エピローグ
廃墟となった学校の屋上。其処で、俺は憮然とした顔で寝転がっていた。結局、俺は一度もマキから一本すら取る事が出来なかった。十本勝負のうち、十回ともマキの勝ちだ。
・・・マキが強すぎる。
俺は更にむすっとした顔で遥か上空を睨む。別に、負けた事が悔しい訳ではない。これは、あくまで剣術指南なのである。それにむきになって、挙句の果てに本気を出した。それが、情けないのだ。
・・・そんな自分が、悔しくて仕方がない。この意地すらも鬱陶しい。
「・・・・・・ずいぶん、不満そうな顔ね」
「・・・・・・・・・・・・」
其処に、マキが呆れた顔で来た。マキは俺の横に座ると、苦笑を浮かべて俺の顔を覗き込む。
俺は、憮然としたままそっと溜息を吐いた。やはり、俺もまだ子供なのだろう。こんなにもマキに気遣われているのが解る。それが、やはり悔しくもある。
マキに気遣われている自分が、情けなくて仕方がない。そう考える事自体も、情けない。
「・・・・・・そんなに、むきになった事が恥ずかしい?」
「別に・・・・・・」
・・・そうやって、また俺は意地を張る。
そんな俺の意地が、マキにどう映ったのかマキは苦笑を浮かべた。そっと、俺の頭を撫でる。
「・・・・・・まあ、別に良いんじゃない?意地を張るくらい」
「ん?」
・・・それは、一体どういう事だ?
思わず、俺はマキの顔を凝視する。そんな俺に、マキは苦笑を浮かべる。
「私だって、意地を張る事くらいあるし・・・」
「・・・・・・俺は」
言い掛けてすぐに黙る。何を言えば良いのか解らなかった。此処で、何が最適か解らなかった。
しかし、マキはそんな俺の考えも見透かしたかのように微笑む。思わず、俺は視線を逸らす。
「私ね・・・、少し前まで復讐の鬼だったの」
「・・・・・・復讐の、鬼」
復讐の鬼。復讐鬼・・・
俺は、初めて出会った時のマキを思い出した。異能者を相手に、鬼気迫る顔で刀を握っていた。その時の彼女はまさしく、復讐の鬼だったのだろう。復讐鬼だったのだろう。
マキは、俺の頭を撫でながら微笑む。その笑みは、まるであの時のマキとは正反対だ。
とても、慈愛にみちている。深い愛情に満ちている。
「そんな私に、貴方は人並みの愛情を思い出させてくれた。人並みの幸せを思い出させてくれた。それはとても感謝している。感謝しても、しきれないけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・それは」
「ありがとう、宙。愛してる」
そう言って、マキは俺の頬にそっとキスを落とした。もう、俺の中から意地は消えていた。
俺は、僅かに笑みを浮かべて返事した。
「こちらこそ、ありがとう。マキと出会えて俺は幸せだ」




