
マキがどう言おうが、此処からは俺の自分勝手な自己満足だ。どうなろうが知った事か。
俺は、マキに向かって手を差し伸べた。
「これからもよろしくな。マキ」
「・・・・・・・・・・・・本当に、勝手な人」
そう言いながらもマキは俺の手を取った。俺がにっこりと笑い掛けると、マキは顔を染めた。
日常とのしばしのお別れです。では、さようなら~ってね。




