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81 嵐の前のティータイム

 『風車の国』ーーその中央部付近にそびえる塔の部屋にて。


「あれから6日か……」


 窓際の椅子に腰掛けながら女は1人呟いた。

 

 部屋の中には女しかいない。

 テーブルの上には焼き菓子と紅茶が置かれ、女は優雅に菓子を頬張った。

 窓の外にはいつもの変わらぬ街並みが見え、昼食時ということもあって賑やかな声も聴こえてくる。


 紅茶を啜りながら女はテーブルの上に置かれた新聞へと目を向ける。

 3日前に刊行された新聞だ。

 一面には『風車の国』の新国王が王制を廃止、来月にも選挙を行うという記事が大きく載っている。

 他の記事も立候補者のアピール合戦記事ばかり。

 この国において、選挙は今もっとも注目度の高い出来事だ。


 ただ、女が読んでいるのは選挙関連の記事ではなかった。


『「凪の国」が消滅。国があった場所には巨大な穴が残されるのみ。大規模な地盤沈下?』


 一面記事の隅っこにほんの少しだけ書かれた記事。

 国が1つ消えたというのに記事の内容はこれだけ。


 女はティーカップを置きながら目を閉じた。


 ーードラゴンの襲撃を受けて生き残れるはずがないわ。


 女は6日前にみた光景を思い出す。

 

 『凪の国』にて魔物使いの少年へ別れを告げた後、女は国外の平原へと空間移動していた。

 魔物に蹂躙される『凪の国』と少年の抵抗を高みの見物するためだ。

 いかに異常な魔力を誇る狼人間が味方にいようと、ワイバーン20頭と魔物300頭を相手に無事ではいられない。なんとか切り抜けたとしても、相当に消耗するはず。

 

 少年の宝具が持つ魔物を回復させる能力は厄介だが、宝具といえど魔力は有限。

 消耗したところを無残に殺し、少年の魔物を根こそぎ奪おうと女は考えていたのだ。

 迎え撃つために、平原へと魔法陣を用意していた女だったがドラゴンの襲来という予想外の展開に撤退を余儀なくされたのだった。


 ーードラゴンはダメ。あいつらには私の魔法陣も通じない。空間移動があと1秒遅れていたら死んでいたわね。


 『凪の国』上空に現れたドラゴンの攻撃は凄まじく、平原にいた魔法陣使いもその巻き添えを食らうところだったのだ。

 かつて別のドラゴンとも交戦した経験のある女は、迷うことなく『風車の国』の塔内まで空間移動していた。ほとんどの魔物を打ち倒せる女の魔法陣もドラゴン相手には時間稼ぎもできない。逃げるしかないのだ。


 塔内部へ帰ったあの日、女は恐怖のあまり一睡も出来なかったほどだ。

 

 強さの次元が違う。ドラゴンに対する女が持つ印象だった。


 それだけに『凪の国』が消滅したという記事を読んでもさほど違和感は覚えなかった。

 ドラゴンに狙われて無事でいられる存在など、それこそ同種のドラゴンだけだろう。

 当然、『凪の国』にいた住民も、北側にいた魔物どもも全滅したに違いない。


 だがーー女はどうしても考えてしまう。


 ーーそうよ。生き残っているはずがないわ…………普通なら。


 頭によぎるのは頚動脈を切られても平然と生き残っていた魔物使いの姿。

 黒髪の少年が起こしたその奇怪な現象は女のもつ疑念を膨らましていく。


 ーー回復魔法じゃないわね。あの坊やの魔力量では初級の回復魔法だって使えないはず。それに傷口は自然に治癒しているようにみえた。あれがあの子がもつ素の回復力だとでもいうの?


 そんなバカなと女は自分の考えを否定するが、その表情はまったく晴れ晴れとしない。

 

 ーーもし、あの子の回復力がドラゴンの攻撃も凌ぎ切れるものだとしたら?


 女の頭の中では、『凪の国』の跡地にむくりと魔物使いが立ち上がり、傷を癒して復活する様が繰り返しイメージされる。

 頭で否定しても、沸き起こる不安は次第に強くなるのだ。


 魔物使いの生死を確認したい。

 ここ数日間、女は何度も『凪の国』とその周辺を調べようと考えていたがドラゴンへの恐怖が邪魔をしてくるのだった。

 いつものように部下を派遣する手もあるが、忌々しいことにすぐに動ける手駒を女はもっていなかった。


 ーー将軍とあの姉妹を失ったのは大きいわ。


 女にとって魔物を調達できる腕と豊富な人材をもつ将軍と、暗殺や諜報活動に優れたナイフ姉妹は活動を支える重要な人材だった。

 それ以外にも手駒と呼べる人材はいるのだが、せいぜい召使い程度にしか役に立たない連中ばかり。

 一応荒事に秀でた連中もいるにはいるのだが、将軍を退けた魔物使いたちには対抗できないだろう。


 不安と不満で女はずっとイライラしている。

 ちゃんとした食事ではなく、お菓子を食べているのもイライラをごまかすためであった。


 焼き菓子を食べ尽くした女が大きくため息をついていると、テーブルの上に置いてあった1枚のカードに魔法陣が浮かび上がった。それと同時にベルの音が部屋に響く。


 顔をしかめつつも、女は魔法陣へと指を伸ばす。

 ベルの音が消えたと同時に、今度は男の声がカードから聴こえてくるのだった。


『そちらに行ってもよろしいかな?』


『短い時間でしたら』


 会話を終えると同時に部屋の中心部へと魔法陣が浮かび、男の姿が現れた。


「こんにちは、マダム。お食事中だったかな?」


 王冠を被った男が挨拶をしてくる。


「今食べ終わったところよ。お気になさらず。それで? どうされましたの?」


 内心のイラつきを抑えつつ、女は柔和な笑みを浮かべた。

 その蠱惑的な表情と組み替えられた足を見て、国王の表情が少し緩んだ。


 ーーふん、むっつりが。


 心の中で嘲笑しながら、女は国王の言葉を待った。


「うむ。要件は2点だ。1つは昨日も話した魔石取引に関する話。ご存知の通り、我が国は来月から民主制になる。国民の代表者たちによって統治される仕組みだ。私は立候補はせず、顧問として時期政権を支えるつもりでいる」


「ええ。この前もそう話されましたね。覚えてますよ」


「あなたのもたらす魔石は我が国の国力にとって重要な意味をもつ。次期政権とも引き続き取引をしていただきたい。今日はその確認のために参ったのです」


「もちろん私はこの国と取引を続けていきたいと考えていますわ。私にとってもこの国は重要な拠点ですので。ただ、競合相手を作りたくありませんの。私の魔石作りに関しては色々と秘密がありますわ。次の政権が私の秘密を守ってくださるかこちらも不安。お分り?」


「うむ。それで相談なのだが」


「あら? なにかしら?」


「う、うむ。私が今後もあなたと我が国を繋ぐパイプ役をしようと思うのだ。以前あなたは政権が変わるたびに代表者と話し合いたいと申していたが、それでは面倒だろう。秘密が漏れる可能性もある。その点、私はあなたの秘密を知らず、かつそれでも信用して取引をしようと考え実行しているものだ。あなたにとっても都合がよかろう?」


 国王の言葉に女は片目をつぶり思案する。

 女としては政権のトップと直接繋がり、可能ならばこの国の政治に介入しようと考えていた。

 以前凋落させたバカ王子にも自分に都合のよい法律を作らせたりと政治介入はしていたのだ。

 だが、民主制となればトップの人材は何度も入れ替わる。

 面倒ではあるが、その都度代表者どもを凋落させる必要があると女は考えていた。


 そして女には目の前の国王の考えもある程度推測していた。

 パイプ役などというのは建前で本音としては自分と単に繋がりをもっていたいのだ。

 それも男女としてだ。


 この国王が自分に惚れていることを女は確信している。

 うまく使えば政権に介入はできるだろう。革命者として依然この国王は国民からの信頼がある。

 

 ーーでもリスク高いのよね。堅物というか実直すぎるし、正義感も強いしなぁ。


 この国王に魔物融合の禁忌を侵していることがバレるのは避けたかった。

 この国王ならおそらく糾弾することだろう。

 

「良い案とは思うけど、私としてはしっかり代表者と直接話をしたいのよ。商売には信頼が大事。わかるでしょ?」


 女の回答に国王は落胆を隠せない様子だった。思春期の少年のように分りやすいその反応に呆れつつも、


「でもあなたのことは信頼できるし、できれば何かしらの形でお世話にはなりたですわ」


 と女はリップサービスとともに、胸を見せつけるようにポージングをしてみせる。

 国王は一瞬見とれていたようだが、


「きゅ、休憩中に失礼した。ではこれで」


 慌てて姿勢を正すと名残惜しそうに女を見ながら空間移動しようとカードを取り出した。


 ーーふん。革命家様も所詮はオスね。


 そう嘲笑いながらも女は上機嫌だった。

 ドラゴンと魔物使いに悩んでいたその顔は今やにんまりと笑みを浮かべ、自信を取り戻している。

 女にとって男をたぶらかし凋落させることは自分の美貌への自信につながる行為だった。


「あっ。そうそう。もう1つの用事を伝えなければ」


 ふと、国王が言葉を発した。


「あら? 何かしら?」


「うむ。実は一昨日の夜から地下水の噴出が止まったという報告が国中から寄せられたのだ」


「………………え?」


 女の表情が固まった。国王は女の変化に気づかずそのまま続けた。


「調べてみるとどうやら本当に地下水の流出が止まったようだ。我が国を悩ませていた水害の危険性がなくなったと、国民からも喜びの声が上がっている。今朝、国内すべての風車が止められた。それとともに、今後風車を解体し、家や広場にする動きが加速すると思う。だが、安心されよ。この塔に関しては保存することを会議で決めさせた。あなたには迷惑はかけぬ。安心するがいい。報告は以上だ。では、失礼する」


 国王が空間移動し、部屋には再び女が1人だけ。

 女は急いで部屋を出ると、螺旋階段を駆け下り塔の一階部分へとたどり着いた。

 魔法陣を発動させ、地下に格納させている合成獣たちを地上へと引き上げる。


「……なによこれ……」


 浮かび上がった合成獣達は全滅していた。

 聖水の恩恵を受けることができず腐敗し、その全てが死んでいる。

 魔石も魔力を失い消失してしまっている状態だった。


 呆然とする女だったが、ふと羽音が聞こえ頭上を見上げた。

 そこにはいつのまにか出現したカラスが一羽飛んでいる。

 そのカラスは手紙のようなものを咥えており、女の近くへと手紙を落とすと再び姿を消した。


 落ちた手紙を拾い上げ、女はその内容を読んだ。


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