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DeathDays  作者: 雪城ぴゅあ。
7/26

SchoolLife

それから、朝食を食べ終えた僕と霧夜は食器洗いなどの片付けを2人で済ませて、学校に登校する準備をする。

現在の時刻は7時半。

始業が9時である。

然し、その前にホームルームがあるから、それより前には教室に入り、着席している必要がある。

あまりのんびりとはしていられない。

霧夜は、足が速いのと運動が得意な為、陸上部なのだが、今は試験期間でお休みである。

試験期間が明ければ、部活も始まる為、霧夜の方が家を出るのが早くなる。

とは言え、霧夜は中学三年である為、部活を引退するのも後少しだ。

(思えば霧夜も、もう中学三年か。

部活を引退するのも近いんだな…)

中学三年など、あっと言う間だ。

3年間とは非常に短い。

小学の6年は長く感じられたものであるが、小学と比べれば、中学高校とはかなり短い時間である。

(中学の部活か。懐かしい…)

僕も、部活を引退する時は少し寂しく思えたものだ。

因みに僕は弓道部だった。

だが、霧夜と比べれば運動能力は低い。

実を言うと、運動は苦手な分野である。

体育とかも正直、あまり好きではなく、不得意と言ってもいい。

体を動かしたりするより、静かに本を読んだり、勉強している方が得意なのである。

人間誰しも、得意不得意があるものだと思う。

その中で、僕は運動があまり得意な方ではなかった。

皆無とまではいかないのが救いだ。

唯一、得意なのが弓道部だった為に弓道をなんとか三年間続ける事が出来た。

早朝からの練習だったり、或いは、厳しい走り込み練習などもあったが、それらは特に苦痛ではなく、割と好きだったと言える。

文武両道ではなく、至って料理と本が好きなだけの普通の高校生が僕である。

もしかしたら、勉強は人並み以上…であるかもしれない。

けれど、それは、日々努力しているからこその実績に過ぎない。

然し、勉強以外の事、特に運動面は情けないが、本気でどうしようもない。

もう一つ苦手な分野があるのだが、今は秘密だ。

それにしても、文武両道である人が羨ましい限りだ。

何でもできたらどれだけ自分に自信が持てるだろうか。


そんな僕が、今、所属している部活動は、文化部の料理部だ。

僕は、無理せず自分に適した事を頑張ったり、楽しみながら打ち込む事が最善であると考えている。

だから、高校生になってからの僕は、料理部に所属しているのである。

放課後に、パンケーキを作ってみんなでワイワイ食べたりするのが何より楽しい時間だ。

そんな時間を過ごすのが、終業時間までの間が非常に待ち遠しいのだ。

活動は週一だったり、週二。

部員同士でメールのやり取りして、今週は何を作ろうかと話し合う。

そして、集まる日を決めて活動をひそひそと行っている。

何を作ろうかと決めて話し合いをしている時も楽しい時間だ。

今週はまだ何を作るかも決まっておらず、活動内容が決まっていないのだが、今週の活動も今から楽しみである。


(前回が、フルーツタルトだったな。)

部活名は料理部だが、活動はお菓子を作る事が多い。

名前をいっそ、【甘党スイーツ部】にしても良いくらいだと考えてしまう程、我が部は、お菓子を作る事が多いのである。

まあ、それはないにしても【放課後お菓子クラブ】にしてもいいと思うくらい。

(やっぱり、僕にはネーミングセンスはないかもしれないけど…)

部活に所属している部員に女子が多いので、皆甘党で、殆どお菓子作りがメインになるのだ。

男子は少なく、女子に囲まれながら、レシピ本を持ち寄って、お喋りしながらお菓子づくり。

僕も甘い物は好きだし、お菓子づくりは好きだから全然構わないのだが。

まだ入部してから、料理らしい料理は作っておらず、それよりお菓子づくりばかりをしている。

男子の友達からは羨ましがられ、多めに作ったら出来れば欲しいとも言われたな。

次期部長は僕とも決まっていて、やり甲斐のある部活動である。

可能ならば、活動時間を延長したいくらいに、有意義な時間である。



お菓子づくりも好きだけど…

偶には料理部らしく、焼きそばとか、炒飯とか作ってみたいな。

放課後だし、授業を真面目に受けると頭も使うので、お腹も空く。

だから、お腹に溜まるものが食べたくなるのだ。

余った物は各自持ち帰りが出来るので、持ち帰った分は霧夜にあげたりしている。

すると、霧夜はとても喜んでくれる。

「お菓子だ〜!」とニコニコと笑い、嬉しげにしてくれるので、そんな霧夜の姿を見るのも楽しみである。

また、霧夜も陸上部での活動を終えると、かなりお腹が空くらしい。

勉強する前に食べると疲れが少しは取れるようだ。

『助かるよ。

次も楽しみにしていてもいい?』と、手作りのお菓子を霧夜からも期待されている。

それなので、部活動では霧夜の為に少し多めに作ったりしているのだ。

部費は少しだけ学校が負担してくれて、後は自腹と言った具合だ。

(今週の部活動は何を作るんだろう?

ワクワクするな)

「おっと。いけない…もう時間ないんだった。」


霧夜の始業が8時半頃。

どうやら、試験期間である為に30分特別に遅いらしい。

家に帰るのもずれて少し遅くなると言っていたな。

そうすると、やはり試験と言えども霧夜の方が僕より家を出るのが早くなる。

(僕も急がないと。)

「霧夜ー!早く!遅刻するよー!」

僕は遠く離れた場所に居る霧夜に声をかけて、登校する様に促す。

霧夜は、かなりマイペースなので、そうやって声をかけないと遅刻する可能性があるのである。

霧夜に登校前にこうして声をかけるのも、毎日の事である。

「分かった〜!」

霧夜の返事が遅れて返ってくる。

霧夜の登校に合わせて僕も家を出られる様に準備を急ぐ。

家を出る前に必ず行う日課があり、僕はある人の遺影が飾ってある部屋へと向かう。


ある人…。

それは、僕達の父親である。

僕らには父親が居ない。

父親は僕らが幼い頃に病気で亡くなっている。

幼い頃の記憶を頼りに父親を思い出せば、明るく溌剌とした穏やかで元気な人だったと思う。

暖かな春の陽気に似た雰囲気を、何処か感じさせる人。

そして、綺麗で儚げな人である。

僕達とよく遊んでくれて、素敵な父親だった。

そんな父親を思い出す度、寂しくなるが尊敬していた。

家族思いの素晴らしい父親であったという事やその立派な姿を覚えている為だ。

そんな父親は早くして他界。

儚げな雰囲気を持っていたので、いつか、突然、僕らの前から泡の様に忽然と消えてしまうのではないか、居なくなってしまうのではないかという心配はあったが、本当に居なくなってしまうとは思っていなかったのだ。

子どもだった時は、それが悲しくて堪らず、暫くの間、落ち込んだり泣いたりしていた。

何も手につかない時もあったし、ご飯が喉を通らない時もあった。

そんな時に母親は自分だって悲しくて仕方ない筈なのに、僕らを気遣ってくれて、頭を撫でてくれたり愛情を注いでくれた。

ご飯が喉を通らない時に、食べ易い様に工夫をしてくれて、僕らの好物を作ってくれたりした。

『どんなに辛くて悲しい事があってもね、ご飯だけは食べるのよ。

でないと元気も出ないし、天国のお父さんも悲しむわ。』

そう言って、食べられなくなってしまった僕らの為に母さんは、優しい味のする温かなクリームシチューを作ってくれたのだ。

母さんの手作りの愛情たっぷりのまろやかな味わいのクリームシチュー。

母さんのクリームシチューが大好きで、父親を亡くした辛さを感じていたが、母さんのクリームシチューだけは食べる事が出来た。

そんな母さんのクリームシチューを食べながら、父親を亡くした悲しみを堪えきれず、2人して泣いてしまった事もある。

母さんは、父さんのお葬式の時には、一度も僕らの前で泣いたりしなかった。

子どもである僕らに、親として心配をかけまいと懸命に堪えてくれていたんだと思う。

でも、その時はじめて母さんは僕らの前で涙を零したのだった。

母さんの弱さをはじめて見た瞬間だった。

幼い頃の記憶を辿る。

母さんは、無理やり笑みを浮かべながら言った。

でも、その声は涙混じりだった。

『大丈夫なのよ。

きっと、此れから私達にはいい事が待っているから。

どんなに苦しくても、笑っていましょう。

でも、今だけはどうか…

貴方達の前でありながら弱さを見せる私を許して。』と、両手で顔を覆いながら涙を零すのを見たのだ。

始めて母さんが僕らの前で、弱さを晒し、漸く涙を流した。

そんな母さんの流す涙と泣く姿を見ていた僕らはズシリと酷く胸が痛んだ。

その後、僕らは母さんの涙につられて、共に涙を零したのを覚えている。

母さんをぎゅっと霧夜と抱き締めながら。

此れからは、”2人で守るから決して離さない”と、でも言う様に。


それから僕らは決めた。

2人だけの約束をしたのだ。

『此の先は、何があっても必ず僕ら2人で母さんを守っていこう。』

指切りをして心に誓った。

あの日の出来事は絶対に忘れはしない。

霧夜と2人で守って行くと決めたあの日の出来事は。

だが、今では母さんは家には居ない。

母さんは僕らの為に働き詰めになっていた。

母子家庭になった為に働きまくり、母子家庭であろうとも僕らを守り、不自由はさせないと無理を重ねた。

『私は大丈夫よ。

心配しなくていいの。

貴方達の未来の為にも稼がなくちゃ!』

母さんはニコニコしていたが、そんな母さんを僕らは心配をした。

無茶はしないでと言っていた矢先、母さんは疲労で倒れてしまった。

生憎、何かの病気ではなかったのだが、心臓が凍りつく様だった。

怖かった。

母さんまで失ってしまうのではないかと。

母さんが運ばれた日の事を思い出すと今でも、怖い。

霧夜は泣いて母さんの名を呼んだ。

僕は呆然としながら、母さんの手を握っていた。

《母さんまで失いたくない。

どうか死なないで。居なくならないで》

そんな風に心中で強く願って、母さんが病院に運び込まれて行くのを見ていた。

病気ではないと知り、安心はしたが、これ以上の無理を母さんにして欲しくない。

『無理を重ねれば今度は本当に病に倒れてしまう可能性がある。』と医師からは言われた。

医師から言われた言葉の通り、僕もそんな気がしていた。

だから、医師からそう告げられた時、僕は母さんには休んで貰う事にしたのだ。

父親が他界し、僕らの為に休まず働き続けて無理を重ねた母さん。

医師から危険な状態であったとも言われたのである。

可能性がある…。

つまり、この先無理を重ねたならば、病に倒れてしまう確率が高いという事なのだろうから。

《休んで貰わなきゃ。母さんには》

病室でベッドの上で疲れた表情で、横になっている母さんを見て僕はそう感じていた。

それと、そんな母さんの為に何かしてやれる事はないのだろうかと。

なんでもいいからしてやれる事があるなら、何でもしようと本気でそう思った。


母さんが倒れて病院に運び込まれたその日は、目を覚まさなかった。

その後、目を覚ました母さんは少しずつ回復してきて体を起こせるくらいにはなった。

直ぐにでも、自宅に帰りたいと望んだ母さんだったが、自宅に帰ってきたら再び無理をして倒れても困る為、暫く安静にして欲しい思いがあり、療養して貰っている。

その為に、霧夜と2人だけの生活を今は送っているのだった。

(母さん…)

母さんの為に唯一僕らにできる事…、それが勉強に励み、これ以上の負担はかけない事であった。

元々、少し身体も弱かった母さんなので、体に大きな負荷がかかっていたらしいのだ。

その為、母さんは長く入院する事になり、僕らは暫くは母さんの居ない生活を送らなければならないのだ。

だが、そのくらい我慢出来る。

母さんを失うよりずっといい。

だから、僕らは2人で頑張ると決めた。

勉強も家事も2人で母さんの為にも頑張っていこうと強く決めた。

本来ならば、代わりに働きたいくらいだが、学生である僕らにそれは出来ない。

代わりにやれる事なんて限られている。

数少ないからその分、自分達に出来る限りの事を頑張りたいのだ。

そうして、僕らの2人生活が始まり今に至るという訳である。


「辛くないよ。

母さんが休む事に専念できるなら全然。

僕は頑張るよ。霧夜と共に2人で…」

どんな苦しみも痛みも2人で、必ず乗り越えてみせるよ。

僕は父さんの遺影に語りかけながら、両目を硬く閉じて手を合わせる。

「大丈夫、心配しないでね。父さん。

霧夜の事は僕が守るよ。

勿論、母さんの事も。

僕に任せて…

だから、安心して見守っていてね。

父さん。行ってきます」

必ず、こうして登校前に父さんに語りかけている。

そうして、行ってきますと言ってから家を出る様にしているのだった。

父さんに語りかけて言葉にする事で、自分に言い聞かせているのだ。

自分に言い聞かせて、この先を乗り越え、頑張る為に言葉にしているのだった。

何となく、遺影の父さんも微笑んでいる気がした。

(父さんはきっと見守ってくれている。

微笑んでくれている。

そう。僕はきっと大丈夫だ。)

霧夜と僕の2人ならばきっと…。

きっと、大丈夫なのだ。

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