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60 『鋼の国』での暗雲

 男達は真夜中だというのに迷いなく森を進んで行く。

 魔物の収容された荷車を引いていく姿も手馴れている様子だ。


 俺たちは男達から見て左側ーーおおよそ100メートルの距離を取りながら茂みに身を潜めつつ追跡しているのだった。


「うー。ナイト。今すぐにでもあの子を助けようよ」


 ブランカが俺の袖を引っ張りながら訴える。

 森を歩いている間に少し冷静になってくれたので、俺はブランカへの制限を解いていた。

 

「そうしてやりたいけど、相手が騎士となると厄介だ。下手すりゃ国から目をつけられる」


「でもこのままだとあいつらは国に入るよ。そうなったらますます厄介じゃん。今はまだ国から離れた場所だし、ここで仕掛けた方が良いんじゃない? こんな時間だし、森に騎士と私たち以外の人間はいないだろうし、騎士達を皆殺しにすれば問題ないよ」


 なんとも物騒なセリフだが、ブランカの言うことはもっともだ。

 国内に入られれば下手なことはできない。

 仕掛けるなら無法地帯な国外だろう。


「分かったよ。仕掛けよう。ただし、殺すのは無しだ。あとブランカは攻撃に不参加な。お前だと途中で我を失って殺してしまいそうだ。召喚『メディックビー(薬蜂)』」


 俺は『魔物図鑑』からメディックビーを100匹ほど召喚した。


「メディックビーで騎士を痺れさせる。そのあとでルナアウル(月梟)の催眠術で前後の記憶を曖昧にしてやろう。その間にブランカは檻を運んでくれ。いいな?」


「…………うー、分かったよ」


 やや不満げではあるがブランカを納得させ、俺はメディックビーをけしかけようとした。


 ところが、俺が指示を出そうとした時に騎士達の動きが止まったのだ。

 不審に思った俺はメディックビーを待機させた。


 騎士達の前には1人の男がいた。

 背が高い甲冑に身を包んだ男だ。

 明らかに騎士達よりも上等な装備からみて、どうやら上官の登場らしい。

 上官の男は騎士達の前で何やら紙を取り出した。

 するとーー


「え? 消えた⁉︎」


 上官もろとも騎士達の姿が消えてしまった。

 魔物達の収容された檻も荷車ごと影も形もなくなった。


 予想外の光景に俺たちはしばし言葉を失う。

 沈黙が周囲を包み、俺たちはゆっくりと顔を見合わせた。

 

「ねぇ、今のって空間移動魔法だよね?」


 ブランカの言葉に俺は頷くしかない。

 連中が消える直前、俺は確かに見ていた。

 上官らしき男の取り出した紙。

 その紙に一瞬浮かんだ魔法陣を。


「何てこった。魔法陣使いの仲間がいる。しかも騎士かよ」


 メディックビーを図鑑へ戻しながら、俺は忌々しく呟いた。

 逃げたつもりの北側ルート。

 その最初の国でいきなり魔法陣使いの仲間に遭遇するとは。


 ーーもしかして先回りされたのか?


 一瞬そう疑いもしたが、俺たちの生存が魔法陣使いに知られたのは5日前だ。

 騎士という立場に5日程度で潜り込めるわけがない。

 となると元々この先の国に魔法陣使いの仲間は住んでいて、俺たちは愚かにもその国へ接近してしまったということか。


 敵は俺たちに気付いていない。

 本来ならば敵がいると分かった場所へわざわざいく必要はないがーー


 ーーそうもいかないだろうな。


 ちらりと俺はブランカの様子を横目で見た。

 

 ブランカはあの狼人間を助けるのをやめる気は無いだろう。

 魔法陣使いの仲間が敵となれば、あの狼人間の末路は絶望的。

 運良く助かる見込みなんてゼロだ。だからこそ助けがいる。


「すまないブランカ。俺の判断が悪かった。もっと早く決断するべきだった」


 俺の謝罪にブランカは何も言葉を発しなかった。

 俺へと背を向け、とぼとぼと歩き始める。

 ドリアが心配そうに駆け寄ってブランカの手を握るが、


「……大丈夫よ」

 

 ブランカはぼそりとそう言うだけで俺を見ようとはしなかった。

 気まずい空気が俺たちを包みこんでいく。

 






 森を抜けた先には国があった。

 堅牢そうな城壁に囲まれたやや広めの国。

 近づいてみると、城壁の壁面には木や鋼鉄の杭が飛び出していた。


「なんかトゲトゲした壁だなぁ」


「魔物の侵入を防ぐための工夫だな。北部はやはり魔物に襲撃されることが多いんだろう」


 ドリアと俺がそんな会話を交わす中、


「………………」


 ブランカは先頭をずんずんと進んでいた。

 真夜中だが入国管理の手続きはまだ業務中らしく、


「ふむ。ずいぶん若い商人だな。まぁ、今時珍しくはないか。通ってよし」


 割と簡単な手続きで俺たちは入国することができたのだった。

 当然人通りは少ない。

 屋台も開いておらず、国内は静かだ。


 ブランカは時々立ち止まっては鼻をひくつかせている。

 どうやら匂いで仲間を探し出そうとしているようだが、


「ブランカ、今日は休もう。狼人間を探すのはまた明日だ」


 俺の呼びかけを無視し、ブランカはずんずんと進んで行く。

 

「おい、ブランカ」


「……2人は宿でも見つけて休んでて。私はいいから……」


 短くそう返事をすると、ブランカは地面を蹴り建物の屋根へと跳躍した。

 そして、そのまま屋根伝いに夜の闇へと姿を消してしまったのだ。


 残された形となった俺へとドリアが手を繋いでくる。


「ナイト。大丈夫か?」


 そう呼びかけてくるドリアの手を俺は握った。 

 

「……あぁ。ありがとうドリア」


「気にするなよ! わんわんもちょっと頭に血が上っているだけだって! 明日の朝になれば、戻ってくる!」


「そうだな……宿を探すか……」


 夜の街を歩き回り、日付が変わる頃に俺とドリアは宿を見つけ眠りについた。

 そして、翌朝。

 ブランカは戻ってこなかった。





 

 朝食を済ませた俺たちは宿を出て通りを歩いていた。

 魔法道具店に魔石を1つ売り路銀を得ると、


「さて。商売するどころじゃないな」


 俺たちはブランカを探すために国内を歩き回ったのだった。


 この国は『鋼の国』と呼ばれているそうだ。

 国の南側へ行ってみると、南方からきた商人と職人達によって市場となっている。

 この国は製鉄業が発展していて、商人達はこぞって鍋や包丁などの道具を国の職人達から購入していた。

 近くにいた国民に話を聞くと、


「『鋼の国』の武器職人は西岸地方で一番の腕前だと評判なんだ。この国の特産品は甲冑や剣だよ」


 ということらしい。


 市場ということでひょっとしたら例の魔物達が売買されているのではと思ったが、


「うーん。違うみたいだな」


 その予想は外れだった。せいぜい解体された肉が売られている程度。

 もちろん魔物ではなく、普通の豚肉だ。


「そもそも騎士が商人から魔物を買うっていうのも変な話だよな。武器職人とか、解体職人が買うっていうのなら分かるんだけど」


 騎士は国を守る存在だ。

 他国の騎士と戦うこともあるし、魔物を討伐することもある。

 いわば魔物ともっとも敵対している職種なはず。

 そんな騎士が魔物を買うとはどういうことか。


 俺は『魔物図鑑』を取り出しブランカのページを開いた。

 『状態』の項目を読むに空腹ではあるようだが、ブランカは無事のようだ。

 『図鑑に戻す』の項目に指を伸ばしてみたが、


「……いや、やめておこう」


 俺は指を引っ込めると図鑑を消した。


「ナイト、ナイト。なんか皆一斉に小走りし始めたぞ」


 ふとドリアがそんなことを言うので、俺は顔を上げて通りをみた。


 ドリアの言うように買い物を済ませた国民や商人達が同じ方向へと小走りしている。

 男性が多いようだが、女性も数組が楽しそうにどこかへと走り去って行った。


「すいません。皆さんはどこへ行くんですか?」


 俺は一番近くにいた武器職人らしき男へと声をかけた。


「んん? お兄さん旅人さん? 闘技場のことを知らずにこの国に来たの?」


「闘技場? ええ、初耳です」


「おいおい。そりゃあないぜ。この国一番の名所だ。何だったら案内してやろうか?」





 武器職人に案内されたのは円形の建物だった。

 入り口で金を払い入場すると、建物内部は半球状の檻を中心にすり鉢状になっている。

 俺は武器職人に連れられ、指定された席へと座った。


「あの中央の檻の中で誰かが戦うんですね」


 俺の言葉に、


「そりゃあ闘技場だからな。ただ、他所の国では絶対にないマッチングの戦いが観られるのがこの国の闘技場よ。そろそろ始まるぜ」


 男の言うようにラッパの音ととも観客から歓声が上がった。

 それと共に、檻の中へと2人の男が登場する。

 どちらも剣と盾を持ち、中央で彼らは向かい合った。


 鐘の音と共に戦いが始まった。

 よくみると男達は防具を身につけていない。

 斬り合いと盾での防ぎ合いが続き、やがて片方の首が切られたところで戦いは終わった。


 大歓声と共に生き残った男が手をあげる。


「いやぁ。面白い。あの2人は死刑囚でさ。生き残った方が減刑されることになってるんだ。ちなみにこの戦いは賭けの対象でもあってよ。俺は賭けにかった。にひひひっ。儲かった儲かった」


 嬉しそうにはしゃぐ武器職人に対し、俺もドリアも無言だ。

 

「ここの闘技場では殺しもありなんですね」


「ん? あぁ、お兄さんの国じゃあこういう刺激的なものはないか。それだとちょっとびっくりするかもな。俺も最初観たときは驚いたもんだよ。でもすぐに慣れるさ。お嬢ちゃんも人生経験だと思ってじっくり観ておきなよ」


「……確かに珍しいですね」


 俺の言葉に武器職人は首を横に振った。


「いやいや、本番はこれからだぜ。ほら、次の試合だ」


 武器職人が指差す場所。

 檻の舞台裏から現れたのは甲冑に身を包んだ屈強そうな男だ。

 そしてーーその男の反対側から登場してたのは、牛の頭部を持った異形の生き物だった。


「人間対魔物。この対決を観られるのがこの闘技場の醍醐味よ」


 武器職人は自慢げに笑みを見せるのだった。

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