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68 輝く展望塔

 ーー上からすごい音がしたぞ。


 『鋼の国』の展望塔。その3階の広間にいた妖精のドリアは頭上を眺めていた。

 

 広間はドリアの生み出した植物によって原生林のような有様になっている。

 広間の中央には硬い皮で包まれた巨大な塊があり、その中にはブランカと3頭の狼人間が最期の時間を過ごしているはずだ。


 ドリアは階下に生やした植物たちへと魔力を送り、外の騎士たちからの攻撃を防いでいた。


 ーーナイトは大丈夫か? 血をいっぱい出してたけど。


 ドリアは今すぐにでもナイトに加勢したいと思っていたが、ブランカたちを守れというナイトの命令には逆らえない。心配しつつもドリアは自分の役割を果たそうと全力で植物たちへと働きかける。


 ーーさっきからド上のほうで物音はしてた。でも今のは前にわんわんがあたいの植物を吹き飛ばしたときみたいな音だったぞ。まさか……ナイトがやられたのか?


 疑問と不安に頭が染まり始めたドリアだったが、その顔が急に険しく変貌した。


 ーー外と1階に生やしていた植物たちの反応がなくなった? それに2階の植物たちもどんどん減ってる。


 室内にいるドリアには分かるはずもないが、この時展望塔には炎魔法を使う魔法使いが到着し、硬質化したドリアの植物を焼き払っているところだった。


 ーーよく分からないけど、植物たちが消えたら騎士たちが入ってくる。それはだめ!


 焦りつつドリアは植物たちを増やすために魔力を使い始めるが、どれだけ生やしても植物たちの反応はすぐに消えてしまうのだった。


 ーーどうしよう? どうしよう⁉︎ このままだとこの部屋まであいつらがくる。ナイトだって危ないよ。あたいが守らなきゃいけないのに!


 必死に植物を操るドリアだったが、炎の魔法に焼かれ彼女の植物はもはや防御壁としての役目を果たせずにいた。

 すでに騎士たちは2階まで進出しており、ドリアたちの部屋に迫る。

 

 不意にーー

 ドンドンと扉を叩く音が広間に響いた。

 その音にびくりと体を震わせながら、ドリアは広間の扉へと注意を向ける。

 硬質化した植物に覆われたその扉はまた、ドンドンと音を響かせていた。


 ーー誰かいる。ナイト? ……でも、あの将軍って奴かも。他の騎士かもしれない。うぅ。開けていいのかな?


 迷うドリアだったが、


「…………ドリア。中に入れてくれ。俺だ。ナイトだ」


 扉の奥から聞こえた声にぱぁっと表情を明るくさせ、ドリアは植物の結界を解いた。

 開かれた扉の先。

 そこには全身血まみれという痛々しい姿ながらがドリアの主人が立っていた。






「無事だったか。良かったよ」


 突撃してきたドリアを受け止めながら俺はそう口にした。

 俺に抱きしめられた妖精は外見に違わぬ子供らしい仕草で俺に抱きつくと、


「うわあああ! 良がっだああ! あだい、ナイトが殺されたかと思っだあああっ!」


 鼻水を垂らしながら大泣きし始めたのだ。

 何だか前にも似たような光景を見たことがある。

 俺はドリアの頭を数回撫でてやった。


「なんとか生き延びたよ。でも危なかったな…………今回は本当に殺されるところだった」


 ふらりと俺はその場にしゃがみ込むと、猛烈な目眩を感じそのまま後ろへと倒れた。


「ナイト! 大丈夫か?」


 ドリアが慌てて俺を抱き起こそうとした。

 

「……大丈夫……じゃないな。さすがに血を流しすぎた。まともに動けないや」

 

 そうドリアに告げていると、広間中央に置かれた植物の塊が激しく揺れ、


「ぶはっ! もうっ! 硬い皮ね」


 縦に割れた巨大な種子。その中からブランカが姿を表した。

 背伸びをしたブランカはドリアに抱き起こされる俺の姿を見て、


「ナイト! 血まみれじゃない!」


 血相を変えて俺の横へと一瞬で移動して見せたのだった。


「あぁ、あの将軍と一戦交えてきた。負けちゃったよ。全然敵わなかった。ははは」


「ははは、じゃないよ! まずいよ、これ……血がいっぱいだよ。どうしよう? 人間の手当てなんてしたことないよぉ」


 弱々しく呟くブランカの頬を俺は血で汚れていない左腕で撫でてやる。


「それは心配しなくていいよ、ブランカ。ところであの狼人間たちはどうした?」


「…………いま3頭とも亡くなったわ。眠るみたいに死んでる。苦しくはなかったと思う」


「…………そうか…………じゃあ、早速で悪いけどこの展望塔を脱出しよう。俺の魔法鞄があるだろ? その中に3頭の亡骸を入れてやってくれ。さすがに抱えて運ぶわけにもいかないからな」


 俺の指示を受け、ブランカが素早く作業を始める。

 その間にも下の階からは男たちの怒号が聞こえてきた。


「ナイト! あたいの植物たちがどんどん消えているんだ! もうすぐ騎士がここに来ちゃうよ!」


「……多分、炎の魔法だな。植物が燃やされているんだよ。早いところ、脱出しよう」


 狼人間たちの亡骸を回収し終えたブランカに俺はおんぶしてもらうことになった。

 ドリアには魔法鞄を持ってもらう。


 部屋を出た俺たちは破壊された螺旋階段までくると、


「はっ!」


 ブランカは俺をおんぶしたまま跳躍し、


「待ってよ!」


 ドリアは羽で飛びながら展望塔の最上階へと到着した。

 

 最上階へ到着した2頭だったが、


「なにこれ……」「うわぁ……」


 フロアの光景を見て唖然としたようだ。


 最上階は破壊されていた。

 最上階を覆う屋根は半分以上が崩落し、床へと残骸が散らばっている。

 その床も一部分に人間1人が通れそうな穴が空き、4階の部屋が見えてしまっていた。

 

 全体的に残骸が散らばる中で、ブランカとドリアは穴の近くに横たわる()()を見つけたようだ。


「ちょっと。これって甲冑?」「……あっ、中に人間が入ってる」


 2人が指摘するように、穴の近くには甲冑が横たわっている。

 もちろんそれは先程まで俺と戦闘を交わしていた将軍だった。


 横たわる将軍だが、その外観は無残なものだった。

 あれだけ自慢げに防御力を自慢していた甲冑は頭部と胸部部分が完全に破壊され、中身である将軍の体がむき出しだ。

 そして将軍は損傷し、ミミズ腫れのような跡が全身に広がっている。

 むき出しの頭部と胸部は赤黒く焼け焦げていた。


 将軍は全く動かない。

 呼吸による腹部の動きすらない。

 絶命していた。


「うー、これってナイトがやったの? こんな丈夫そうな甲冑をよく破壊できたね」


 ブランカは将軍の死体に動じることなく問いかけて来た。

 ドリアに至っては珍しい宝石でも品定めするかのように将軍の死体と甲冑を触っている。

 さすがは魔物。人間程度の死体に恐れも不快感もないらしい。


「いや、俺じゃないよ。俺の魔法や剣術じゃあ、この人の防御は突破できない。当然甲冑なんて貫けないさ」


 じゃあどうやって、というブランカの問いかけに答える前に、俺たちのいる最上階へと何かが飛んで来た。

 ごろりと最上階の床へと転がっているのは黒い鉄球だ。

 その正体にいち早く気付いた俺は、


「爆弾だ!」


 と叫んだ。

 

 鉄球が破裂する直前、超人的な反応と速さでブランカが鉄球を拾い上げ、そのまま空中へと放り投げた。

 大爆発だ。

 夜を照らすその発光に、俺たちは一瞬顔をしかめてしまう。

 どうやら展望塔を囲む騎士が投げ込んだものらしく、続けて第2弾が投げ込まれて来た。


「鬱陶しいわね。これじゃあ、跳躍して逃げられないじゃない」


 ぽんぽんと放り込まれる爆弾に、ブランカが忌々しいそうに呟く。

 俺たちの逃走を防ぎ、あわよくばトドメを刺そうという攻撃だ。


「私が下の連中を蹴散らしてくるわ」


「あたいが暴れてやろうか?」


 魔物2人の頼もしさに俺は思わず笑みが出てくるが、


「いや、2人は俺のそばにいてくれ。下の連中はーー」


 そう言いながら俺は指を鳴らした。


「ーーあいつに任せよう」


 俺がそう言い終えると、展望塔が明るくなった。


 一瞬の閃光。

 その後にやってきたのは振動と轟音、そして悲鳴だ。


 ブランカもドリアも突然の光に飛び上がり驚いた。

 特にブランカは狼耳を両手で塞ぎ、床へとうずくまっているほど。


「ななななな、なにい今の!」


 がたがたと震えながらブランカが問いかけてくる。

 その問いに答える前に、再び閃光が展望塔を包んだ。


「きゃああああっ!」


 悲鳴をあげたブランカが俺へと抱きついて来た。

 暖かい体温とともに、ブランカの胸の膨らみが俺の腕へと当たる。

 その感触にちょっと幸福感を感じつつ、俺は涙目になるブランカを撫でてやった。


「ナイト! 今の光ってホンちゃんの雷撃?」


 一方のドリアはヒカイの正体にいち早く気付いたようだった。

 

「その通り」


 俺が答えている間にもまた雷撃が展望塔へと降って来た。

 もちろんその攻撃は俺たちを狙ったものではない。

 凄まじい破壊力で雷撃は展望塔を囲む騎士団を蹴散らしていた。


「ドリアの言うようにこれはホーンホエール(角鯨)の雷撃だ。将軍もこの雷撃で倒したんだよ」

 

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