終幕
戦いは激しさを増していく。原初の空間全域を、光すらも超えて駆け抜けてゆく俺達。それは、まさしく神域の戦いに他ならない。その戦いの激しさは、もはや並の宇宙では秒とて耐える事は不可能だ。
原初の空間に満ちたエネルギーが、俺達の戦いに呼応して宇宙の創造と破壊を繰り返す。俺達の戦いの余波を受けて、宇宙が誕生しては耐え切れずに崩壊してゆく。それを只管に繰り返す。
一体、どれほどの時が流れただろうか?それも、数えるのも馬鹿らしい。
そもそも、この空間には時間という概念すらまともに機能してはいないだろう。
何万年と戦い続けた気がする。それでいて、刹那と過ぎていない気もする。どちらでも良いが。
しかし、終わらない事などこの世にはありはしない。永遠に終わらない事など、何処にも無い。全てには必ず終わりが来る。故に、この戦いにも・・・
戦いは、徐々に俺の優勢へと傾いてゆく。徐々に、しかし確実にだ。戦いは終わりへ向かう。
「っ、何故だ!何故私が・・・っ‼」
「・・・・・・」
俺は答えない。しかし、その答えは単純にして明快だった。
アザトースはあくまで一人でしかない。これまで、ずっと一人だけの存在だった。
しかし、俺は違う。俺にはマキが付いている。戦いを始めてから、ずっとマキが一緒だった。それ故俺が敗北する道理など、何処にもありはしない。奴は一人で、俺は二人。つまり、何が言いたいのか?
・・・俺達の方が、お前よりもずっと強いって事だ。アザトース‼
そして、俺の刃がついにアザトースの心臓部を捉えた。刃が肉を貫き、その内側にある核を断つ。
無限に宇宙を創造し、無限に宇宙を破壊する一撃が、その心臓部を貫く。
「っ、か・・・・・・‼」
「終わりだ、アザトース・・・・・・」
心臓部を貫かれたアザトースは、ゆっくりと肉体を崩壊させてゆく。それは、緩やかな死だ。自身がもう助からないと知ったアザトース、その表情は何処か満足気だった。
「・・・ここまで、か」
「・・・・・・・・・・・・」
「此処まで、本当に永い道のりだった。だが、最後はまあそこそこに愉しかったか」
「・・・・・・やはり、お前は」
———お前は、退屈だったんだな。
そう言い切る前に、アザトースが問いを投げ掛けてきた。それは、最後の問答だった。
「宙よ、貴様は何処に行く?もはや、戻るべき世界など何処にも無いというのに」
「・・・・・・いいや」
俺はゆっくりと首を横に振る。そして、言った。
「俺は、ただ俺の日常に帰るだけだよ・・・」
そう言って、原初の空間に光が満ちた。




