夢幻の世界
「痣火さんが・・・アザトース・・・?」
「そうだ、私が邪神の王。アザトースだ・・・」
痣火はそう言って静かに笑った。しかし、その笑みにもはや人間らしさなど欠片もありはしない。
いや、そもそも彼女に最初から人間らしさなどありはしなかったのかもしれない。最初から彼女は邪神の王であり人外の存在だったのだから。人間らしさなど、最初から作り物でしかないのだろう。
だとすれば、俺達は最初から彼女に騙されていたという事になるのか?彼女の、アザトースの掌の上でまんまと踊らされていたという事か?最初の最初から?
「そんなっ、嘘ですよね・・・師匠っ‼」
悲痛な顔で、そう叫ぶマキ。その表情は現実を信じたくないという感情を如実に表している。そんなマキの想いにしかし、アザトースは神速の一太刀で応える。
その一太刀はあまりにも速く、人間の限界速度を容易く凌駕して余りある。決して人間には視認出来る領域ではないだろう。しかし、俺には見えた。いや、視えた。
マキの喉元に刀が突き付けられたその瞬間、俺は彼女の腕を握りぎりぎりの状況で止めた。
その光景に、マキも京も愕然とした表情をした。只一人、アザトースだけが笑っている。
「お前、アザトースっっ‼‼‼」
「面白い・・・。来なよ、人間」
アザトースはバックステップの要領で後方に跳ぶ。対する俺は、未だ躊躇するマキから刀を受け取り正眼に構えを取る。俺の眼は、熱く熱く熱を放っている。
解る。これが、俺の無限に回帰する生の中で獲得した異能。今、全ての理と法が俺の瞳の中に。
文字通り、刹那の瞬間に俺とアザトースは動き出した。直後、世界が壊れた。




