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59 同族への思い

 人の気配がするというブランカの言葉を受け、俺は素早く『魔物図鑑』を操作した。

 湖畔に呼び出していた魔物全てを図鑑へと回収。

 残っているのはブランカとドリアだけ。


 ブランカはフードを被り、ドリアは羽を消しそれぞれ人へと変装する。

 2人が準備をする間に、俺は調理器具や寝袋などを魔法鞄にしまい込んだ。

 俺たちは湖畔を離れ、低木の茂みへと身を潜める。


「ブランカ。気配ってのはどんな感じのものなんだ?」


「うー。人間6人くらいの気配だよ。足音の感じからして多分オスだね。それと荷車を引く音と、ガチャガチャ金属がぶつかる音がする。うーん、何となく剣とか甲冑っぽい音かな? 湖に近づいているよ」


 ブランカの言うように、しばらくすると気配の主であろう男たちが現れた。

 人数は6人。

 全員が腰に剣を装備している。

 男達は人相が悪く、いかにも荒くれ者といった雰囲気だ。


「うへぇ。5日ぶりに見た人間があんなむさ苦しいおっさん達かよ」


「うー、魔法陣使いの仲間かな?」


「あっ、後ろになんかいるぞ」


 ドリアの指摘するように男達の後ろには何か箱状のものが置かれていた。


「うーん。俺にはよく見えないな。ブランカなら見えるか?」


「うん。荷車が3台あるよ。どれも人間が2人くらい入れそうな箱が積まれてる。荷車を引いているのは馬だね。あと積まれている箱が揺れているから多分生き物が中に入っているんだと思うよ」


 男達は湖畔にテントを張り始めた。どうやらここで野営するつもりらしい。

 火を起こした連中は簡単な調理を済ませると、食事をとり始めた。


「むわぁ、これってお肉の匂いじゃん!」


「むー、あたい達の方が先に準備してたのに!」


 ブランカは風に乗って漂う牛肉の匂いに悶えている。

 その横でドリアが場所を取られ不満そうに口を尖らせていた。


「ブランカ。おっさん達の会話だけど、この距離でも聞こえるか?」


 俺たちと男達の間は約200メートルほど。

 ブランカは楽勝、と答えると俺たちに聞こえてきた内容を伝えてくれた。

 それによると、どうやら男達はこの先にある国へ商売をしに来たようだった。


「商売ってことは、あの荷車の中身が商品なんだね。何を売るのかな?」


 ブランカが首を傾げるが俺に分かるはずもない。

 少なくともこれで近くに国があることは判明した。

 男達が魔法陣使いの放った追っ手である可能性も低い気がする。


 緊張を解き、俺が深呼吸をしていると、


「あっ。男の1人が荷物に向かうよ。商品を確認しようとか男達が言ってる」


 ブランカが言うように、男の1人が重そうに積み荷を湖畔へと降ろしているのが見える。

 その箱は布で包まれていて、男の1人がその布を取り払った。


 箱だと俺たちが思っていたのは檻だった。

 遠目でも頑丈だと分かる鉄製の檻。

 3つの檻が順番に布を払われ、その中に閉じ込めていた生き物達の姿が露わになった。

 

 最初に見えたのはワイルドボア(大猪)だった。

 俺が従えている個体よりも小さくまだ若い個体らしい。

 薬か魔法によって眠らされているのか、全く動かない。


 次に見えたのは鳥の魔物だった。

 紐で縛られたその魔物の大きさは鶏を二周りほど大きくした程度。

 長い3本の尾羽以外は特に目立った特徴はない。

 色合いも地味な茶色で何とも印象に残りにくい魔物だ。


 そして、3つ目の檻。その中にいたのはーー


「あれって……狼人間⁉︎」


 驚く俺の視線の先ーー檻の中にいたのは真っ黒な体毛に覆われた人型の魔物。

 身長はおそらく2メートルほど。

 尻尾と狼の頭部をもつその姿はまさしく異形だ。

 

 閉じ込められた狼人間は脱出しようと檻へと体当たりをしたが、無様に転んでしまう。

 動きを見るにどうやら手足を拘束されているらしい。

 うなり声も聞こえないので、口枷もされているようだった。

 無様な狼人間をを見て男達は大笑いだ。

 

「ブランカ……動くな」


 横で拳を握るブランカへと俺は命じた。

 『魔物図鑑』の主である俺の命令は絶対だ。

 かつてないほど怒りの形相を見せるブランカだが、その動きは俺の命令によって制限されている。


「ナイト……放してよ……あいつら、ぶっ飛ばしてやる……」


「ダメだ。今は我慢しろ」


 ーー同族が理不尽に晒されているんだ。怒るのも無理ない。


 ブランカに同情しつつ、俺は男達を観察し続けた。


 商品が魔物というのは別に珍しいことではない。

 強力な魔物ほど、その体から得られる素材は価値が高い。

 昔から人間は魔物達を恐れつつも、その利用価値を研究し様々な道具も編み出してきたのだ。


 必然、魔物を売買する商売も生まれるわけだが、それなりの危険性と強さをもつ狼人間やワイルドボアを商品にするというのは初耳だ。しかも生きた状態とは珍しい。

 

 その入手難度の割にこの2種は食材としても素材としての価値も低い。

 普通なら商品にしようとは考えない魔物だろう。


 ーーこんな魔物を買うかもしれない国って、どんな国なんだ?


 疑問を感じつつ、俺は『魔物図鑑』を開いた。

 


『種族名 狼人間

 危険性 やや低〜中


 狼の頭部と尻尾を持つ人型の魔物。獣性が高く、理性を保っている個体は皆無。

 一定量の魔力が溜まると人間を噛む行動をとる。噛まれた人間は狼人間と化し、その際に注入された魔力量に応じ変貌具合が変わる。常に狼人間の姿を維持する個体もいれば、満月の夜のみ狼人間と化す個体もいるのはこのためである。

 寿命は短く、狼人間に噛まれると平均で5年以内に死亡する。

 特別な魔力は持たないが、高い身体能力が脅威となる。

 その一方で銀に弱く個体によっては銀ナイフの一太刀で死亡する。

 

 捕獲条件 気絶させる

 状態   衰弱中(銀を投与されているため)』




 記述内容は概ね俺が知っている狼人間の情報に合致していた。

 危険性が『やや低〜中』というのはワイルドボアやエメラルドフロッグ(宝石蛙)と同ランクだ。

 人間に捕まっている点を考えると、囚われている個体は『やや低い』の危険性なのかもしれない。


 読み進めるごとにブランカと通常の狼人間はまるで違う魔物という印象が増してきた。

 姿はもちろん、ブランカは理性もあるし、寿命も200年生きている。

 危険性だって全然違う。

 

 ーーそう言えばブランカの危険性ってどれくらいだったっけ?


 俺はブランカのページーー『狼人間(純血)』を開いてみた。



『危険性  極高以上(遭遇した場合、退避を推奨)』

 


 ドリアとの初邂逅時に見せたクレーターを発生させるパンチや、極高と評されるヴェノマム(惨毒蛇)を圧倒したあの戦いを思い出せば納得の危険性評価だろう。

 

 純血というだけで危険性が『やや低〜中』からここまで上がるものだろうか、と首を傾げたが俺は目の前の状況へと意識を戻した。


 男達はその後も魔物に向けて石や湖の水を投げつけていた。

 人型だからなのか、狼人間は男達から特に狙われている。

 銀による衰弱のため、狼人間の抵抗は時間とともに弱くなっていた。


 正直なところ男達の所業は見ていて不愉快。

 気づくと俺も拳を握り、歯を食いしばっていた。

 ブランカはもちろん、ドリアの顔つきも険しくなっている。

 ブランカに至っては目に涙を溜め、必死に俺の命令に逆らおうと呻いていた。


「ブランカ落ち着け。そのうち男達が寝るはずだ。そしたらあの狼人間を助けてやろう」


 今のブランカを自由にさせたら男達は間違いなく殺されるだろう。

 ここは国に近い場所らしいし、万が一目撃者がいたら厄介だ。

 そうでなくとも、俺の人としての感覚が殺人を躊躇わせている。

 

 怒りに染まったブランカが男達に加減できるとは思えない。

 酷なようだが、ここはちょっと我慢させるしかない。


 一方で俺はもし狼人間が死にそうならば、男達を皆殺しにしてでも救出するべきとも考えていた。


 ーー殺人はしたくないが、狼人間が死ぬほうが嫌だ。ギリギリまで我慢してやるが、もし狼人間が死にそうになったら、男達を殺すのも仕方ない。


 魔法陣使いが俺のことを『考え方が魔物寄り』と評していたことを思い出すが、確かにそうかもしれない。

 俺は今、人間の命より最終的には魔物の命を優先する考えを抱いている。

 ブランカが同族を虐げる男達へ怒りを向けるのとは対局的だ。


 そんな自分に驚きながらも俺は男達を観察し続ける。

 

 すると男達のいる場所へ、何と別の集団が森の中から姿を表し近づいてきた。


 現れたのは甲冑に身を包んだ騎士風の男達だった。

 商人達に驚いた様子はなく、むしろ待っていたとばかりに歓迎している。

 握手を交わし、魔物達を騎士達へ見せる商人。

 その様子は市場での接客だ。


「あの騎士達が取引相手か」


 騎士の1人が大きな袋を商人へと渡した。どうやら金銭が入っているらしい。

 騎士達は檻へ布をかけ、荷車へ積むとそのまま森の方へと運んで行ってしまった。


「しまった。ここが取引現場だったのか。あの騎士達が狼人間を国へ運んじまう」


 商人はともかく、国の騎士となると簡単に殺すわけにもいかない。

 下手をすれば国を敵に回すことになる。

 

 こうなっては追跡しつつ、穏便に狼人間を救出するチャンスを待つしかない。

 俺はブランカとドリアを引き連れ、騎士達を追跡し始めた。


 図鑑を見ながら俺は狼人間の容体を確認する。

 衰弱はしているがまだ大丈夫だ。魔物ならば、俺の図鑑で癒せるだろう。


 すると図鑑が勝手にめくられ鳥の魔物のページが開かれた。

 そう言えば鳥の魔物のことを忘れていた。

 追跡しながら俺は図鑑の記述を読んだ。


『種族名:マルフェザー(極彩鳥)

 危険性:低 

 希少性:極高(個体数が少なく、能力によって発見が困難なため)

 

 環境に合わせて羽毛の色を変えることのできる鳥形魔物。

 保護色によって発見は難しいが、飛行が下手なため網があれば簡単に捕獲できる。

 聖獣フェニックス(不死鳥)の幼体でもある』

 

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