エピローグ
「おい、宙‼おいっ‼」
「・・・・・・んあ?」
目を覚ますと、其処は教室の中だった。別にアザトースなどという邪神など何処にも居ない。無論世界の危機など欠片も存在しない。完全に無欠の日常風景だ。非日常など、何処にも存在しない。
教壇では、担任の教師が額に青筋を浮かべてぷるぷると震えている。それだけで、もう次の展開が目に浮かぶようだと俺は状況を察しながら思った。
「・・・と、いう訳で。おやすみなさい。ぐ~っ・・・」
「そのまま永遠に眠らすぞコラァッ‼‼‼」
教師にあるまじき罵声だった。しかし、その怒りも当然か。
次の瞬間、頭部に凄まじい鈍痛が奔った。どうやら、担任がチョークを全力で投擲したらしい。割れるような鋭くも鈍い痛みに、俺は思わず眉間にしわを寄せる。
見ると、周囲ではくすくすと含み笑う声と共に複数の同級生の視線が。うむ、心が痛い。
「まったく、今日から転校生が来るという日に・・・」
「はい?転校生?」
テンコウセイ?
にわかに教室内がざわつく。はて?転校生なんて、初耳だけど?そう思っていると、教室のドアが開き一人の女子生徒が入ってきた。その生徒を見た瞬間、俺の心臓が鼓動を速める。
何故なら、その女子生徒は。その女は・・・
「初めまして、今日からこの学校に転校してきた白川マキです。よろしくお願いします」
ガタッ‼勢い良く椅子を倒しながら、俺は席を立った。担任は俺を見て怪訝な表情をしている。そして転校生のマキも、驚いた顔をしていた。
しかし、それを一顧だにせず俺はそのまま教壇の前に居るマキの目前まで進む。
当のマキは、硬直したまま身動きが取れないでいた。まるで、ありえないモノでも見たかのよう。
「お、おい・・・宙?」
流石の担任も、それを見とがめようとした。しかし、それでも俺はマキの前に立った。静寂に包まれる教室内で俺とマキはじっと見詰め合う。ごくりと、誰かが唾を呑み込んだ・・・
その瞬間。
「白川マキさん、どうか俺と付き合って下さい」
腰を直角に折り曲げ、頭を下げて。手をマキに差し出した。それは、即ちプロポーズ。
教室内を、衝撃が奔った。しかし、それ以上の衝撃をマキは感じただろう。しかし・・・
次の瞬間、マキは瞳を涙で潤ませながら口元を片手で押さえた。そして———
次の瞬間には、満面の笑みで俺の手を取った。
「はい、どうかよろしくお願いします。宙」




