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98 刹那の決戦

「約束ってどういうことですか?」


 フェニックスとドラゴンたちの戦闘によって岩場はすっかり穴だらけ。

 俺とブランカ、そしてロードがいるのは岩場にできた穴の中心だ。


 剣を構え微笑むロード。

 たった今死地を乗り越えた人間とは思えない、とてもリラックスした雰囲気だ。

 殺気も圧迫感もなく、このままティータイムでも始めようかと言われれば頷いてしまいそうな柔らかな態度。


 ーーこの人、怖いな。


 俺は改めてそう思った。

 

 優れた強化魔法から放たれる高速移動と強烈な斬撃。

 恐るべき勘の鋭さと身のこなしや戦闘センス。

 フェニックスの熱波や火炎をさりげなく防ぐだけの魔法の才。


 人類最強と呼ばれるにふさわしい強さを持っているにも関わらず、そんな感じが全くしないロードの雰囲気が俺には恐ろしく感じられた。

 強さを隠している。

 警戒することができない。

 それでいて力を振るうことに抵抗がない。

 それがこの男の真に恐ろしい点だと思う。


「ナイトくんを救出する手伝いをしただろ。それに対する報酬の話さ。俺はちゃんとサポートした。フェニックスの意識を途絶えさせるっていう役目は果たしたはずだよ、ブランカちゃん」


 微笑むロードに対し、ブランカは、


「うー、約束は約束。ちゃんと守るよ」


 ロードの方へ歩き始めた。


「ちょっと待て」


 だが、俺はブランカの腕を掴みその歩きを妨げる。

 

「ロードさん。俺に何が起こったのか分かってますか?」


 俺の問いかけに微笑んでいたロードはこくりと頷いた。


「もちろんさ。ナイトくんは狼人間になっている。ブランカちゃんの思惑通りにね」


 ロードは続ける。


「君がフェニックスの道具として操られている限りドラゴンたちに勝機はなかった。俺としてもこの地のバランスが崩れるのは本望じゃない。とはいえ君もフェニックスも攻撃されたところですぐに再生する。俺は正直諦めていたところだったんだけどね、ここにいるブランカちゃんだけは解決策を持っていた。

 宝具ーー『魔物図鑑』というらしいね。その図鑑を通じてフェニックスは君を操っている。ならば、君とフェニックスの繋がりを断つには宝具を使えなくすればいい。そのための手段としてブランカちゃんは君を狼人間にする方法を俺に提案したのさ。『宝具を使えるのは人間だけ』。ならば、君を人外にしてしまえばいい、という考えだね」


「なるほど。どうりでさっきから『魔物図鑑』が呼び出せないわけだ」


 念じても俺の右手に図鑑は出現しない。

 それに体の奥に違和感も感じていた。

 今まで当たり前にあったものが自分から抜け落ちたような喪失感。

 多分それが宝具を喪失した感覚なんだろう。


「君の体に満ちるフェニックスの魔力をブランカちゃんの魔力が押しのけられるかが問題だったよ。少しでも可能性をあげるのと、ブランカちゃんが君に噛み付いている間の護衛を兼ねて俺がフェニックスを斬り続けていたんだ。結果はすべて上手く行った。君は無事狼人間と化し、フェニックスの支配から逃れた。ドラゴンたちによってフェニックスも撃退されたし、万事解決だね」


 さて、と呟きながらロードは右手に握っていた剣を俺たちへと突き出した。

 もう微笑みはない。

 俺の全身へびりびりとした圧迫感が襲いかかる。

 フェニックスとの戦闘で疲労しているにも関わらず、ロードの放つプレッシャーに弱った様子はない。

 

 今にも斬りかかりそうなロードに対し、俺は退いてしまいたい気持ちを抑え、


「いや、ブランカは渡さない。あんたら『七色の風』の自業自得にブランカを巻き込ませてたまるか」


「ナイトくんには聞いていないよ。これは俺とブランカちゃんの話だからね。黙っていなよ」


「黙らないね。俺が相手になってやる。ブランカに触れさせないぞ」


「そう……じゃあ、仕方がないね。黙らせてあげるよ」


 ロードの体が強化魔法で輝くとともに、俺も障壁魔法を展開する。

 それと同時に光弾と『封魔の鎖』をフルパワーで練り出し放った。


 ロードの斬撃が俺の障壁魔法にぶつかる。

 激しい音と衝撃。

 人類最強に相応しい強力な斬撃だ。

 だが、俺の障壁魔法はそんな攻撃を完璧に防いでみせた。


 俺自身、多分突破されるだろうと思っていただけに驚きだった。

 それはロードも同じだったらしく、自分の剣が障壁に阻まれる光景に目を丸くしている。

 その動揺が人類最強の動きをわずかに鈍らせていた。

 ロードの周囲へと光弾の弾幕が襲いかかる。


 もちまえの回避力で光弾を避けようとするロード。

 フェニックスの紫炎すら回避していたロードだけに、通常の光弾なら回避しただろう。

 だが、俺の光弾は軌道を設定できるのだ。


 ロードが回避した光弾は10数メートル先で折り返し、再びロードの背後へと迫る。

 流石のロードも反応が遅れ、背中へと光弾の弾幕を受けてしまった。

 鎧を砕き、防御魔法をすり抜け、俺の光弾はロードの背中を襲いかかる。


「ぐあああああっ!」


 悲鳴をあげ地に伏すロード。

 剣が手から離れ、完全な無防備だ。

 その体を『封魔の鎖』が締め上げ、第2陣の光弾が上空から降り注がれた。


 絶叫とともにロードの体がボロボロになる。

 見るものを畏怖させてきた上等な装備は紙屑同然のように破壊されていた。

 手足が折られ、背中を含め全身が痣だらけ。

 『封魔の鎖』によって魔法が使えないため、治療も防御も不可能だ。


 俺と人類最強の対決は、ほんの数秒で決着してしまった。


 そのことに勝者である俺自身信じられない思いだった。

 剣術も戦闘センスも到底勝てる相手ではなかったはず。

 にも関わらず目の前に起きている結果は俺の圧勝だ。


 その原因は俺の魔力だった。


「魔力が増えてる」


 宝具がなくなったことで感じていた喪失感。

 それを埋め合わせるように俺の体には魔力が満ちていたのだ。

 今までの貧弱な魔力が嘘のように、俺の光弾は威力を増し、『封魔の鎖』もロードを捕らえたまま消える様子もない。


 ーーどうしてこんなことに?


 俺は抱きしめていたブランカと目を合わせる。

 自分の首に感じる噛まれた跡の痛み。

 それとともに、俺はブランカの変化にも気付いた。


「どうやら……ブランカちゃんの魔力が君に付与されたようだね」


 地面に倒れたままロードが呟き、俺は思わず自分の手をじっと見つめた。


 狼人間にされた際に、俺の体へとブランカの魔力が大量に注ぎ込まれたはずだ。

 それが俺の魔力と混じり合っている。

 俺は肉体だけでなく、魔力も強まったのだ。

 憧れだった魔力の強化。その願いが叶った瞬間だった。


 だが、その一方でブランカは反対の変化を起こした。

 

 俺に大量の魔力を注いだぶん、今のブランカは弱体化している。

 肉体的な変化はないものの、身に宿している魔力が明らかに弱くなっていた。

 魔石の質もそれに応じて低くなっているように感じる。


「ブランカ、大丈夫か?」


「……ちょっと厳しいかな。初めてだったからさ……加減が分からなかったの。あはは……」


 俺の問いかけにブランカは弱々しく答えた。

 大量の汗をかき、明らかに衰弱している。その様は出産した母親を思わせた。

 狼人間が仲間を増やす行為は命を削るそうだが、ブランカの様子を見るに誇張ではなさそうだ。

 

 俺は倒れているロードへ右手を突き出すと、緑色に輝く魔法ーー上級の回復魔法をかけてやる。

 全身の痣は薄くなり、折れた手足も繋ぎ合わされる。


「不覚だったな。狼人間になることで君がそこまで強化されるとはね。ナイトくんの魔法技術を侮っていたよ。俺の負けだな」


 『封魔の鎖』で身動きを封じられながらロードが話す。


「随分と潔く負けを認めるんですね。何か企んでます?」


「いやいや、企んではいたけど、もうやめたよ。ナイトくんだって気付いただろ? 俺もついさっき気付いた。ブランカちゃんは弱くなった。ドラゴン復活の素体には使えないだろうね」


 ふぅ、とため息をつきロードは半笑いをしてみせた。


「やれやれ、フェニックスもレアな狼人間も取り逃がしたか」


「そういうことになりますね。黒い森の件は当面解決できそうにないって感じでしょうか」


「別の素質ある素体を探すことにするよ。そう簡単には見つからないだろうけどやるしかない。はぁ、何年かかるやら」


 まぁ、いいけどさ、とロードは続けた。

 

「それよりナイトくん。どうして俺を治したんだい? 俺を殺すチャンスだったんだぜ?」


「うーん、そうっすね。ブランカが弱体化したのはわかりましたから、そのことを教えればロードさんは割とあっさり引き下がるような気がしたんですよ。無駄なことはしなさそうですしね、ロードさんって。俺としても必要以上に殺しはしたくないですし」


「へぇ、仲間よりも俺の動きをよく読んでいるね。無駄なことをしないと言うよりは、単に面倒臭がりなだけだよ。さてさてナイトくんさえよければ、俺の仲間も癒してくれないかな? さすがに手負いの仲間を守りながら大山脈を下るのは無謀だからね」


「良いですよ。でもちょっと条件がありますね」


「聞こうじゃないか」


「えーっとですね」





 その後、俺は『七色の風』のメンバーを治療すると、泣き続けていたドリアを引き連れ大山脈を下山した。

 拍子抜けするほど道中は何事も起こらず、俺たちは『風車の国』へ辿り着いたのだ。

 

 真夜中にも関わらず宿が取ることができ、俺たち3人と『七色の風』は共に穏やかな夜を過ごすのだった。


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