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70 インターミッション

 翌日。

 陽の光が湖とその岸辺へと差し込んだ。

 目を覚ました俺はむくりと身を起こし、大きく伸びをする。


 俺の両脇にはブランカとドリアが横になっていた。

 すやすやと眠る2人を起こさないように俺は静かに立ち上がる。


「おはよう、ホーンホエール(角鯨)。見張りご苦労さん」


 湖に目を向けると、ホーンホエールがあいさつのつもりなのか尾びれで水を叩いてみせた。

 『魔物図鑑』へとホーンホエールを収容すると、俺は日課である鍛錬をしようとしたが、


「痛てぇ…………今日はやめとこ」


 左肩が痛むので本日は中止だ。

 魔法鞄から水とパンを取り出し食べながら、俺は湖畔に生えている1本の木へと目を向ける。


 湖と森のちょうど中間あたりに不自然に生えている1本の木。

 その根元には盛り上がった土の山が3つある。

 昨晩作り上げた狼人間たちの墓だ。

 

「……安らかに眠りな」


 そう独りごち、俺はパンを飲み込んだ。







 朝食を済ませた俺はブランカたちを含める全ての魔物を図鑑へと収容すると、


「今日も頼むぜ、ワイルドボア(大猪)」


 ワイルドボアを召喚し、その背中へと乗った。


 昨晩の戦闘によって俺たちは「将軍殺し」と「騎士の妨害」という犯罪を犯している。

 いつまでも『鋼の国』の近くにいるわけにもいかない。

 俺はワイルドボアを走らせ、この地を離れることにした。


「目指すは大山脈。走れ、ワイルドボア」


 俺の指示を受け、ワイルドボアが駆け始める。

 俺は振り落とされないように、ワイルドボアの硬い毛へとしがみつくのだった。






 森を抜け、荒野を駆け俺たちは東へ向けて進み続ける。

 昼飯も取らず、休憩もなし。ワイルドボアには悪いが疲労は『魔物図鑑』の『回復』機能で帳消しにさせてもらっている。


 夕闇が迫る頃になって雨が降り始めた。

 ワイルドボアを図鑑へと収容し、俺は地面へと降り立つ。

 俺がいるのは平原だった。

 地平線の先に山が見える以外はひたすらに草が生えるだけで何もない場所だ。


「うー。よく寝た」


「あたい、参上」


 図鑑からブランカとドリアを呼び出すと、


「今日はここで休憩だ。ドリア。植物で雨よけの屋根とか作れる?」


「任せとけって」


 ドリアが俺たちのいる場所を中心に3方向に植物の蔓を生やした。

 蔓たちは絡み合いながら半球型の寝床を作り出す。


「うー。相変わらず便利な能力ね。そのうちドリアの力で家とか作れるんじゃない?」


「そうだな。あちこちに簡易的な拠点が作れたら面白いかもしれない」


「むぅ。まだ家は無理かな。でもそのうちに作ってやるよ!」


 そんな会話を終えると、俺は魔法鞄を掴み。


「今日は荷物チェックだ。『鋼の国』じゃあ、あんまり買い物出来なかったからな」


 確認してみると、食料は4日分あった。とはいえこの先に補給できる場所があるかも分からないので節約することになるだろう。


「ブランカたちは図鑑の力で腹が満ちるから何とかなるか」


「うー、また牛肉はお預けかぁ」


「わんわんはそればっかだなぁ」


 取り敢えず俺は乾燥野菜とパンだけの夕食を済ませる。

 何とも虚しい感じだが、生きるためには仕方ない。

 

 雨は激しさを増しているが、ドリアの植物は完璧に水を防いでいた。

 雨音が響く中で、


「さてと。寝る前に明日のことなんだけど」


 俺は話を切り出した。


「やっぱり北側の地域は人間に会う確率が低い。物資の補給もしたいから、明日は少しだけ南下しつつ東へ進むことにするよ。出来るだけ早く移動したいから、明日も今日と同じで俺1人でワイルドボアに乗る。2人にはしばらく退屈な時間になると思うけど、辛抱してほしい」


「うー、別にいいよ。むしろここ最近が色々ありすぎだったし」


「あたいも図鑑の中で新兵器を考えるから平気だぞ」


 2人とも特に不満もなさそうだ。

 就寝前に俺はブランカからマッサージを受けることになった。


「そう言えばさ。私が人質交渉している間にナイトとドリアって探し物していたのよね? 結局それってどうなったの?」


 俺の背中を押しながらブランカが尋ねてくる。

 

「あれ? 話してなかったっけ?」


 俺は『魔物図鑑』を操作すると、マルフェザー(極彩鳥)を召喚した。

 俺たちの近くに出現した茶色で地味な鳥の魔物。

 ブランカは現れた魔物をじっと見て。


「……え? この子が探し物? …………なんていうか……華がない奴ね」


 ブランカの言葉にマルフェザーが翼をバサっと広げてみせた。怒ってる?


「あっ、ごめんごめん」


 ブランカが慌てて謝るが、


「うー、でもこの子をどうして欲しがったの? 私この子知ってる。マルフェザーでしょ?」


「へぇ、名前を知っていたか」


 俺が感心していると、


「うん。だってこの子たちってすっごく美味しいんだよ。私も空腹時にお世話になったなぁ」


 などとブランカは口にしやがった。

 途端にマルフェザーがぶるぶると震え始める。

 慌てて俺へと駆け寄ってきたマルフェザーは俺の背後へと隠れてしまった。


「ごめん。ごめんってば。今は食べる気なんてないよ。仲間を食べるわけないでしょ!」


 と言ってはいるがブランカの目は牛肉を目の前にした時と同じ光を放っている。

 説得力は全くなかった。


「安心しろマルフェザー。俺がブランカから守ってやるから」


「そうだぞマルちゃん。あたいも助太刀するぞ」


「うー。信用してよぉ」


 背後に隠れるマルフェザーを撫でていると、ブランカが続けた。


「うー、まぁ、それはそれとして。でもマルフェザーって保護色で見つけにくいってくらいしか特徴がなかったような気がする。いや、別にどんな魔物を捕まえようとナイトの自由だけどさ。あの将軍をあちこち無意味に歩かせて時間稼ぎしたり、指名手配されて危険なのに国中を探し回ったりしてまでその子を捕まえる価値ってあるの? 非常食用?」


「おい、また食べる話になってるぞブランカ」


「おっと失礼失礼」


「わんわん、単純だなぁ」


 ドリアの頭へブランカが軽くチョップを打ち込むのを見ながら、


「もちろんそれだけの価値がマルフェザーにはあるんだよ」


 俺の言葉にブランカは納得できないと言いたげに首を傾げた。


「うん。このマルフェザーってさ、フェニックス(不死鳥)の幼体らしいんだよな」


「ふーん。フェニックスの幼体ね。ふーん……………………………………は?」


 それまで食欲の色に染まっていたブランカの目つきが変わった。


「フェニックスってあれだよね? 炎に身を包んだ世界一綺麗な魔物とか。血を飲んだら不老不死になるとか言われてるあれだよね」


「そうだ。そのフェニックスで合ってる」


「はああああああ⁉︎ この子がフェニックスになるの? 私過去に20匹くらい食べちゃったよ!」


「声デケェよブランカ! そんなこと言ったら俺だって昔野外活動のときに1匹食ったことあるって」


「待った2人とも! マルちゃんが震えてる!」


 ドリアの言うようにマルフェザーはガクガクブルブルと震え、ドリアの背中へと隠れている。


 取り敢えず頭を下げまくり俺とブランカはマルフェザーから天敵扱いはされなくなった。


「ふぅ。びっくりした。でもナイト。本当にこの子がフェニックスになるの? そんな話聞いたことないよ」


「俺だって初耳だ。でも『魔物図鑑』の記述が間違ってたことないしな」


「うー。でもマルフェザーってそんなに珍しい魔物じゃないよ。人間にだってよく食べ……捕まること多いし。そんな魔物があのフェニックスになるとか信じられない。ねぇ、どうやったらフェニックスになるの?」


「そこなんだよなぁ。捕獲してみたけど図鑑の記述に変化はないんだよ。フェニックスの幼鳥としか書かれてない。このまま時間が経てばフェニックスに成長するのか、それとも何か条件が必要なのかも分からない」


 ただ、と俺は言葉を続けた。


「フェニックスが味方につけばかなり頼もしいぞ。というわけでドラゴンに会いに行くに次いでマルフェザーをフェニックスへと成長させるってことも俺たちの目標になった。具体的には魔石を積極的に『魔物図鑑』へ吸収させようと思う。図鑑が強化されれば、それだけ記述も増えるだろうからな。成長させる条件が分かったら実行しようと思う」


 そういうわけで今日は寝る、という俺の言葉に合わせこの日は就寝。

 そして翌日から俺たちは旅を再開した。





 道中に出くわした商人から物資を補給。

 現れた魔物は積極的に捕獲。

 ブランカとドリアへと文字を少しずつ覚えさせ、俺たちは東へとどんどん進む。

 時には大雨に阻まれもしたが、そんな日は洞穴や木の下で魔物たちを毛繕いするなどして過ごした。


 国とは呼べない小さな集落へ泊めてもらったり、山賊に襲われて返り討ちにしたりと俺たちは順調に旅を進めた。

 魔法陣使いからの追っ手に出くわすこともなく、俺たちは進み続けーー


「おっ。この先に国があるらしいな。行ってみるか」


 『鋼の国』を出発してから20日後。

 その日俺たちは街道へと到着したのだった。

  

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