63 逆襲を描く袋の鼠
路地裏で今後の作戦を考えていた俺たちだったが、
「うーん。でも実のところプランがあるわけでもないんだよなぁ。土地勘もないし、この国の情勢も知らないし」
「うー。そういえばお腹すいたや。牛肉食べたい」
「あたいも水が欲しくなってきた」
まずは腹ごしらへをしようと、俺たちは生き物として真っ当な選択肢を選ぶことにした。
ブランカとドリアの変装を確認し、俺たちは路地裏を出る。
通りの人々はほぼ全員が闘技場の方向へと顔を向け、隣り合う人々と話をしていた。
その中には実際に闘技場にいた人物もいたようだが、
「なんか突然爆発したんだよ」「急に人が暴れ出した」「砂煙でよく分からなかったのよ」
闘技場でブランカと将軍が対決していたことを把握している人はいないようだった。
俺たち3人は近くにあった屋台で適当な食事を済ませると、
「3頭の狼人間を救出することから始めよう。まずは所在を突き止めないとな。シェアリングクロウ(伝播烏)で空から探すのが一番楽か」
「まだあの闘技場にいるんじゃないの? さっさと突撃しようよ」
「ドリアの言うようにその可能性は高いと思うよ。そして俺にとっては嫌なパターンだ」
「嫌なパターン?」
首を傾げるドリアへ俺は続けた。
「あの将軍は十中八九あの魔法陣使いの仲間だ。俺の名前を知っていたし、魔法陣も使ってたし間違いない。そして、多分あの魔法陣使いから俺たちに関する情報を得ているはずだ。ブランカの強化魔法に十分対応していたことからみて、事前にある程度俺たちへの対策を練っているようだな」
「ふむふむ」
「その上で狼人間を使って俺たちを引きつけようとしている。つまり、あの闘技場は将軍にとって俺たちを捕まえるための舞台なんだ。おそらく魔法陣をはじめとした罠が張り巡らされているんだろう。わざわざ敵が有利な場所へ飛び込む必要はない。さっきの戦闘で『ブランカには人質が効く』ということも分かっただろうし、さらに陰湿な罠が追加されている可能性がある」
「うー。でもあの子達が闘技場で捕まっているならどっちにしろ私たちはあそこへいかないと」
ブランカが口を尖らせる。冷静にはなったようだが、それでもやはり同胞を早く救いたいという焦りは拭えない様子だ。
「あの将軍を甘く見ない方がいい。あの人は強いぞ。いくら魔法陣や自身の魔法があるからとはいえ、ブランカの高速攻撃を避けきるなんて並みの腕前じゃない。そんな奴が罠を用意して万全の状態で構えている場所に飛び込むなんて自殺行為だ。
さっき俺たちが脱出できたのは俺たちがバラバラに行動していたからだ。もし俺たちが普段のように一丸になって行動していたら3人とも罠にかかって一網打尽にされていただろう。そう言う意味では今回俺たちに不和があったのは逆に幸運だったかもしれない」
「うー。じゃあどうするの? あの子達を救いたいなら闘技場に行かなきゃいけない。でも行ったら私たちが滅茶苦茶不利で危険かもしれない。こんなの一か八か飛び込むしかないじゃん」
「だからそれは悪手だって。俺たちがまずするべきことは、『敵の有利を崩す』ことだ。そして『自分たちの有利へ引き込む』ように行動しなきゃいけない」
「うー。よく分からない。じゃあ、どうすればいいの?」
「だからそれを考えるためにも情報がいるんだよ。有力な方法はあるんだけどできれば使いたくない。行商人になるっていう最大目標に支障がでるからな。それ以外の方法を考え……」
そこまで言いかけたところで俺は歩みを止めた。
ブランカもドリアも立ち止まる。
俺たちの前に5人の男女が現れた。
年齢はバラバラ。服装は平民そのもので、女性の1人はエプロン姿のまま。
全員が手には武器と縄を持っていて、俺たちを見てやや興奮している。
「お、おい。間違い無いよな?」「ああ、手配書通りだ」「黒髪の若い男とフード被った娘。それからちびっこ」「これで貧乏生活からおさばらなのね」「早いとこ捕まえましょうよ」
「そうだな。おい、そこの若い奴。お前に恨みはねぇが大人しく捕まってもらうぞ」
5人の中で最年長であろう男が剣を抜刀し、俺へとにじり寄った。
「何故です?」
俺の問いに対し、
「「「お前らが賞金首だからだ!」」」
5人が武器を振りながら俺たちへと突撃してきたが、
「がっ!」「ぐっ!」「ぎっ!」「げぇ!」「ごぁっ!」
俺とブランカによって迎撃され地面へと横たわった。
腹を押さえ悶える男の手に1枚の紙が握られている。
男の手から紙を奪いその内容を読んでみると、
「俺たちの手配書だな。『危険思想人物』『情報提供者に金貨20枚』『捕まえた者に金貨100枚』だってさ。なかなかの報酬じゃん。おぉ、掲載されている絵も俺たちそっくりだ」
「うー、見せて見せて! …………私すっごい仏頂面で書かれてる」
「あたいにも見せてよ…………あたいってこんなに小さいっけ?」
魔物2人が首を傾げていると、
「「「いたぞ! 賞金だ!」」」
通りから次々と人が現れ、俺たちに向かって走ってきた。
今しがた気絶させた5人と同じように武器を持っている。
ちらりと家々の壁を見てみると、手配書があちらこちらに貼られていた。
「逃げるぞ!」
俺の一声でブランカは行動に移った。
俺とドリアを両脇で抱えると、一気にブランカは建物の屋根へと跳躍する。
下からは驚いた民衆の声が聞こえてきた。
「ナイト! どうするの?」
屋根を走り回りながらブランカが訪ねてくる。
「正面に背の高い建物が見えるだろ? あそこへ向かってくれ」
「うー。わかったよ」
指示通りブランカは建物近くまでやってくると、
「ほっ! はっ!」
建物側面の突起物へと足をかけ、そのまま屋上めがけて跳び上がった。
どうやらこの建物は展望台らしい。
屋根付き展望台へと到着し、俺とドリアはブランカによって降ろされた。
「脇に抱えられて運ばれるってのは恥ずかしいな。おかげで助かったけど」
幸いにも展望台に人の気配はない。
展望台は円形の部屋で、中央部に下へと続く螺旋階段がある。
ドリアに階段を見張ってもらいながら、俺とブランカは窓から地上を眺めた。
「どうだ? 何か聞こえるか?」
フードから狼耳を出したブランカは、
「うー、民衆の走り回る音が聞こえる。『賞金首はどこだ』って声もあちこちがするよ」
「そうか。こりゃあ国中にあの手配書が張り出されていると考えたほうがいいな」
「あとね、『闘技場にて狼人間の処刑を行う』って声も聞こえてきた。多分これって魔法で声を大きくしているんだと思う。同じようなセリフがあちこちから聞こえるよ」
報告しながらもブランカの表情が強張ってきた。
さすがにもう激昂する様子はないが、それでも落ち着いてはいられない様子だ。
「……魔物を処刑することなんてわざわざ拡声魔法で報じるようなことじゃない。騎士にとって日常的な仕事だからな。多分、俺たちを呼び寄せようとしているんだ。さっきブランカを仕留め損なったから向こうもちょっと焦っているのかも」
俺は『魔物図鑑』からシェアリングクロウを召喚すると、国中へと飛ばした。
共有されたシェアリングクロウの視界が『魔物図鑑』へと送られてくる。
「むぅ。あたいたち追い詰められてるって感じだな。身動き取りにくくなってる」
「そうね。ナイトの言う『敵の有利を崩す』なんてこれじゃあ無理ね。それに早くしないとあの子達殺されちゃうわ。3頭いるから1頭くらい見せしめに殺されたって不思議じゃないもん」
「ねぇねぇナイト。もう正面突破で良いんじゃない? あたいとわんわんならその辺の騎士程度問題なく倒せるし。その偉そうな将軍って奴も3対1なら仕留められるって」
魔物2人が俺へと顔を向ける。
「例えばその方法で将軍のところまでたどり着いたとしよう。もし将軍の近くに拘束された狼人間がいて『動いたらこの狼人間を殺す。大人しく首輪を付けろ』と人質にされたらどうするんだ?」
俺の問いかけにドリアは腕組みをして考えてみせた。
「うーん。わんわんの最高スピードなら将軍が何かする前に救出できるんじゃない?」
「あぁ、出来るだろうな。その場に3頭とも揃っているのならな」
俺の言葉に2人は顔を見合わせた。
「向こうには人質になる駒が3つある。これが厄介な点だ。あの闘技場に3頭が揃っているとは限らない。1頭だけ用意されていて、残り2頭は別の場所に連れて行かれているかもしれない。そんな状況でドリアの言うように将軍の前にたどり着いても、『ここ以外の場所にも人質はいる。抵抗すればそいつらがどうなるか分かるな?』と脅され俺たちは身動きが取れなくなる。まさに最悪のパターンだ。それに騎士たちが確保している狼人間が3頭だけとも限らない。俺なら人質全員を一度に交渉材料にはしない」
「むぅ。結局ナイトの言うように相手の有利を崩さないとあたいらは勝てないのか」
「でも、どうやって有利を崩すの? 国民にも顔がバレてるから身動きは取り辛いよ?」
ブランカもドリアも困り果てたようにため息をつく中で、
「身動きが取り辛い? いやいや、むしろ俺としてはやり易くなった。あははは」
俺の態度にきょとんと顔を見合わせる2人。
そんな2人を放って俺は言葉を続けた。
「手配書を出したのはあの将軍の失敗だ。俺たちを追い詰めようとそんな手を使ったんだろうが、読みが甘かったな。絶体絶命な状況に追い詰められれば、ねずみだって猫に逆襲するさ。お陰様で躊躇なく最初に考えていた方法を実行できる。大泡吹かせてやるよ、将軍様」
「感想」「ブックマーク」は執筆の励みになります。面白いと思ったらぜひ評価して下さい。




