夢の中で
何故、こうなったのか・・・どうして、こんな事になったのか・・・
一体何がいけなかったのか?何を間違えたのか?解らない。もう、何も解らない。もう、俺は何も考えたくはないから・・・。もう、彼女の居ない世界など要らないから・・・
だから、俺は思考を全て放棄した。もう、何も考えたくなかった。こんな世界に、自分だけが居る事に耐え切れないから。だから・・・
「宙・・・」
声が聞こえた気がした。懐かしい。それでいて、もう失った筈の声が。彼女の声が。
けど、それはきっとまやかしだ。彼女は、もうこの世界に居ない筈だから。
まずは目を閉じよう。耳を塞ぎ、全ての感覚を遮断して、何も感じないように。
「宙・・・。私は此処だよ・・・」
「っ⁉」
誰かが、背後からそっと包み込む。誰かは言わずとも解る。この温もりは彼女だ。しかし、きっとそれはまやかしだろうから。もう、彼女はこの世界に居ない筈だから。
けど、その温もりは正真正銘本物だから。本物だと感じたから。
それでも、ほんの少しだけ。彼女に会いたいと思ったから。例え、それが夢だったとしても。
振り返ると、其処には以前と変わらないままのマキの姿があった。その変わらない姿に、たとえ夢の中だとしても涙が溢れ出した。胸の奥底が、きゅっと締め付けられるような気がした。
「ご、めん・・・・・・」
自然、口から謝罪の言葉が零れる。しかし、それに対してマキは首を横に振った。
その表情は、相変わらず優しい笑みを浮かべていた。
「謝るのは私の方。ごめんなさい、傍に居てあげられなくて」
「マキ・・・」
そっと、マキが俺を正面から抱き締めてくる。優しい、暖かい抱擁だった。その柔らかく暖かい抱擁に思わず涙が溢れ出す。止め処なく、涙が溢れて止まらない。
自然、俺の腕もマキの背中に回る。暖かい。柔らかい、マキが確かに其処に居た。
「ごめんなさい、傍に居てあげられなくて・・・。けど、私はずっとあなたの心と共に・・・」
———これからは、ずっと宙と一緒に居るから。だから、もう泣かないで。
その言葉と共に、マキの姿は虚空に解けて消えていった。もう、暖かさは無かった。しかし、それでも俺は感じていた。マキは俺と共に居ると、俺の傍に居ると・・・
今も一緒に居ると。少なくとも、そう信じていた。そう信じたいと思った。
なら、もう目を覚まそう。何時までも頑なに心を閉ざしている場合ではない。
そう思い、俺は・・・




