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少年は宇宙(そら)にて祖父と語り合う

上も下も、右も左も、全ては漆黒の中、ただ、前後だけははっきりと分かる。


 前は敵で、後ろは味方。どちらの軍の機体も超濃度の発光塗料が塗布されているために、光が無い宇宙空間でも、その存在が際立って見える。


「さぁ、俺たちは部署のでっかいモニターで、データ収集するぞ、後不測の事態に対して、準備するんだ」


 イワンは初めての戦闘で、少しうろたえているミナミの背を叩き、気合いを入れると部下を率いて、あてがわれている一室へと急ぐ。


 時折激しく揺れる艦内、メインブリッジからの指示がオペレーターにより、発信され続けている。


 電力を戦闘に回すため、非常灯に切り替わった薄暗い艦内、砲撃が行われているために、聞こえる轟音。


 ミナミは少しふらつきつつ、皆と共に持ち場につくと、データを取り出したり、読み込んだり懸命に、今自分に求められている事を行う。


 そしてイワンは、少し気の毒そうにそんな彼に目を向けると、


 まぁこれから見ることは、事実だからな。あんまり落ち込むなよ、と一声かけた。


 モニターに写し出される、敵軍へと一直線に、闇を切りながら進んで行くエリックを、心配そうに見ていた彼は、突然上司からの言葉に少し考え、答えを返す。


「あ、の、戦争ですから、その、し、たいとか血とかでしょうか?あんまり得意では、」


「いやいや、地上と違ってもしもの時は、超高温の爆発により、火葬されるから何にも残らない、まぁさっきの話は見てれば分かるよ」


 訳のわからぬままに、生真面目にうなづくミナミ。それを少々心配気に視線を送るイワンであった。



 ――エリックは、味方の援護を受けながら、先陣を切り、目の前に立ちはだかる敵を、高エネルギーソードで切り捨てつつ、一直線に目的の機体へと向かって行く。


 それは、敵の総司令官が操縦している此方と同じような『接近戦闘巨体ロボット』だ。


 そして、迎え撃つ側の総司令官もまたエリックを今か、今かと待ちわびていた。


「ひよっこー!ワシが、来てやったぞ!此方にこい!お前ら雑魚!散れ!」


 総司令官の爺さんパイロットは、周りの配下であるにも関わらず、帝国軍の一団を蹴散らし、そこから抜けると、少年を誘き寄せる。


「この、くそ爺い、今日こそは問い詰めてやる!」


 宇宙に出てから、豹変するエリック少年、新しく装着した装置を起動させ、総司令官に向かいながら、辺りの帝国軍の機体を、次は、高エネルギー弾のライフルで一掃し、道を開け彼に近いて行く。



 そして、周囲は敵も味方も存在しない場で、懐かしの御対面を果たす祖父と孫。


「おおー!可愛い孫の声が、聞こえる!それを装着したかと言いたいが、ワシが送ったのをそのまま着けたとは、何と情けない!それは、サンプルじゃぞ」


「うるさい、爺い、サンプルって言っても、素材が未知なる物って、ミナミが言ってた!それに、その物質って、帝国が独占してるだろ!オリジナル製品なんて待ってたら、何時になるのかわかんねーよ!こっちの資源も技術者も、爺いと違って成長途中だし!イマイチ足らないんだよ!」




 ……「何かひどい事言われてる、アレはエリック君ですか?別人なのでは、イワンさん、それにあの帝国司令官の機体、信じたく無いのですが『マークス アース』って名前が書いてあるし、声は先生、先生です。うっ、エリックは、お爺さんって言ってるし……うっ、うっ、うっ」


 モニターを見ながら、作業を続けている純朴なミナミはショックのあまり涙を流しながらイワンに問いかける。


 彼は、エリックの豹変にも驚いたが、それより何より自分の敬愛する師匠が、敵の総司令官という事実に打ちのめされていた。


「まぁ、ミナミ、これも戦争だ」


 ポンと、涙をゆぐう部下の頭に手を置き、優しく上司は慰める。


 内線からだだもれしている、祖父と孫の会話に、防衛軍と帝国軍の兵士達も、驚きを隠せない。


「なっ、まさかとおもっていたが、総司令のパイロットはマークス教授か!やはりそうだったのかー!」


 彼のド派手な色の機体には、何故かしっかりと彼の名前がペイントされていたし、エリィ号から拾う内容から、薄々気付いていた防衛軍だったが、


 こうして二人のやり取りを聞くと、さすがに動揺が隠せない。


 そしてその動揺は、敵軍の方が上回っていた。マークスは帝国にフラりとやって来たときに、家族は死んだ、地球に未練はないと言い切っていたからだ。


 そして、サザール宇宙帝国政府も高名な『天才科学技術者マークス アース』の言葉をそのまま鵜呑みにし、身辺調査等することなく、諸手を上げて彼を歓迎し、地位を与えたのだった。


 まぁ、身辺を調べられても、決してボロが出ぬようにこの爺さんは十重、二十重に対策をしていたから、調べ様はなかっただろうが………


 ―――「し、司令官殿、そ、総司令官殿、先ほど何をおっしゃいましたか?こちらの装備をそっちに送って?お孫さんやっぱり生きてるのは噂は、本当だったんですか!」


 実は密かに、帝国軍でも噂はあった。死んだと言っていた教授の孫が生きており、


 かつて祖父であるマークスが地上で製造した機体のパイロットとして、無敵の活躍をしているという話は広がっていた。


 それもこれも、総司令官が戦いに出ると、とんでもない彼の一方的な話を、場戦で拾い、耳にする者達が多数いたからだ。



 やはりそうだったのか!と慌てふためき、内線でマークスに聞いてくる部下の者達に、彼はめんどくさそうに答える。


「んあ?聞いてた通りじゃぞ、防衛のエリックは、ワシの可愛い孫でのぉ、その孫に爺いがちとプレゼントをしただけじゃ、何か文句でもあるのか?貴様ら」


「ご、ご家族は無くなられたと……」


「そんな事言ったか?もうろくしておるからの、それに、ワシの身辺調査位せなんだお前らが悪い、そちらの落ち度じゃろ、ワシに何か問題あるのか?」


 ありますとも!重大な規律違反です!これは軍法会議ものです!と騒ぎたてる部下の兵士達にやんわりと脅す。


「あー?自分が作った物をランクアップさせたいのは、技術者として当たり前だろう!ごちゃごちゃうるさく言うと、お前ら雑魚共一掃してその後、そっちの機密情報手みやげに、防衛軍に駆け込んでやろうか」


 いえ、そ、それは、困ります、としどろもどろな帝国軍一同、どちらの軍も戦闘意欲は、瞬時にかき消えている中、祖父と孫との戦いがはじまる。


「爺い、聞きたい事が山とあるんだけどな」


 エリックはソードの柄を握ると、周囲の空間に影響が出ない様に、最大限出力を弱めてエネルギー粒子で作られる青白き刀身を出現させ、構える。


「なんじゃい、聞いてやろうではないか」


 マークスもまた、同じく赤いエネルギー粒子の刀身を出現させると受けて立つべく構えた。


「最初の質問は、俺のパソコンにハッカーしやがり、いきなりメールと、荷物を送り付けてきたのは、何故だ!」


「それは、爺がちょっと、寂しくなったのじゃ、機体に名前いれてても、お前は知らん顔しておるし、性能上がっとらんし」


「あったり前だろ!知ってて知らん顔をしていたんだよ!こちらに話かけてくるのは、爺いの声だしなっ!それに機体に、名前がダサく書いてあるし!性能?はっ?爺さん無しで上がるわけねーだろ!覚悟しやがれ!」


 話の途中で、エリックは足元の出力を上げ、マークスの元へと斬り込んで行く。


 それを受け止める赤い刀身、青白き光とが合わさりあうと、その事により闇の中で、粒子が辺りに綺羅と舞い、閃光を放つ。


 大きな力の塊同士が、ぶつかる現象を目にした事により、音がしない筈の空間で轟音が聞こえ、風が起こり舞う錯覚に見る者は陥る。


 闇に光の線が、ある時は曲線を、ある時は鋭い直線を描くかの様に合わせ、退き、剣舞をまう両機体。


 それをモニターで眺めながら、未だにショックから立ち直れていないミナミは、ポツリと漏らす。


 ……「ものすごく無能だと、彼にののしられている様な気がします。うっ、宇宙空間って青少年には、精神的に有害な物質でも漂っているんですか?うっ、うっ、うっ……」


 哀れな部下に、上司は優しく語りかける。


「ミナミ、これも戦争だ」


 ―――宇宙そらでは、両者の戦いは、徐々にヒートアップして行く。


「二つ目の質問だ!心して聞きやがれ!」


「おーし!何でも答えてやろうではないか!」


















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