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97 裁きのクロスファイヤ

 ーー何をする気だ、ブランカ! 


 強化魔法で武装したブランカが俺の真下に目掛けて走ってくる。

 それに気付いたフェニックスはブランカめがけて広範囲に紫炎の熱波を発生させた。


 岩が赤く発光し、次の瞬間にはどろりと溶けた。

 地獄の熱波を前にさすがのブランカも退避するしかない。

 熱波を避け、後退するブランカへフェニックスは翼を羽ばたかせ大熱波を送り込もうとしていた。


 ーーまずい! あんなの食らったらブランカが死んでしまう。逃げろ!


 俺が念じていると、フェニックスの頭部が切断され大熱波の攻撃は中断された。

 どうやら『七色の風』のロードがフェニックスの頭部を切り落としたようだ。

 

 地上に立つロードの手には輝く剣が握られている。

 その剣が高速で振るわれた。

 それと共にフェニックスの体が細切れにされていく。


 ロードの剣は遠方へ斬撃を飛ばすことができるらしい。

 地上にいながらにしてロードはフェニックスを攻撃していた。

 ただ、疲労の色が見えるあたりどうやら遠隔斬撃は魔力の消費が激しいようだ。


 俺の左手がロードへと向けられる。

 魔力が溜まり掌から紫色の光線が放たれた。

 光線によってロードのいた場所が焼き切られる。

 素早く回避したロードは再び遠隔斬撃を繰り出し、再生したフェニックスの頭部を切断した。


 ーー身のこなしといい、斬撃の鋭さといい、流石だよロードさん。


 人類最強と称されるロードの立ち回りは素晴らしかった。

 俺の魔法攻撃を簡単に回避している。

 探知魔法ではなく経験と勘で攻撃を先読みしているらしい。

 敵ながら惚れ惚れする動きだった。


 ロードの妨害によってフェニックスは自身の再生に時間をかけてしまっていた。

 時間にして5秒程度のことだろうが、その間にドラゴンたちは態勢を整えていたらしい。


 8頭のドラゴンたちの口元に光が集まる。

 光龍が見せたのと同じく、それぞれが司る魔力を集約した光線技の構えだ。


 8本の光線がフェニックスめがけて放たれる。

 『魔物図鑑』を通じて俺はフェニックスの焦りを感じた。


 不死身のフェニックスではあるが、ドラゴンたちの光線技に恐怖を覚えているようだ。

 ひょっとしたら1頭の攻撃はともかく、あれだけのドラゴンの技を一度に受けるとなるとフェニックスの力でも再生できないのかもしれない。

 

 図鑑を通じて俺の体は再び魔法障壁を展開させられた。

 空中には複数の障壁が展開される。

 それと共に、魔法攻撃を引き寄せる魔法も岩場全体へ発生する。


 ドラゴンたちの光線技は俺の魔法に吸い寄せられ、曲線を描く。

 光線は軌道を妨害され、別々の障壁へと散り散りにぶつかった。

 それでもドラゴンたちは攻撃の手を緩めない。

 フェニックスが反撃の紫炎を放つが、それに怯むことなく光線を撃ち続けるのだ。


 岩場は様々な光が交差し明るく照らされている。

 軌道を乱されたドラゴンの光線が大山脈へと激突し、あちこちで地割れや崩落を起こしていた。

 

 身を焦がされようとも光線を撃ち続けるドラゴンたち。

 憎き敵を倒すためというよりも、何かを守ろうと必死に戦っているようにも見える。

 それは自分たちの住処なのか。

 それとも大山脈全体かーーもしくはこの世界のバランスか。


 いずれにせよ、死に物狂いで放つドラゴンたちの攻撃はフェニックスの注意を引きつけるのに十分だった。

 フェニックスの指示で俺はドラゴンたちを防ぐ魔法を連発する。

 

 ロードの攻撃はフェニックスに致命傷を与えることはできない。

 頭を切られて思考が鈍らされるのをフェニックスは不快に感じているようだが、まずはドラゴンを仕留めることを優先するつもりらしい。

 人類最強の攻撃をフェニックスは無視することにしたようだ。

 

 眼前のドラゴンたち。

 鬱陶しい人類最強の斬撃。


 それらに紛れ、ブランカが再び俺の真下へとやってきていた。 

 強化魔法を込めた脚力で飛び上がろうとするブランカにフェニックスがようやく気付いたが、


「邪魔はさせない」


 ロードの遠隔斬撃がフェニックスの頭部を切り裂く。

 もちろん再生するものの、その間わずかにフェニックスの意識が途切れる。


 その隙にブランカは跳び上がり、上空を飛んでいた俺へと正面から抱きついた。


 ーーやめろブランカ。フェニックスに焼き殺されるぞ。お前の強化魔法でもあの熱波には耐えられない。俺を攻撃しても再生されちまう。打撃攻撃は俺にもフェニックスにも効かないんだ。


 膨大な魔力を持つブランカだが、基本的には強化魔法しか使えないのだ。

 『魔物図鑑』による支配に抵抗できるのはさすがだが、この状況を打破できるような魔法は使えないはず。

 俺を支配するフェニックスを止めることはできない。

 ブランカにできるのは高速移動で逃げることくらいだろう。


 だがーー


「ごめんね、ナイト」

 

 俺に抱きついたブランカは申し訳なさそうにそう呟くと、口を大きく開いた。

 人間と変わらぬ歯並びの中で犬歯だけが少し長くなっている。


 その瞬間、俺はブランカが何をしようとしているのかを察した。

 強化魔法だけじゃない。

 今の今まで俺は忘れていたが、ブランカにはまだ狼人間としての能力があった。





 ブランカは俺の体を強く抱きしめ、それと共に俺の首を噛んだのだ。





「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 自分の口から出た咆哮に俺自身が驚いてしまった。

 

 俺の首から温かい力が流れてくる。

 もちろんそれは首に噛み付いているブランカから流し込まれているものだった。


 フェニックスの魔力を押しのけ、ブランカの魔力が俺の体内を廻り始めた。

 自分の中へ巡る魔力が心地いい。

 頭部と尻が熱くなり、次第に全身も熱くなる。

 それはフェニックスの紫炎のような焼き尽くすような熱さではなく、生命力に満ちた力強い熱さだ。


 右手に持っていた『魔物図鑑』が透けている。

 それと共に頭に響くフェニックスの声が小さくなる。

 ほぼ同時に自分の体が自由を取り戻し始めていた。


 頭頂部が痒くなり、俺は思わず頭へ手を伸ばした。 

 髪の毛とは違うもふもふとした毛の感触。

 同じような痒みは尻からも感じ、それと共にズボンが窮屈に感じた。


 背中に生えていた紫炎の翼が消える。

 『魔物図鑑』も完全に消えてしまった。


 浮遊手段を失い俺とブランカは抱き合ったまま地面へと落下する。

 硬い地面が迫る中、俺は不思議と恐怖感を感じなかった。

 ブランカを両腕で抱きしめ、俺は両足で地面へと着地する。


 着地による衝撃を感じるが痛みはない。

 結構な高さから落ちたにも関わらず俺の体は無事だった。

 

「ナイト……大丈夫?」


 抱きかかえていたブランカが心配そうに俺の顔を覗いた。

 その視線が俺の目から頭部へと移っていく。

 

「うー、上手くいったみたいね」


「……そうらしいな」


 俺はブランカへと返事をしながらもう一度自分の頭部へと手を伸ばした。


 丸くなっているはずの俺の頭部には何か奇妙な突起物が生えていた。

 口の中でやたら歯が当たるし、尻の方に感じる違和感もあった。


 ブランカにーー狼人間に噛まれる。

 それが何を意味するのかは、子供でもわかるだろう。


「俺は狼人間になってる。そうだろ、ブランカ?」


 俺の問いかけにブランカは申し訳なさそうに頷いた。


 ーーやっぱりそうか。


 自分の頭部に生えた突起物ーー狼耳を撫でながら俺は自身に起こった変化を確認していた。

 体が少し大きくなったらしく、二の腕や太ももを覆う服が裂けかけている。

 ズボンを圧迫しているのは臀部に生えた尻尾だろう。

 

 それ以外の点は特に人間の時と変わっていないようだった。

 毛皮に覆われているわけでもない。

 顔も触った感じは人間の顔だ。

 

 俺は人の姿に近い状態で、狼人間としての特徴を備えていた。

 それはちょうどブランカと同じ状態ということだ。


 変化した自分に驚いていると、頭上から突然甲高い鳴き声が響き渡る。


 見上げると、フェニックスがドラゴンの光線を受けその身に大穴を開けられていた。


 俺の魔法が消え失せ、フェニックスは身を守る手段を失っている。

 すぐに体の欠損を再生させるが、別のドラゴンの攻撃がフェニックスを穿った。

 翼を羽ばたかせフェニックスは山頂へと飛び始めた。

 慌てふためくその様はどうみても逃走者ーー敗者だ。


 俺という強力な道具を失い、フェニックスとドラゴンの力関係は通常に戻っている。

 そしてここにはまだ8頭のドラゴンがいるのだ。

 すでに地に伏していた水龍と光龍も首を持ち上げ、その口元へ光球を形成している。

 他の8頭も同じだ。


 計10本の光線が背を向け逃げるフェニックスの身に迫る。

 圧倒的な速度と破壊力を持つ光線がフェニックスへと集約し、紫炎に包まれたその体を貫いた。

 フェニックスの体が燃え上がる。

 太陽のごとく紫炎を輝かせるフェニックスであったが、ドラゴンたちの攻撃は止まらない。

 再生するフェニックスの体を焼き尽くし続ける。

 10色の光線が1箇所に集まり、白い光が輝いた。

 

 やがて聞こえてきたのは甲高い鳥の声。

 苦痛と憎しみを込めた断末魔の音だ。


 爆煙をあげフェニックスの体が飛散する。

 散り散りとなった紫炎の火の粉が大山脈に降り注ぎ、消えた。


 その光景を俺とブランカは抱き合いながら眺めていた。

 

 ドラゴンたちの攻撃が止むと、周囲が一気に暗くなる。

 流石のドラゴンたちも疲弊し、傷ついたためかすぐに山頂や岩の裂け目など、自分たちの巣へ戻っていく。

 俺たちの存在を咎めるようなそぶりも見せず、そのまま姿を消すのだった。

 

 俺たちは助かったらしい。


 その事実に俺もブランカもほっとため息を吐いていると、


「上手く行ったようだね、ブランカちゃん」


 背後から聞こえる声に俺は素早く振り返った。


 剣を手にしたままロードが微笑みを浮かべ近づいてくるところだった。

 刀身を見せびらかせるように構えながらロードは口を開いた。


「じゃあ、約束通り俺たちと黒い森まで来てもらうよ。ドラゴンへとその身を捧げてもらう」

  

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