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94 紫炎のナイトメア

 上空へと飛ぶ魔物使いの少年。

 その背中からは紫炎で形作られた翼がある。


 少年は先ほどまで叫んでいた。

 恐怖に染まった叫びだったが、今は口を紡ぎ沈黙したまま地上を眺めている。


「ナイト! どうしちゃったの!」


 狼少女が少年へと呼びかけるが、彼は反応しない。声が聞こえていないのかも知れなかった。


「…………うぅ……頭が……嫌な感じする……」


 狼少女の横では植物の妖精が頭を抱えうずくまっていた。

 狼少女が妖精を抱きかかえる。


「どうしたのよ、ドリア? 具合悪いの?」


「違うよ、わんわん。頭に声が響くの。壊せ壊せって。あたい、怖いよ」


 苦し気に呻く妖精を狼少女は撫でることしかできなかった。

 

 ーー何が起きてるの? 

 

 狼少女は思わず『七色の風』へと目を向ける。


 空を見上げる7人の人間。

 リーダーを除いた全員が突然の事態に狼少女たちと同じく呆然としていた。


「これは一体……あの坊主、いきなり強くなったぞ」


 大男が呟く。

 すると、上空にいる少年は右手に持っていた本を開き魔物を召喚し始めた。

 

 あっと言う間に岩場には100匹近い魔物が姿を表す。

 その中の一頭ーーワイルドボア(大猪)が『七色の風』へと突進してきた。


 仲間の前に飛び出たのは鎧に身を包んだ大男ーーベルデだ。


 彼の宝具ーー聖衣『レギオン』は強力な防御力を有する鎧だ。

 あらゆる物理的、魔法的なダメージに耐え、常にパーティを守って来たまさに盾役。

 形状を自在に変化させ、様々な武器を作り出すこともできる。


 その体格と合間って、単純な殴り合いでは『七色の風』でもトップの実力者ーーベルデ。


 ワイルドボアの突進を正面から受け止めた彼は気合の声とともに、ワイルドボアを掴み、投げ飛ばしたのだった。


 だが、その表情は戦慄していた。


「なんだこのワイルドボアは! 普通の個体より何倍も魔力とパワーがあるぞ!」


 地面へと落とされたワイルドボア。

 衝撃で牙と足が折れてしまったようだが、すぐに紫炎が彼を包みそのダメージを消してしまった。


 同じように他の魔物が次々と『七色の風』へと襲いかかる。

 いずれも中級程度とされる魔物だ。

 本来なら『七色の風』の敵ではない連中だったが、


「何よこいつら。無茶苦茶強化されてるじゃない!」


 天使の翼ーー聖羽『ヴァルチャー』を背中から生やす金髪女ーーララ。

 飛行能力と羽弾丸、そして強化された身体能力を有する彼女も空中を飛び回る魔物たちと交戦している。

 さほど戦闘能力のないシェアリングクロウ(伝播烏)やルナアウル(月梟)たちですら、嘴や爪での攻撃で宝具使いを苦戦させるほど強化されている。


 召喚された魔物たちはいずれもほんのりと紫色に発光していた。

 フェニックスの魔力で強化されているのは疑いようがない。


 召喚主である魔物使いの少年も同じだ。


「うむ。こいつは面倒だね」


 20頭近い大型魔物に襲撃されたロードは、一瞬で魔物たちの首を斬り落とす。

 しかし、魔物たちは5秒もかからず再生し、再び攻撃を仕掛けてくるのだった。


「もともと彼の宝具に『回復』させる力があったようだけど、フェニックスの力でもはや『不死』と呼べる状態になっているね。魔物たちを相手にするのは時間の無駄だ」


 ロードは魔物たちを斬りはらいながら、宙を飛ぶ少年の足元まで移動する。


「主人を倒さないといけないね」


 そう呟くとロードは魔法によって自身を強化してみせた。

 白く輝く強化魔法。

 その光にロードが包まれ、次の瞬間には少年がいる高さまで移動した。

 

 少年も左手に紫炎の魔剣を作り出し応戦しようとするが、ロードの剣速には全く敵わない。

 四肢を斬られ、首を跳ね飛ばされ、頭部を10回切り刻まれる。

 少年の体から血が吹き出した。


「おやおや。これでもダメか」

 

 地上へと降り立ったロードが残念そうに空中を見上げた。

 血しぶきをあげていた少年の体が紫炎に包まれた。

 そして、炎が消えるとともに全くの無傷で姿を見せる。


 少年の周囲から『封魔の鎖』と『光弾』が形成された。

 100本の鎖と1000発の高威力光弾。

 それらが縦横無尽に岩場全体へと放たれる。

 地面を穿ち、魔法を打ち消し、少年の放った攻撃は周囲を破壊していく。


「くっ! これほど高速で『封魔の鎖』を作るなんて!」


 眼鏡をかけた魔法使いが必死で攻撃を避ける。

 少年の攻撃は魔法使いにとって防御ができず、かつ自分たちを弱体化させるものだ。

 回避するしかない。

 特に『封魔の鎖』に捕まるのは魔法使いにとって死を意味した。

 魔法が使えない状態で、これほどの魔物に襲われたらひとたまりもない。


 同じく紺色ローブの魔女も必死に攻撃を回避している。

 彼女は祭服姿のヴィオの側へと逃げて来た。


「マリンさん。こっちです」


「ありがとうヴィオ」


 ヴィオに抱きしめられる形となり、ようやくマリンと呼ばれた魔女は安堵した。

 持ち前の強運によってヴィオの近くに光弾と鎖は当たらない。

 同じ考えだった眼鏡の魔法使いーーホアンもヴィオの側で攻撃を凌ぐことになった。


 ただ、ヴィオの強運も万能ではない。

 中遠距離の攻撃や魔法が当たらなくなるが、近接攻撃には強運は働きにくいのだ。

 ゆえに彼ら3人に迫る魔物は魔法使い2人が防ぐしかない。

 その数と強さに魔法使い2人は防御で手一杯となり、他の仲間をサポートする余裕がなくなってしまった。


 仲間の危機を少し離れた場所で弓使いの男ーーアズが眺めていた。

 魔物使いの少年が炎の魔法で岩場を多い尽くそうとしている。

 それを防ぐために宝具持ち3人が少年を攻撃しているが、不死身の少年を止めるのは至難だ。

 

「元を断たなきゃダメだろうよい」


 アズは宝具ーー聖弓『ブラマ』を構えると、魔法の矢をフェニックスめがけて放った。

 青い光の矢が一本、超高速でフェニックスの頭部へと撃ち込まれる。

 フェニックスは回避動作すらできず、頭部を撃ち抜かれた。


 聖弓『ブラマ』の放つ矢は純粋に威力もあるが、その真価は矢に含まれる魔法効果にある。

 かつて狼少女に放った魔力撹乱魔法や相手の位置を完全に把握する探知魔法などだ。

 今回フェニックスへ撃ち込まれた矢は、撃ち込まれた相手の魔力を元に致死性の毒を形成するという恐ろしい効果をもっている。


 ーー解毒しようとしても無駄だぜ。この毒は回復魔法じゃ解毒できない。相手の魔石へと溶け込み、いつまでも毒を生み出し続けるんだ。


 アズにとって切り札と言える矢であるが、相応にリスクもある。


 ーーちっ。やっぱこの矢は魔力の消耗が激しい。矢が打てるようになるまで、あと10分か。


 膨大な魔力によって生み出される毒矢は一度射れば他の矢もしばらく使えなくなるデメリットがある。

 とは言えリスクを負った分の効果はあった。


 苦しげにフェニックスが鳴くとその体が黒ずんで来た。

 紫炎によって体が再生されるが、墨が広がるように毒がフェニックスの身を再び蝕む。


「再生したって無駄だぜ。毒はお前の魔石に溶け込んでいる。まぁ、フェニックスだし完全には死なないだろうが、ひとまずこの場が静まればよし。あとはロードがうまくやるだろうな」


 アズは矢の効果に満足すると、戦闘に巻き込まれないように退却しようとした。

 だが、


「がはっ!」


 アズは悶絶することになった。

 背中へと感じたのは激しい衝撃。

 鍛え抜いた背筋の防御を超え、ダメージが肉体へ響く。

 背骨が折れた感覚を感じながら、アズはその場に倒れた。


「な、なんだ?」


 横たわりながらアズは、自分を見つめる魔物使いの姿に気づく。

 500メートルほどの距離があるにも関わらず、魔物使いは正確に光弾をアズへと撃ち込んで来た。

 恐ろしい威力の光弾がアズに迫る。

 

 岩陰に身を隠したアズだったが、光弾は岩を激しくえぐり始めた。

 長くは持たないが、背骨の折れたアズにこれ以上逃げることはできない。


「くそっ! なんて魔法だ。それにーー」


 岩陰からちらりと顔を出したアズはみた。

 フェニックスの体から毒が消えている。

 紫煙に包まれたその身は元の色合いを取り戻していた。


「なんで解毒されているんだ? ありえないぞ」


 光弾によって岩が砕かれる。

 障壁魔法を無効化する光弾を身動きの取れないアズに回避するすべはない。

 ほぼ無抵抗なままアズはその身を光弾に晒され、気絶したのだった。






「アズの毒矢が解毒された⁉︎」


 頭上を舞うフェニックスを見上げながらベルデが叫んだ。

 盾役としてパーティを守って来た彼だったが、魔物に囲まれ孤軍奮闘状態。

 倒しても倒しても紫煙に包まれた魔物は再生し襲いかかる。

 いくら宝具によって高い防御力を有するベルデでも疲労はある。

 反撃が鈍くなり、息が上がる。


「くそっ! みんなはどこだ! ホアン! マリン! 無事か!」


 ベルデは魔法使いと魔女の名を叫んだ。

 あの2人は情報収集や移動手段確保やその他の雑務などサポートを得意としている。

 前線に立つタイプではないし、戦闘が得意なわけじゃない。

 ましてこれほど強力な魔物たちを相手に2人が持ちこたえられるとはベルデは思えなかった。

 

 ーー俺が守らないと!


 押し寄せる魔物たちを気合で突破し、何とか2人の姿を探そうとベルデは走り出す。

 そして彼は2人とヴィオを見つけると、


「どきやがれえええ!」


 咆哮し彼らを救出しようと突撃を仕掛けた。

 しかし、そんな彼の前に姿を表したのはメルガーナ(鋼鱗蛇)とシールドエレファント(盾像)だ。

 もともと強力な2匹だが、紫煙に包まれたその体は周囲の魔物と比較しても別格の存在と化している。

 歴戦のベルデも思わず恐怖するほどだ。


 2匹の攻撃は苛烈だった。

 シールドエレファントの鼻によって鎧が一撃で砕かれ、ベルデは吹き飛ばされる。肉体へのダメージは無いものの宝具を一撃で粉砕されたことにベルデは驚愕した。そのため、態勢を整えるのが少し遅れる。

 そんな彼の真下からメルガーナが姿を現し、ベルデを空中へと吹き飛ばした。再び鎧が砕かれ、ベルデは右足を折られてしまった。


「ぐああああっ!」


 苦痛の声をあげながらベルデは落下する。

 落下地点には魔物たちが集結していた。

 シールドエレファントとメルガーナがベルデを殺そうと大口を開けている。


「ベルデ!」


 魔物の群へ落下しかけたベルデだったが、聖羽で空を飛ぶララに空中で手を引っ張られ空へと逃れたのだった。


「ララか! 他のみんなはどうした?」


「アズは分からないわ。ホアンとマリン、それにヴィオはあの通りよ」


「くそっ! 殺せないんじゃ埒が明かない。ここは狼人間を回収して撤退した方がいい」


「ええ。ロードに提案しま……きゃあああっ!」


 突然ララが叫び声をあげ、ベルデは頭上を見上げた。

 自分たちよりも上空に何かがいる。

 それは紫煙に包まれた空の支配者ーーワイバーンだった。


 通常の個体を圧倒する魔力を備えたワイバーンが火球を連射してくる。

 ララは火球の攻撃を受けバランスを崩していた。

 衝撃のあまりベルデと手を離してしまう。


「ララ! 逃げろ!」


 落下しながらベルデはララへと呼びかけた。

 何とか地表への落下を避けたララだったが、ワイバーンは猛スピードで彼女を追い続ける。

 そのスピードはララを超えており、彼女が逃げ切れるようには思えない。


「ぐあぁっ! ぬぅ……ララ」


 地上へ落下したベルデは折れた足をかばいながら、迫り来る魔物たちを迎撃し始めた。


 ーーこんなところでやられるなんて……悪夢だ。


 魔物たちに押しつぶされながらベルデは意識を手放した。

 

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