74 不倶戴天の者たち
「それにしても噂通りの辛気臭い国ね」
赤いベールに身を包んだ魔法陣使いが呟いた。
相変わらず太ももやらへそを露出させた格好をしている。その手に持つ魔杖『ヴァーティン』だけが唯一魔女らしい要素だ。
突然姿を現した妖艶な美女の登場に、広場に集まって来た男たちからため息が漏れた。
「建物もダサいし、国民の格好もセンスなし。坊やがいるって情報がなければこんな国絶対に来なかったわ」
「何しに来たんだよ」
のんびりとこちらへ歩いてくる魔法陣使いへ俺は問いかける。
胡散臭い微笑みを浮かべながら、魔法陣使いは歩みを止めなかった。
「何しに来たとは悲しいわ。坊やに会いに来たに決まってるじゃない。ここにいる姉妹のうち姉の方から連絡があったからね。すぐに移動して来たわ」
近づいてくる魔法陣使いを前に俺は思考を巡らせた。
ーーまさか魔法陣使いが来るとはな。どうしようか。
内心の焦りを抑え、俺は努めて平静であろうとした。
ブランカとドリアもすでに臨戦態勢を取っている。
「あっ! お姉様! 助けてくださ〜い!」
俺の足元でナイフ女が叫んだ。
魔法陣使いが杖を突く。地面へと瞬間的に魔法陣が描かれ、強烈な風が俺たち3人へと襲いかった。
「「「うわあああ!」」」
俺たちは20メートル近く吹き飛ばされてしまった。
家や木材の山にぶつかってしまい、3人とも痛みに呻く。
一方のナイフ女は突風に晒されたものの、
「はいはい。世話の焼ける部下ね」
魔法陣使いによって手足の拘束を解かれ、自由を取り戻していた。
「ありがとうございます! そうそう、お姉ちゃんもあいつにやられてしまったんです。助けてください、お姉様!」
ナイフ女の頼みを受け、魔法陣使いは木材の山へと埋もれてしまった黒服女へと近付くと、
「あらあら。瀕死じゃない」
緑色に輝く魔法陣を出現させた。
魔法陣の光が木材の一部を明るく照らす。
やがて木材を掻き分けながら、黒服女が姿を現した。
「お見苦しい姿を晒してしまい申し訳ありません。助けていただきありがとうございます」
黒服女が深々と魔法陣使いへ頭をさげる。
「あんたは相変わらず堅いわね。まぁいいわ。さてと」
魔法陣使い。
ナイフ女。
そして、黒服女。
3人の美女が俺たちへと対峙する。
俺たち3人も立ち上がり、両陣営が向き合った。
「これで3対3ね。人数的には対等になったわ。もっとも坊やの宝具なら仲間なんてすぐ追加できるのだろうけどね」
魔法陣使いがのんびりと、余裕の表情を崩さないまま話しかけてきた。
「坊やのおかげでこの1ヶ月は色々と刺激的だったわよ。大海原へ流刑させたと思ったら生還するし。監視役の召使いは撃退する。おまけにあの将軍を倒してしまうなんてね」
「お陰様で色々と貴重な体験をさせてもらったよ。ありがたくもないけどな」
「ふふふ。そうね。でも坊や。なんだかんだ言ってそれらの経験はあなたにとってプラスとなったでしょ? 部下から魔石を奪ったり、海の魔物だって捕獲出来たんじゃない? 命の危機を乗り越えた経験で単純に自信と実力を身につけたりしたでしょ?」
「………………」
「でもね。私の方は損失が大きいわ。魔石も、魔法陣カードも奪われた。召使いの男はともかくとして、私の仲間のうちで一番の戦力だった将軍を倒されたのは特に痛手よ。『鋼の国』とのパイプが消えてしまった。あの国は大きな取引先の1つだったのに。私としてはーー」
魔法陣使いが歩みを止める。
「これ以上の損失は防がなければならないわ。そこで今日は直接坊やと交渉しようと思って来たのよ」
「交渉だと? あんたの部下になれとでも言うのか?」
「いいえ。部下になる必要はないわ。ただ協定を結ばない? 私と私の仲間は今後坊やには危害を加えないと約束するわ。もちろんそこの魔物2匹もね。その代わり、君は私に関する情報を部外者に口外しないこと、私の仕事を妨害したりしないことを約束する。どう? 悪くないでしょ?」
「…………ふーん」
「私は認識を改めたわ。坊やは思った以上に強いし、関わるとこちらの損失が増すばかり。だからと言って簡単に野放しも出来ないのよね。君には私の魔石工場を教えてしまったもの。禁術。それから魔物を国内に持ち込んでいることが知られると色々と面倒なのよ。ねぇ? どうかしら?」
俺は無言のままだった。
「もしご希望なら魔石やお金もあげるわよ。それに私としてはこっちの選択をしてくれると最高なんだけれど、私の部下になってくれてもいいわ。坊やには強力な魔法陣のカードをあげる。ぶっちゃけた話をすると、最大戦力だった将軍が抜けた穴は大きくてね。坊やは戦力として申し分ないと思うからお願いしたいわ」
胡散臭い微笑みを魔法陣使いは浮かべた。
ナイフ使いも軽々な笑みを、黒服女は軽く頭を下げる。
「ナイトどうする? こんなこと言っているけど?」
「あたいは嫌だな。このメスたち気に入らない」
魔物2人が俺へと意見を口にして来た。
俺は一歩前に出ると、
「悪くない条件だと思う」
そう魔法陣使いへと話しかけた。
「部下になるのは御免だが、俺たちに危害を加えないってのは歓迎だな」
「ふふふ。じゃあ、早速協定を結びましょう。お互いの平和のためにね」
「いいや。お断りだね」
俺の放った言葉に魔法陣使いの頬が一瞬ピクリと動く。
姉妹の方も俺を見る眼光が鋭くなった。
「あら? 何か不満だった? それとも注文があるのかしら?」
「いやいや、そうじゃないよ。協定の内容は悪くないと思うぜ。平和に生きたいと思うのなら協定を結ぶ方が賢いとは思うよ。けどさーー」
俺はじっと3人の敵を睨みつけた。
「協定結ぶ相手が殺気を放っているんだ。とても協定内容が守られるとは思えないね」
俺は続けた。
「お前ら3人とも俺たちを殺したくてしょうがないってツラしているぜ? そもそも俺は今、そこにいる黒服に首を切られたんだ。あの将軍にはブランカの同胞が弄ばれた。今更そんな連中を信じられるわけないだろ」
俺はちらりと広場周辺へと視線を向ける。
いつの間にか国民が大勢やってきていた。ブランカとドリアに対して嫌悪を向ける視線もあったが、どちらかと言うと面白いショーでも見るかのようにワクワクさせている連中の方が多い。
魔法陣使いも野次馬の多さにイラつきを覚えるようで、表情がこわばり始めた。
「残念ね。せっかく歩み寄ってあげたのにそこまではっきり断られるのならしょうがないわ」
ナイフ使いと黒服女が武器を構えた。
ブランカは強化魔法を、ドリアは植物武器を取り出す。
両陣を包む空気は張り詰め、
「私としては坊やたちに秘密をバラされたくないのよね。邪魔されるわけにはいかないから野放しにする気はないわ」
魔法陣使いは杖ーー魔杖『ヴァーティン』を構え、
「俺としても仲間と俺自身を始末しようとする連中を放ってはおけない。今更逃げる気も、逃す気もない」
俺も『魔物図鑑』を取り出した。
ーー戦闘開始だ。
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