少年は宇宙(そら)にて裏切り者の爺いと戦う
宇宙空間、そこは無音の世界。両軍共にひとまず退却をしたいのだが、只今戦闘中の二人を残して去ることも出来ずに、傍観をするしかない。
「二つ目の質問だ、どうして『エリィ号』を製造後、行方不明になりやがった。まぁ俺は、あの後は、まともな叔父さん家に行ったから良かったけどな、でも、俺限定の機体って何だよ」
間合いを取りながら、祖父に問いかけるエリック。それに対して、うほほほーと、祖父の嬉しそうな声が放たれる。
「そこにくるかー!そうか、爺がいなくなって寂しかった、ぬお!」
その口調に、イラッと来たエリックは瞬時に踏み込み、青白き光の刃を突き出す。慌ててマークス号は、後ろへと飛び、逆噴射を足裏にかけ留まり、それを避ける。
ちっと舌打ちをする、若き防衛軍の彼。対して帝国軍の老練な総司令官は、気が短い奴だな、とあきれた声ではなしてくる。
「質問に答えろ!爺い!孫を戦場に駆り出す祖父がいるか?普通は逃がすだろ!帝国軍総司令官?はぁ?地球裏切りやがって!くたばれ!」
「卑怯者めが!不意討ち食らわすとは何事じゃ!答えじゃが、ワシは『科学技術者』なのじゃ」
うるせ!わかってらぁと横に傾け構えると、出力を上げ、祖父の機体に斬り込んで行く孫。
悠然と受けてたつ、赤き刃のマークス アース号
―――「そういえば何で、あんなに可愛がっていた、お孫さんを置いて、帝国軍へと行かれたんだ?何か気がついた事はないのか?ミナミ」
二人のやり取りを見聞きしながら、イワンは落ち着いて来た彼に話かけた。
戦場における『エリィ号』から送られる数々のデータを処理しているミナミは、パソコンのモニターを凝視しつつ、ふと思い出す、敬愛する師匠の一言。
『うおー!最高傑作『エリィ号』じゃぁー!量産型はどうでもいいが、こいつと戦ってみたいのおー』
機体が完成した折り、舌なめずりをし、揉み手をしながら、目をキラキラとさせていた『天性科学者マークス アース』
何時もとは明らかに違う一面を、思い出したミナミは、頭に手を当て、自分の考えを打ち消して行く
まさかとは思うが、まさかとは思うが……
「どうした?ミナミ、何か気がついた事があったのか?」
いえ、と口ごもると仕事に熱中することで、現実逃避を図ることにした。そんな彼の様子を目にしたイワンは、ポンと肩に手を置き一言。
「まあ、ミナミこれも戦争だ」
―――漆黒に流星の尾のごとく光が舞う。地上なれば一太刀浴びても、命が助かる事も有るだろうが、この場は『宇宙』
お互いが奮う力を、かすりでもしたら、その場で散ることになる己達の未来。無意識に高まる『生』への執着、執念。
そしてお互い血がつながる者が、何故に刃を合わせるのか、命をかけるのか、それは神から与えられた運命か、
はてまた『天才』の血を持つもの、それに育てられた『才能溢れる者』常人には、理解不能な次元の行動か。
「さっさと答えろー!爺い、俺を、地球を裏切ったのは何故だ!納得する返事を返しやがれ!」
超接近で、刃を交わす。お互い機体の中で戦いにおける高揚感からなのか、その身に流れてくる別次元の感覚。
音など聞こえぬのに、聞こえる金属音、感じぬ機体の手に、ずっしりと重みを感じる、あり得ない現象。
それは、お互いが放ちあう『気迫』が形を変えたモノか。
それを楽しむかのように、嬉しそうに答えを返してくる、稀代の天才マークス教授。
エリックと交わす、この度の戦闘中におけるやり取りにより、彼の隠された狂気の一面が、徐々に露になる。
「フフフ、教えてやろう!ワシは、昔からお前と一緒にする『宇宙戦争ゲーム』が好きでのお!帝国のバカ者達がチャンスをくれたのじゃよ!ワシは、ワシは、自分で製造した機体と全力で、戦ってみたかったのだぁ!」
ゲームの世界が、実現されたのだぁー!この機会を逃して、どうするんじゃい、と理解不能な雄叫びを上げる。
それを聞き、この老人には、正義も信念もないのか、と、敵味方ドン引きの空気の中、唯一冷静に対応出来るのは孫のエリックのみ、
「やっぱりそうかよ!爺い、まわりは知らないけど、俺は知ってたからな!爺いとゲームを一緒にしてて、戦闘系のは、人格変が変わっていたし、そのうち作ってみせるとか、ほざいてたからな!」
―――「そのうち作ってみせる、て先生。そういえば、各種機体の設計図って、防衛軍が組織される前には、完璧に出来上がっていました」
露になる現実に、唖然としながらミナミは人格が変わるって君もだろう、と、心の中で突っ込む程に復活を成し遂げていた。
そしてその話を聞き、腕組みをしながら思考を巡らしていたイワンは、一つの可能性にたどり着く。
「幸い、帝国から仕掛けて来た、今回の大三次世界は、遅かれ早かれ、行われてたのだな、資金が無いだけで、マークス教授は、これらを製造出来なかった、それだけだろうから」
上司の思わぬ可能性についての考えに、マークス先生は、平和主義だったのですが、と話すミナミ。
「そ、そんな。では、もし資金が潤沢に有れば、マークス先生指導の元に、戦争が行われていたと……」
あり得る可能性かもな、まぁ帝国が建国されていなければ、皆無だったとは思う。と上司、ガタンと立ち上がり、正面から哀しげにイワンを見つめる純朴な青年、
戦争等起こらなかったら、知り得なかった敬愛する師匠の異常な一面を、目の当たりにしたことにより、再び涙が溢れている。
上司はその両肩に手を置くと、うなづきながら話す。
「ミナミ、これも戦争だ」
―――「うほほほー!こっちに来てからの、エリィより、かなりショボい機体を、地球上では手に入らぬ素材で、大幅強化してのぉー!しかし地球素材でなければ、作れぬ物もあっての、改良に苦労したワイ!」
いやぁ、帝国の科学技術者達も、バカ者ばかりでのー!ろくな物作ろうとせんわ!未熟者も良いところだぞ!と帝国をこき下ろす総司令官。
この会話は、本国にも送信されておりますが、と慌てて止めに入る、帝国軍の配下からの進言が彼の元に入るが、鼻にもかけないマークス。
「本当の事だろう?ワシの功績がなければ、防衛軍のワシ特製軍備達により、帝国が開発したショボい装備等、とうに滅んでおるわ、わーはははっ!」
ワシは、天才マークスだからな、雑魚共と一緒にしないでくれ、それに何処を攻めれば崩壊するのか、ワシは知っておるぞー!
何せ帝国のステーションも、防御のステーションも、全てはワシの設計図だからな、ある場所のビス一本緩めれば、終わるぞ!
それかド派手に、エネルギー弾道、急所に一発ぶちこめばステーション等塵と化すわ!
やって見せようか、うるさく言うと帝国政府のステーション、ビス一本緩めるのと、派手なのと、どちらにするのじゃ、とじんわり脅す狂気の科学技術者。マークス アース
その発言に、宇宙と地上の主だった者たちはわかった、己達の愚かな行動を、戦争を始めたことにより、とんでもない者を、目覚めさせてしまった事に。
「おい、爺い、わざわざ『リアル戦争ごっこ』の為に俺を駆り出したと?」
間合いを取るために一度離れる両機体、そしてそのタイミングで話してきた、冷たい少年の声にちょっと怯む、孫に弱い祖父。
「じ、じゃって、仕方ないだろう?よそ様に命をかけての、戦争ごっこを求めることは出来ん、安心せい、長く楽しめるように、どっちの機体も、戦艦もかなりの物に仕上げておるぞ!」
その発言に、少年は闘志をもやす!ソードの出力を辺りの空間に、影響がでない程度迄上げると、機体に最大出力をかけ、祖父へと向かって行く。
「この人類の裏切り者ー!爺い、リアルで宇宙戦争ごっこなんか、するなぁ!人類に、迷惑かけてんじゃねーよ、何が長く楽しめる?さっさと終わらせろー!」
「おおう!いいのう!受けて立とうぞ!こい!エリック」
エリックの勢いを受け止めるべく、流されぬ様にこちらも出力を上げると、横へと構え、孫を待つ祖父マークス。
ごぅぅ、と戦う者達のみ共感している、不可思議な感覚で聞こえる音、瞳に写る合わさりあう二つの発光色、力の波動が体に響く。
光の衝突、衝撃、それを飲み込む宇宙の闇。
「爺い、人様に迷惑かけれんって、もうかけまわってるだろーが」
「はあ?戦争仕掛けたのは、ワシでは無いぞ、ちとそれを利用しただけじゃぞ!」
合わさる刃、高まる青白き光と紅き光の輝き、それは、押さえつつあったが、徐々に大きく膨らんで行く。
そしてその時、白熱する祖父が仕掛けた『リアル戦争ごっこ』により、周囲の場に物理的な現象が現れた。
過剰なエネルギー同士のぶつかり合い。それによりゆらりと戦いの空間がうごめく。
磁場の数値が異常値へと高まる。時空の歪みが生まれつつある前兆、
――「ちっ、ここまでか!」
二人の声が重なる、これ以上飲み込む事が出来ぬと宇宙が悲鳴を上げている。
そして少し遅れて、両軍の戦いを制止する指示が、二人の機体に届く。
――「場が持たない、帰って来なさい、エリィ号」
「マークス号、帰還の指令が本国から入りました」
フッとソードの出力を下げながら、離れ行く二人。これ以上戦うと、時空に影響をあたえる事を、いち早く理解をしていた天才マークスとその孫エリック。
「爺い、この空間だとこれまでだ、ブラックホールを作りたくないからな!人類の敵!」
「そうだな!次に会うときは!覚悟しとけよ、エリィ号!去らばじゃぁー!」
帝国軍へと、赤い閃光を引きながら去って行く、おそらく彼が帝国にいる限りは、この戦いは終わらないだろう、
帝国総統よりも大きな力を持っている、総統指令官『狂気の科学技術者マークス アース』
そしてそれに立ち向かえるのは、世界でただ一人の少年しかいない。
その少年の名前は『エリック アース』彼の孫
人類の救世主となるのか、そうなって欲しいと願いを宇宙へと祈りながら、狂気マークスの哀れな弟子であるミナミは、モニターを眺めつつ、涙にくれていた。
そして、そんな彼に技術班一同が、声を揃えてなぐさめる。
「ミナミ、これも戦争だ」
「完」
ご精読ありがとうございました。文才が欲しいですー。