決戦、アザトース
それは、まさしく世界を両断するが如き一撃だった。世界を切り開く一撃が、アザトースの放つ一撃を両断して消し去る。その光景に、アザトースは目を見開いた。
「っ、これは・・・まさか、この期に及んでで更なる覚醒を果たしたのか⁉」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は答えない。今更答える必要など、何処にもありはしない。即ち、俺がアザトースの放った一撃を断ち切り両断した。それが現実で、それが何よりの回答だ。それ以外の何物でも断じて無い。
俺がしたのは、霊体の物質化だ。死にゆく不完全な肉体を捨て去り、霊体を直接物質化した。それにより俺は霊的進化を果たしたという訳だ。俺は一度死んで、生まれ変わったと言っても良いだろう。
今、アザトースの目の前に居るのは全くの異次元の存在だ。まさしく神の次元と呼んで相違ない。
霊体の物質化を果たした俺は、アザトースと比べても尚異質だろう。それ程に、違う。
今までの俺とは、もはや生物として別次元に居る。いっそ別存在と言っても良い。
「マキへの想いを振り切り、更なる領域へと踏み込んだか?遠藤宙・・・」
「それは違う・・・」
俺は静かに首を左右に振り、否定する。俺は、決してマキへの想いを捨てた訳では無いのだから。
俺は、断じてマキへの想いを捨てたりなどしない。そんな事、例え天地がひっくり返ろうとも絶対にありえないのだから。だから・・・
「マキは俺の中に居る。確かに、俺と共に居るんだ・・・」
マキの心は、魂は、存在は、確かに俺の中にある。俺と共にある。それは変わらない。
それを聞いたアザトースは、一瞬だけ不快そうな表情を浮かべ、凶悪な笑みを浮かべた。
「・・・・・・そうか。なら、いつまでも未練し執着したまま死ぬが良い‼」
叫ぶ。
アザトースは見る間に姿を歪めて変異してゆく。その姿は、もはや人型では無い。人間をベースにしてはいるもののそれは、人と呼ぶには醜悪に過ぎる形状をしていた。
全身には白い透明な鱗が生えていた。両耳のあった場所には、エラがある。そして、その背後には無数の触腕が生えて不気味にうごめいている。あまりに醜悪で、根源的な恐怖を与える姿だ。
恐らく、常人なら視認するだけで発狂しているだろう醜悪な姿。まさしく怪物と呼ぶにふさわしい絶望的で圧倒的な異形だ。異形で、異質な姿。
しかし、今更俺は怖気づかない。俺は、俺の中にはマキが居る。マキの魂と共に居る。
なら、どれほど相手がおぞましくとも怖くはない。黙って刀を構える。刀を向ける。
「さあ、最終決戦の始まりだ‼」
直後、無限の世界をたった一撃で砕く閃光が放たれる。それに、俺は真っ直ぐ踏み出した。
もう、何も怖くはない。何も恐れるには値しない。故に、踏み出す。
決戦が、今始まる。




