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DeathDays  作者: 雪城ぴゅあ。
6/26

Thank you

受験勉強に励む霧夜の為に僕も何か協力してあげたいと感じた。


「あ。

そうだ、受験勉強をすると少しは疲れるだろう?

お腹も空くだろうし、夜食を作るけど何がいいかな?」

受験勉強を頑張ると言って、固く決意した様子を見せた霧夜を見て、出来ることには限りあるけれど、何かしてあげられるのであればしてやりたいと思い、僕は夜食を提案した。

すると、霧夜は「えっ⁉︎」と驚いた顔をする。

「いや、今はまだ四月だし。

そこまでは大丈夫だって!

兄ちゃん大変だろうし」

霧夜はやんわりと断るが、僕としても受験勉強の大変さは経験済みだから、夜食くらいは作ってやりたいと思い、半ば強引ではあったが、再度夜食を勧める。

「いやいや、四月でもさ!

僕を思っての事だとは分かってる。

そんな霧夜の気持ちは、よーく分かるけど僕にも何かさせて欲しいな!

というか、何かしらしてあげたいんだ。

兄としてね」

霧夜は困った表情で少しの間、迷う様にして、うーんと唸る。

(ひょっとして、迷惑だったかな…?)

霧夜は暫く考えてから、直ぐにぱあっと顔を明るく輝かせて、僕に作って欲しい物をリクエストする。

「じゃあ、好意に甘えて‼︎

あれ!

あれがいいな‼︎

あれ、作ってくれる?兄ちゃん」

霧夜は「”あれ”が食べたい!」と言うが、あれとは何だろうかと思い、僕は首を傾げて、聞き返した。

「あれ?」

「兄ちゃんの特製のオムレツ‼︎」

”そんなの決まってる!”と言わんばかりに霧夜はハキハキと答えた。

オムレツが食べたいと言う霧夜の為に、今夜は、とびきり甘くて美味しいオムレツを作るぞ!と意気込む。

「オムレツか!任せて」

「おぉっ!楽しみ〜〜‼︎」

霧夜は「待ち遠しい」と喜んでくれた。

それから再び、いつもの様にニコニコと笑って、かなりオムレツを楽しみにしている素振りを見せる。

若干であるが、主人からご飯を与えて貰えるのを楽しみにして待ちながら、尻尾を振ってる犬のようにも思えてしまう。

言ったら怒られそうなので、敢えて口には出さないが。



(霧夜嬉しそうだ。

夜食は甘くて美味しいオムレツを作ろう)

オムレツは得意だ。

ふわふわにして焼くのが一番好きだ。

ふわりとしたオムレツ程、美味しいオムレツもないと思う。

中身はとろ〜んと、優しくとろけて舌触りのいい滑らかで濃厚な甘いオムレツ。

僕の得意な料理のレパートリーでも、上位の方である。

その上に、ケチャップを少量かけてハートの形にしたり、星の形にしたりする。

霧夜は恥ずかしいのか、『ハートの形はやめてよ〜』と以前言っていた。

確かに、僕も今の霧夜からしたら、それは少し恥ずかしいのかもしれないなとは思うのだが、どうしても小さな頃の霧夜を思い出してしまい、うっかりハートの形にしてしまったりするのだ。

幼い頃の霧夜は、ハートの形にやたらと拘っていたのを覚えている。

そんな霧夜を思い出してしまい、ついハートの形にしてしまう。

別に嫌がらせではないのだが、そんな幼い頃の記憶が蘇って、気付けばケチャップをハートの形にしてしまうのだ。

その為、ハートの形のケチャップ付きオムレツが完成してしまうのだった。


「ハートの形はやっぱり嫌?

昔はあんなに好きだったのに?」

霧夜を少し揶揄ってみる。

すると、霧夜は頰を軽く膨らませる。

(ちょっと可愛いかもな。

なんて言ったら、更に頰を膨らませて拗ねそうだけど。)

霧夜の昔からのクセ。

軽く拗ねると頰をぷっくりと、リスみたいに膨らませて見せるコト。

幼い頃から変わらない。

そんな霧夜を見て微笑する。

変わった事もあるけど、あまり変わっていない事に安心感を得る。

お互いの癖は、お互いに熟知している。

それだけ長い付き合いだ。

「もう。兄ちゃんの意地悪…。

確かに昔はハマってたんだけどさ。

流石にこの歳だと恥ずかしいっていうか、かなり繊細な時期というか。

デリケートなの!」

「あはは、冗談だって。

揶揄ってゴメン!」

「たま〜に、兄ちゃんは俺を揶揄って遊ぶのが好きだよね!

まぁ、そんな兄ちゃんも幼い頃から好きなんだけどさ。」

「うん。そうかもしれないな〜!」

ちょっと意地悪を言ってみる。

それが冗談であるという事も、態々、口に出して言わずとも互いに理解している。

僕達は、とても仲の良い兄弟である。


「全く兄ちゃんは〜!」

「あははは!」

お互いに笑い合って、それから朝食を食べ始める事にする。

「さぁ、時間もあんまりないし、さっさと朝食を食べてしまおうか。

すっかり冷めてしまって申し訳ないけど」

「あ、そうだね。もうこんな時間が経っていたなんて。

あっと言う間に登校時間になっちゃうね。じゃあ、早速食べよう!」


僕達は、向き合って席に着いて、テーブルに並べてある朝食を漸く食べる事にする。

登校時間まで大して時間もない。

ついつい、話し込んでしまった。

(料理もすっかり冷めてしまったし…)

後は食べるだけだったのに、完全に朝食を食べる事を忘れ去っていた。

僕は紅茶を淹れて、霧夜と自分のティーカップに注ぐ。

僕達は、朝から紅茶を淹れて飲むのが日課だ。

それは、母さんが居た頃から変わらない日課である。

それは毎朝の事で、登校前の朝食の時間には必ずというくらいに紅茶を飲む。

今朝は、ミルクティー。

まろやかな味わいがお気に入りだ。

マイルドな感じで、僕は数ある紅茶の中でもミルクティーはかなり好きである。

紅茶は繊細だ。

淹れ方、温度によって違うと思うのだ。

茶葉も種類が豊富で楽しい。

ほのかに香る茶葉の香りも好きだ。

ストレートティーにミルクを注ぎ込めば、ミルクティーが完成する。

「今朝はミルクティー。

ミルクはお好みで。」

ミルクの入った容器を霧夜の方に差し出す。

霧夜はそれを両手で包み込む様にして、受け取る。

「わぁ、美味しそうだね!」

霧夜が、僕の淹れ方ばかりのミルクティーを見て歓声を上げる。

「きっと美味しいよ。

僕はミルクティー結構好きかも」

多趣味な事で、マイブームもよく変わるのだが、今はミルクティーが僕の中で、マイブームだ。

「兄ちゃん、紅茶には拘りがあるもんね

好きを超えて最早、コレクターの域だし。」

「そうかな?そんなに?」

コレクターの域だと言われて、自分でもそれほど、紅茶に対して入れ込んでいるのかと驚かされる。

霧夜は紅茶を一口飲んでから、頷く。

「うん、そんな感じ!」

「褒められてる?」

「かなり!

このミルクティーも味わい深くて美味しいし。

兄ちゃんは、本にも拘りがあるけど、紅茶にも拘りがあるもんね。

というより、多趣味だから色々好きなんだっけ?」

(多趣味な事で色々な物にハマるんだよね。

その間、楽しくて仕方ないけど)

「一時的な物もあるけど、大体ハマってしまうんだよね。」

「そうそう。だからハマると凄いよね!

今日から、【紅茶博士】とでも呼ぼうかな?

以前に兄ちゃんと紅茶の話をしたら、凄い盛り上がってかなり詳しかったよね。」

以前、紅茶を飲みながら紅茶について話した事がある。

その時は互いの趣味についてを語り、話に花を咲かせた。

偶々、紅茶についても本で読んでいた為、豆知識等についても余談として、霧夜に話して聞かせた気がする。

「ああ、あれは本で読んだからさ。」

「本で読んだら大体丸暗記出来るのも、兄ちゃんくらいだよ。

凄いなって思うな。感心するよ。

小さい時から図書館が大好きで、本を愛して止まず、時間を忘れて本に熱中して、食べる事すら忘れてしまうくらいだし。

しかも、読んだ本のタイトル、そのストーリー、図鑑であれば雑学さえ殆ど暗記してくらいだ。」

霧夜の言う通り、幼い頃から本が大好きで、図書館にはよく入り浸っていた。

家に帰っても、本ばかり読んでいた。

書簡が欲しいとすら感じ、部屋の中には本が積み上げられてるほど。

読みたい本は山ほどあり、コレクターの域だと言っても過言ではない。

因みに、これからまだ増えていく予定である。

どれを読んでも面白く、知識は宝の山だと考えている。

古くなった本の香りも好きで、それこそ、紙の本の味わいと言うか、醍醐味であると思っている。

熱中すると、食べる事すら忘れてしまうのも本当である。

本屋に入れば何時間でも居たいくらいだ。

図書館だって、何時間でも入り浸って、本を読み漁りたいくらいである。

活字中毒とも言える域に達している。

「本や料理に関しては、兄ちゃんの右に出るものは居なそう…!

ホント、凄いよ兄ちゃんは。

俺の尊敬するたった1人の兄ちゃんだ。

だから、俺も寂しくない。」


本が大好きだから、読めばただ記憶に残りやすいだけだと思う。

自分ではそんな凄い事の様には思わないけど凄いのだろうか?

(霧夜はそう言うけど、僕は霧夜の方が凄いなって尊敬する所ばかりだけどな。)

「そんな事はないよ。

上には上がいるし。

けど、そんな風に言って貰えると嬉しいな。

霧夜を寂しいだなんて言わせないよ。

側にいる。いつだって」

「いやいや、凄いって。

俺はバカなだけかもしれないけど、暗記するのってちょっと苦手なんだよね」

「そんな自虐しなくてもいいのに。

霧夜は知らないかもしれないけど、僕も霧夜を凄いって尊敬してるんだから。」

「そうなの?そっか!

兄ちゃんにそんな風に言って貰えて、嬉しいな」

「そうだよ。

だから、霧夜は自信を持っていいんだ。

時間も無いし、食べよう。

…さて、いただきます。」

「いただきま〜〜すっ!」

手と手を合わせて、食事前に礼儀正しく、「いただきます」と挨拶をする。

これも毎朝、必ず2人で行う日課だ。

こうして向き合って食べるのも、朝食を食べるのも揃ってから食べると決めている。

それは、幼い頃からの母さんの言いつけで、そして3人の約束でもある。

朝食を食べ始めるのが遅くなってしまったが、漸く霧夜と落ち着いて朝食を食べ始める。


霧夜が、僕の作ったスクランブルエッグに口を付ける。

(冷めてるけど大丈夫かな?)

「ねぇ、霧夜。

冷めてしまったけど、美味しいかな?」

すっかり、冷めた料理の味が気になって霧夜に尋ねる。

「美味しいよ‼︎

兄ちゃんの手料理だもん。

冷めていようと不味いはずがないよ。

仮にも不味かろうと絶対食べるし、残しもしないよ。だって、兄ちゃんの料理が不味かった事なんて一度もないし、兄ちゃんが作ってくれた事に意味があるんだから!」

そんな霧夜の言葉に安心させられる。

「霧夜は優しいね。ありがとう」

優しい笑顔を浮かべて、答えてくれる霧夜に対して、本当感謝ばかりだ。

そう言えば、霧夜に対してこれで今日何度目のありがとうだろう…と考えていると、霧夜が「何回目のありがとうだかもう分からないね。」とおかしげに笑った。

「本当に」

霧夜につられて僕も笑う。

「でもさ、何回言ってもいい言葉だよね。

ありがとうって。

言われると胸の奥がぎゅっと熱くなる。

凄く嬉しいって気持ちにさせられる。

言葉だけでそう言った気持ちにさせたりする事が出来るから、やっぱり、素直な自分の気持ちを相手に伝えるのって大切だね!」

「そうだね!

好きな言葉だよ」

「俺もありがとうって言葉大好きだよ。

何回言ってもいいと思うんだ。

好きって言う言葉と同じくらい、言われて嬉しい言葉だと思うから。

俺も「好き」って言葉と同じくらい、沢山沢山、ありがとうって言うよ。

兄ちゃんにも、それから友達にもね。」

「そうだよね。

僕もそう思うよ」

確かに、ありがとうって良い言葉だ。

響きも何だか温かい。

「好きだ」と言う言葉を多用して、伝えるのと同じくらいに、「ありがとう」と言う感謝の言葉も、繰り返し、相手に伝えていい言葉だと思えるのだ。

それは相手を思い遣り、感謝を伝えるための掛け替えない言葉であると思えるから。

(幾らでも伝えていい言葉か。)

霧夜の意見を聞いて、その考えって素敵だなと思う。

「そういうのいいよね。素敵だなと思うよ。」

「だね!」

「それに霧夜が美味しげに食べてくれるから、安心した。

冷めると料理ってあれだから。

本来なら冷める前に食べさせてあげたかったんだけど、うっかり話し込んじゃって…」

「いいよ。兄ちゃんと話をするのも、料理を食べるのと変わらず好きだからさ!

そう言えば、ずっと前の兄ちゃんの料理、懐かしいな。

あの頃、兄ちゃんは料理を作り始めで、今みたいな感じじゃなくて、もっと個性的な男らしい料理を作ってくれてたでしょ?」

「ああ…そう言えば。」

そんな事もあった。

まだ料理を全く知らず、相当出来ずに、料理本等のレシピで学んでる段階だった頃の話だ。

動画などを見て学び、見様見真似での作り始めで、ひどく下手くそな時の話だろう。

態々、言葉を選び、オブラートに包んで話してくれているのが、霧夜の優しさだ。

「霧夜、いいよ。

本当の事なんだし、下手って言ってくれて…

我ながら酷い出来だったんだから」

あの時の料理は、大体真っ黒焦げにしてしまい、味は酷く食べられた物ではなかった。

(闇鍋の様で、魔界みたいな料理を作ったりしてしまったんだよね…)

だが、そんな料理も「兄ちゃんの作ってくれた料理だから。」と、霧夜は食べてくれたりした。

焦げてて不味いはずなのに、「美味しいよ」と言って食べてくれる霧夜の姿を見て複雑な心境だった。

美味しいと言われて嬉しい筈なのに、それが少し悔しかったのだ。

どうせなら一番美味しく作れた料理を食べて言って欲しいと感じた。

それからは、料理を学び、練習して完璧で美味しく作れる様に努力をした。

その過程は大変ではあったが、霧夜が美味しげに食べてくれるのが今は嬉しい。

料理の練習を重ね、邁進して取り組んだのが懐かしい。

今は自信があるから、どんな料理でも任せてくれって思えるくらいには成長した。

「えっと…、色々と斬新な料理とかあって、あの時はびっくりしたんだけど、今はもう完璧で凄いなって。

そんな努力家な兄ちゃんは、美味しく作れる様にって、日々頑張ってくれて。

然も、短期間で直ぐにとても美味しく作れるようになって…

だから、兄ちゃんの腕が確実に上がったのは、料理を見ても食べても直ぐわかる。」

霧夜は、僕の料理を見つめて言った。

「霧夜…」

「後さ、これって、やっぱり俺の為だよね?

美味しい物を食べさせてくれようと、凄く努力してくれたのも、それが俺の為である事も、俺、ちゃんと見てて知ってたから。

ありがと兄ちゃん!」と、霧夜は満面の笑みで言って、今朝も僕の朝食を美味しそうに完食してくれたのだった。

(ありがとう、霧夜)

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