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DeathDays  作者: 雪城ぴゅあ。
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Morning3

「卵料理から作るか。」

(卵、卵…)

手慣れた様子で、冷蔵庫を開けて僕は卵を数個掴んで、そのまま取り出す。

フライパンに油を適量に注ぎ入れて、コンロ台の上に乗せて置く。

それから、コンロに火をつける。

赤々とした炎がゆらゆらと揺れる。

「スクランブルエッグにするか…」

クロワッサンには調度いいだろう。

以前は、レシピを参考に見ながら料理をしていたが、すっかり手慣れた今では頭の中にレシピは暗記されている。

何をしたらいいのかは体が覚えている。

レシピを見ながら一々、手順を確認する必要はなく、寧ろ、手順を確認する時間が勿体なく思える程だ。



窓の外からは小鳥の囀りが聴こえてきて、すっかり朝と言った感じがする。

小鳥の囀りと料理をする調理中の音。

それらがキッチンを包み込み、爽やかな朝の空気を全体で感じた。

リズミカルに刻む包丁の音色。

フライパンの上で、油がパチパチと弾ける音。

楽器ではないが、調理する時の音というのは色々な音の組み合わせがあって、オノマトペが豊富だ。

(まるで、一つの音楽を作り出すような…)

そんな料理する時の音を、僕は何だか合唱の様に感じられた。

また、其々の音色を思い思いに奏でている様にも思えた。

「楽しい気分になるな。料理って。」

リズミカルと言えば、母さんが朝、この場所に立ち、包丁で野菜を刻んだりしながら料理をしている時は賑やかに感じられた。

そんな料理をしている母の姿を見るのが、僕は好きだった。

鼻歌交じりにフライパンを握りながら、美味しそうな香りをキッチンとリビングに漂わせて、ニコニコしながら僕らに『おはよう』と言ってくれる母さんが好きだった。

今は、此処にはいないけれど…。

「会おうと思えば会えるじゃないか。

寂しく思う必要なんてないはずなのに」

母さんを思えば、少し気持ちが沈んでしまった。

気づけば、僕の手も止まってしまっていた。

(いけない。頑張ると決めたんだから)

気持ちを奮い立たせ、料理を再開する。



スクランブルエッグを作り終えると、皿を棚から取り出す。

そうして、そのまま皿に盛り付ける。

ついでに、別の皿も手際よく取り出して、クロワッサンも綺麗に盛り付けた。

それから、冷蔵庫の中から食材を取り出して、僕は弁当用の卵焼きを作り、ウインナーをタコさんにしてから焼いて、弁当箱にプチトマトを詰めて、それらの他にもおかずを用意した。

今朝も完璧で、手抜き無しの色鮮やかな弁当を作った。

作ったおかずを、弁当箱に並べて詰めていく作業が割と楽しくて、ついつい、多めに作り過ぎる。

弁当箱に収まらず余った物を、朝ごはんとして食べる。

それが、僕の毎朝の仕事だ。

作ったばかりの料理を皿の上に盛りあわせて満足した僕は、腰に手を当てながら大きく頷く。

「これでいいかな?」

彼奴は、受験生なので疲れているだろうし、できるだけ寝かせておいてやりたい。

塾に行き、夜遅くまで勉強して帰って来る彼奴は弱音も吐かないで頑張っている。

そんな背中を応援してやりたいと思うのは、家族としては当然だ。



(それに。

受験生に、毎朝、こんな忙しくて大変な事をさせる訳にもいかないし。)


本当、今の僕って母親代理の様だ。

この生活になった時は、辛くもあったが、慣れればなんとかなるものだ。

てんてこ舞いだった時が遠い過去のよう…

ふと、懐かしくなった。




スマホで、レシピを調べて次は何を作ろうかと検索して見る。

「ふむふむなるほど、チャウダーか。いいかもしれない」

さて、今は何時だろう?

そろそろ、彼奴も起きて来るはずだ。

時刻を確認すれば既に6時。

これらの事が、一時間で終わる様になったのも、練習した為である。

最初は、本当に大変だった。

味付けだったり、見た目だったり、それから、洗い物だったり。

帰って来てから溜まった洗い物をしたりとか、買い物に行って食材の調達をしたりとか、本当に色々と。

経験を積んできたからこそ、何事も練習あるのみって感じがする。



「次は、洗い物を済ませよう」

使った料理道具等を素早くも、丁寧に洗って片付けた後、換気の為に窓ガラスを開けた。

窓を開けると、窓の外からは春の甘やかな香りが漂う。

僕は大きく深呼吸して、その甘やかな春の香りを胸いっぱいに吸い込む。

(春だなぁ。清々しい気分になる。)

「自然の香りだ。」

爽やかな春の空気を吸うと、何だか散歩したい気持ちになってくる。

(朝は忙しいから、中々そんな時間もないんだけどね)


僕は、テーブルの上に並べられた美味しそうな料理を満足気に見る。

それから、浅く椅子に腰掛ける。

序でに、着けていたエプロンも外した。

そして、弟が起きてくるのを待つ。

(まだかな?)

少しずつお腹も空いて来る。

(お腹空いたな…)

けれど、毎朝、必ず二人揃ってから朝食にする。

だから、僕は弟がリビングに降りて来るのを待っていた。

(後は2人で食べるだけ)


暇つぶしにと、テレビを付け、早朝のニュースを流す。

テレビのアナウンサーも、まだ眠たそうな目をしている。

それでも情報を国民に正しく伝えようと、原稿を一生懸命読んでいる様子を見ると、流石プロだなと毎度思うのだ。

僕は、そんなアナウンサーのプロとしての姿勢を尊敬していた。

(本当凄いな。まだまだ眠いだろうに)

然も、毎朝、同じ時間にぴったり始まるのも凄いなと改めて思う。

だが、何となく飽きてしまって、すぐに消す。

僕は、代わりにスマホで最近ハマってるバンドの中でも、特にお気に入りの音楽を流した。

どうやらジャンルは、v系というものらしい。

かなり派手な曲調だが、今ではすっかりハマった。

元々、僕が特に好きだったのはクラシック。

そんな僕だったから、v系にはハマってすらいなかったのたが、こうして興味を持って聴く様になった。

そのきっかけは、”友人”に強く勧められてからである。



『このジャンルが堪らなく良くてさ!

ずっと、これにハマってるんだ!』と、”友人”は話していた。

”友人”のハマってるものに関しては、話を聞いたらその後に必ずチェックする様にしている。

そして、チェックして自分も同じ曲を聴いてみる。

そんな風にして、興味を持っている事柄の話を、共感して聞いてあげられる様にしている。



(そうしたら、以外にもハマってしまったんだよね。

テンポとかも好きだし、良い曲だと思うな。

割と歌詞も好きかも)

そのv系バンドの音楽を聴きながら、僕は椅子から立ち上がると、冷蔵庫の前まで行く。

そうして、先ほど開けたばかりの冷蔵庫の扉をもう一度開けて、中にある食材を確認する。


(卵はさっき僕が使ってしまったから、後で買い足さないといけないな)

中には、卵が数個、バターやケチャップ、マヨネーズとチーズ、昨日の夕飯の残りに色々な物が入っている。

母が居た頃もこんな感じで、調理道具の他、食材を確認してしっかり揃えていた。

だから、それを見習い、僕も食材の確認はするようにしている。

僕は近くに置いてあったメモ用紙と、ペンを適当に取り、確認しながら食材名を書く。


「…えっと。

今日は、卵を使ったから卵も買っておくか。

そうそう!

確か、特売に牛乳があったな。

それも買っておこう。」

チラシも常に見るようにしていて、何が特売であるのか、大体は記憶している。



「後は…あれと、ああ、味噌だ!」

僕は、冷蔵庫の中身を見終わると、メモに必要な材料名を書きながら思索する。

「これでよし!

メモにも書いたし、忘れる事はまずないはずだ。

後は、帰り際に買い物する事を忘れないようにする事かな!」

僕が、テーブルの上にペンを置いた時に、弟が起きて来た。

しっかり、制服を着ていて登校前の準備はすっかり整っているようだった。

「おはよ。兄ちゃん!」

今朝も、元気よく朝の挨拶をする。

「うん、おはよう。」

朝の挨拶は、必ず互いに毎日行う日課である。

そして、彼が僕の弟の霧夜だ。

霧の夜と書いて、読みはきりや。

柔らかな雰囲気を持った美少年。

キャラメル色の髪で、イケメンであり、人気がある。

その上、かなりお洒落にこだわりがある。

若干、茶髪の様にも見える。

因みに、明るい髪色をしているが、染めているわけではなくて、地毛である。

文武両道、根は真面目で優しくて友人も多く人気者だ。

髪色は明るいのだが、地毛であるため、不良ではない。

すこしチャラさがあるけど、別に絵に描いたような不良という訳でもなく、勉学にもきちんと励んでいて、家事も行ってくれる、気遣い上手な弟である。

そんな弟の霧夜だから、勿論、女子にはモテモテだ。

実際、下級生の後輩からも慕われている。

バレンタインも多くのチョコを貰って帰って来ていた。

そのぶん、お返しが大変そうだったけど、一人一人に合わせてお礼をしている。

律儀で、礼儀正しいのだ。

そんな所が、モテている要素となっているのだろう。

そんな所を兄である僕も見習っている。



僕も貰えるならば、嬉しさから確実に倍にしてお返しするけどね。

(僕は今までにチョコを幾つ貰えただろう?)

指で数えられるくらいかも?

指折り数えながら軽く落ち込む。

弟の霧夜とは全く比べ物にもならない。

(兄である僕だが霧夜には完全に負けている…っ‼︎

いや、いいんだ。

僕は寂しくなんか…

寂しくなんかないんだ〜‼︎)

心中で叫ぶ。

実を言うと羨ましい。

本音はかなり羨ましい!

心中で、霧夜はいいなと涙を流しながらも、霧夜が幸せならそれでいいかなと思う。

(霧夜には幸せでいて欲しいから)



こんな暮らしの中でも、文句や弱音の一つ零さない。

霧夜は中学三年生だというのに、実に大人らしく、現実を受け止め生きている。

思春期でもあるというのに、反抗すらせず、霧夜は偉い。

然も、受験生だから毎日夜遅くまで、塾で受験勉強に励んでいる。

昨夜も、遅めに帰宅してから部屋でもまた勉強してから眠りに就いた様だった。

僕の記憶では、明らかに既に深夜を過ぎていた。


それでも、朝からニコニコと太陽の様な笑顔を見せてくれる。

疲れを一切見せない笑顔を浮かべて。

無理をしているのではないかと心配になる。

疲れているのに我慢して、明るく振舞って笑顔を浮かべてくれているのではないかと…。


「霧夜、大丈夫?」

「ん?何が兄ちゃん?」

にこりと笑っているが、やはり心配だ。

「昨夜も遅かったみたいだけど。

僕の前では無理しなくていいんだよ?

兄弟なんだし。」

「大丈夫大丈夫!

無理なんか全然してないよ。

寧ろ、俺は元気なのが取り柄なんだし。

心配してくれたんだよね。

ありがとう!兄ちゃん!

だけど、俺は全然大丈夫‼︎

健康にも気をつけてるんだし!

身体の具合も朝からばっちりだよ!」

「本当に?」

「本当だって!大丈夫、心配ないよ。

無理はしないって約束するし‼︎

ちゃんと睡眠だって取ってるよ。

よく食べて、よく勉強してそんで寝る!

疲れた身体を癒す為にもね。

疲れも取れてるし、平気だよ。

アイル兄ちゃんは心配性だからな〜。

けど、嬉しいよ。ありがとね兄ちゃん!」

「そっか。それなら良かった!」

「うん。安心していいよ。

俺ならこの通りで元気百倍だし!

問題ナッシング‼︎」


体調を気にかけて、心配する僕に霧夜は元気良く頷いて見せた。

それから、グッジョブと親指を立てて見せる。

どうやら、無理はしていない様で安心する。

笑顔を浮かべているのも、特別無理矢理に笑っているとかでもないらしい。

「俺、こう見えて逞しいから!

それより、俺は兄ちゃんの方が心配…」

霧夜が、少し悲しげな顔をする。

「え?」

「だって、俺には何も言わないでしょ?

疲れたとか、大変だとか。

色々、兄ちゃんは真面目に頑張ってて、家事も俺より沢山してくれてる…

当番も変わってくれてるし。

弱音とか一切俺に零さないから。」


(そうか。

霧夜も霧夜で僕と同じ事を考えて心配してくれていたのか。)


「本当は大変なのに無理してるんじゃないかとか、俺も心配なんだ。

兄ちゃんも高校生なのに。」

2人での生活には多少不便な事もある。

だが、別に無理などしてはいない筈だ。

「大丈夫!霧夜が毎日元気で、僕の料理を嬉しそうな顔をして食べてくれるだけで満たされてるから。

全然心配ないよ。ありがとね霧夜」

受験勉強で忙しい筈なのに、僕の事まで気にかけてくれるなんてやはり優しい弟だ。

然し、どんなに苦しい時であっても、霧夜が何時もの幸せそうな笑顔を浮かべているだけで僕も幸せのおすそ分けをして貰えている。

嬉しげに僕の料理を食べてくれるだけで、十分な程に満たされてるから。

(だから、僕は苦しくなんてないんだよ。)



「本当に?」

「うん、本当だよ。

ありがとう、霧夜。

だから、朝ご飯食べようか!

今日も一日元気に過ごす為にね。」

霧夜には照れ臭くて面と向かっては素直には中々言えないが、霧夜が居て、笑顔を見せて僕の手料理を食べてくれるだけで、本当に満足なんだ。

この生活を守る事が出来るならそれでいいのだ。

その為に僕はこの生活を守りたいのだ。

(霧夜の事は兄である僕が責任を持って必ず守るからね)



「そっか!それなら良かった‼︎

兄ちゃんが幸せなのが俺の幸せ。

兄ちゃんが笑っているなら俺も幸せ!

兄ちゃんと変わらずに一緒の生活ができるなら、俺も満たされてるよ。」

本当にどうして霧夜は言わずとも、全部わかってくれるのだろう。

「霧夜は何時も何も言わずとも、全部分かってくれるよね。

そんな霧夜が兄として…大切な家族だよ」

照れ臭くて言えなかったが、好きだと言いたかった。

家族として好きだよと。

言葉にする時、思わず霧夜から目線を逸らしてしまったが、霧夜に視線を戻すと霧夜がにっと嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「俺も‼︎」

朝から兄弟の絆を確かめ合って、若干、気恥ずかしくなって視線を落とす。

(やっぱり霧夜は優しい。)

「今日も1日元気よく頑張ろうね!

兄ちゃん!」

「そうだね!」

どんなに辛い環境に置かれても変わらずに明るく毅然とした態度。

気遣いも出来て優しい霧夜は自慢の弟。

そして、何より大切な家族。

霧夜が皆に好かれ、惹かれるのも分かるな。

そんな霧夜の存在を僕が兄として責任を持って守っていくんだと、改めて強く思う。


「あ、そう言えば…

言うタイミング見失って言えなかったんだけど。

兄ちゃんが、今朝も頑張って弁当作りや料理をしてくれてる間に、俺も洗濯物やっておいたよ。

因みに、とっくの昔に干して洗濯物は終わったから!

兄ちゃんが起きてから、その直ぐ後に俺も起きていたんだ。」

霧夜がピースサインをして、ばっちりだよと言う。

「そうだったんだ。ありがとう」

「礼なんて全然いいよ〜

寧ろ、兄ちゃんの方が大変だろ?

毎朝、朝食から弁当作りまで…

本当にありがとう!

兄ちゃんの手料理美味いし、俺大好きで、朝昼夕、毎食楽しみなんだよ。」

霧夜が照れ臭そうに笑う。

「そっか!それは良かった。

口に合ってるといいんだけど。」


さらりとそう言う事を言ってくれるから、僕としても作り甲斐があるという物だ。

疲れていても霧夜の笑顔を見れば、疲れなんて、何処かに吹き飛んでしまう。

「口に合ってるも何も凄く美味いよ。

いつもいつもお疲れ様!

それから、ありがとう。兄ちゃん」

「それは良かった!

僕も色々とありがとう

霧夜からは元気を貰ってるよ。

それに、そうやって、喜んでくれるから作り甲斐があるよ。

洗濯物も毎朝早起きしてやってくれるから、大助かりだよ。

本当はもっと寝かせてあげたいんだけど…

中々手も足りなくて。ありがとね霧夜」

疲れているだろうし、やっぱりもう少し寝かせてあげたいのが本音だ。

だけど、霧夜と僕の2人だけでは手が足りない事ばかりだ。


霧夜は笑って言う。

「あはは!だからいいんだって。

兄ちゃんはとても真面目だよね。

お礼は言わなくて大丈夫‼︎

洗濯物は俺の当番だしね!

手伝うのは当たり前!家族なんだから」

「うん、助かるよ」


僕は料理担当で、洗濯物や風呂掃除等は霧夜が担当している。

その他の家事は当番制にして、玄関付近の壁に簡単に手書きの表を作って貼ってある。

それを必ず朝、僕らは確認してから家を出るようにしていた。

その日の自分の家事を把握して置く為だ。

けれど、大体は僕がやるようにしている。

霧夜は受験生なのだし、今は、受験勉強に集中して貰いたいからだ。

だから、先ほど霧夜が言った様に代わってあげる事は多い。

寧ろ、「霧夜は家事なんかしなくていい」と思うのだが、僕がそう言えば霧夜は首を振り、「家族なんだから2人で協働しよう」と、逆に僕が納得するまで説得して来たくらいだ。

そして、霧夜が家事は当番制にしようと言い出した張本人なのである。

確かに、それは僕も助かるのだが、本当に良いのかな?とちょっと思ったりもする。

遠慮がちな僕に対して、霧夜は気にしないでいいと言うけれど、僕は何となく気にかけていた。

ただ、当番制にしようと言い出したものの、中々実行出来ずに僕に任せてしまってばかりで悪いと霧夜は謝ってばかりだ。

家族思いで兄思いで、気遣い上手な霧夜。

きっと、僕らの生活が幼い頃から大変なものになったからでもあるのだろうが、霧夜は洞察力が非常に優れていて、人並み以上に他人の事に鋭いのだ。

兄弟であると言う事もあり、霧夜には僕が何を考えているのか直ぐにバレてしまう。

心で思っている事も、霧夜にはお見通しの様だ。

だから、霧夜には隠し事は出来ない。

僕も隠し事は下手なのだが、霧夜には特に隠し事が出来ないのだった。

洞察力が長けている霧夜には、何も隠せない。

例えば、僕が心では悩みや不安を感じているならば、それは全て霧夜には伝わってしまうのだ。

僕はポーカーフェイスは苦手な方だし、ちょっとでも顔色を伺うと、大体の事は粗、分かってしまう霧夜にはどうしても隠し通すのは難しい。

それが態度からなのか、言葉からなのか、表情に出てしまっているのかは分からない。



だが、霧夜は直ぐに見抜いてしまうのだ。

心の奥底にある蟠り。

その痛みや悲しみ、苦しみ迄もを。

だから、霧夜には下手に隠すのはやめて、曝け出す様になった。

相談する様になってから、霧夜は嬉しげに言ってくれた。

『何か困った事があったなら、いつでも話を聞くからね。

それが何であっても、俺には隠し事したりしないでよ、兄ちゃん。

兄ちゃんの悩みならば時間作って、必ず聞くよ。

そして、兄ちゃんの抱える悩みは俺の問題でもあるから、真剣に考える。

兄ちゃんは大事な家族で憧れだしね。』

『ありがとう、霧夜』

『いいんだよ、助け合うべきなんだ。

だって、俺たち兄弟なんだから』

家族なんだから2人で支え合おうよと、霧夜はこの2人きりの生活を始めた時に、僕が無理をしないように言ってくれた。

それがどれだけ救われたか。

僕の心は重石のように重かったのだが、霧夜の言葉で一気に軽くなったのだ。

霧夜は何時もさりげなく救ってくれる。

夢の中でさえ、霧夜を思えば死にたくないと感じたまでに、霧夜は僕にとってかけがえのない家族であり、1人、遺したくない弟だ。



「朝から、なんだけどさ。

重たい物は全部兄ちゃん1人では背負わないで。

色々荷わせて俺…、不甲斐ないんだよ。

罪悪感に近い何かを何時も感じてる。

何も言われないと寂しいしさ?」

そう言って、霧夜は寂しげな顔を浮かべて見せる。

そんな霧夜を見て僕も胸がチクリと痛む。

「霧夜…」

(霧夜は何も気にしなくていいのに。

僕は、充分過ぎるくらい色々貰ってるんだから…)

僕が霧夜にしてやれるのは、料理くらいしかないんだし。



「それに、兄ちゃんみたく料理も上手く俺には作れないから、俺は兄ちゃんに料理は任せきりだし。

そのぶん、他の事を手伝って恩返ししなくちゃいけないな。

俺も、兄ちゃんみたいに料理が上手く作れたらいいんだけどね…」

霧夜は肩を落として、ため息を小さく吐く。

「そんな事ないよ、霧夜は霧夜で頑張っているんだし」

「ううん、そんな事あるよ。

兄ちゃんだって、高校生で大変なんだから…」

「霧夜」

「後さ、兄ちゃんは何でも完璧に1人で、こなしてくれるけど、偶には弱音だって吐いていいし、俺に甘えてくれてもいいんだぜ?

…なんてね。

これは冗談だから気にしないで。

でも、助けになりたいのは本当。

愚痴の一つくらいは俺でも聞けるでしょ?

兄ちゃんはさ、真面目で誠実で立派だよ。

昔から…。

子どもの頃からずっと兄ちゃんは、俺の憧れの兄ちゃんだ。」

「うん」

「そんな兄ちゃんだから、無理をしないで欲しいんだ。

俺は確かに受験生だから、出来る事にも制限があって、思った様にはいかない事が多くて、結局、兄ちゃんに任せてしまう。

でもさ、受験が終わったらその分必ず返すから!絶対に。

だから今は受験勉強して、努力して、兄ちゃんを喜ばせるから。

兄ちゃんは人一倍頑張ってる!

だから、俺も兄ちゃんを見習って頑張れる。

頑張らなきゃって思うんだ。

兄ちゃんの為に俺も頑張りたいんだ。

その為に努力を続けてる。

だから、兄ちゃん。

安心して、俺を応援していてね」

霧夜は、強く決意した目で僕を見た。

そんな霧夜の気持ちに応えたいと僕も思う。

「当たり前だ。勿論全力で応援するよ。

霧夜の気持ち、しっかり伝わったよ。

僕はそんな霧夜を受け止めるから。

だから、頑張れ!霧夜‼︎」

「うん、ありがとう兄ちゃん!

今度、料理教えて?

後、兄ちゃんの特製レシピ欲しいな」

「いいよ。幾らでも教えてあげる。

霧夜の時間がある時、いつだって付き合うよ。」

「うん!」

霧夜は嬉しげに大きく頷いた。

霧夜の為に僕にも何かできるだろうか?

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