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54 上陸と確認

 海岸まで100メートルという距離まで辿り着いた俺たちは、


「じゃあ、頼むぜ!」


 ホーンホエール(角鯨)の浮遊魔法によって海岸まで空中を移動していた。

 

 巨体ゆえにホーンホエールは浅瀬を泳げない。

 接岸できないが故の上陸方法だった。


 無事浜辺へと降り立った俺は『魔物図鑑』の中へとホーンホエールを収容する。


「おっしゃあ! 無事生還したぞ!」


「うー。地面を歩けるのがこんなに嬉しいなんて!」


「これで植物が使える!」


 抱き合いながら思い思いに生還の喜びを俺たちは噛み締めた。

 そして早速人里目指して歩き始めようとしたがーー


「まずは身支度だな」

 

 と思い直した。

 

 ブランカはフードを被り、ドリアは羽を消してそれぞれ人に変装する。

 俺の水浴びと洗濯だ。

 そしてーー


「頼むぜぇ。エメラルドフロッグ(宝石蛙)」


「うー、お願い。いい宝石出してね。私そろそろ焼いた牛肉が食べたいの」


「エメちゃん頑張って〜あたいが応援してるぞぉ」


 浜辺に召喚されたエメラルドフロッグへと俺たち3人は手を合わせて念じていた。

 エメラルドフロッグの前には海岸近くの林で獲れた鳥が10羽ほど供えられている。


 べろりと舌を伸ばし鳥を頬張るエメラルドフロッグ。

 ゲコゲコと満足そうに鳴いたエメラルドフロッグは突然ピタリと動きを止めた。


 俺たちも石のように動きを止め、しばし沈黙が辺りを包んだ。


 やがて、ぶるりと体を震わせたエメラルドフロッグの額から落ちたのはーー


「おおおおっ! 宝石が5個出てきた! これってルビーか? こっちはサファイヤ?」


「ありがとうエメちゃん! これで宴会決定ね!」


「偉いぞエメちゃん。今度あたいがブラッシングしてやるからな!」


 いつもの金策儀式を終え、俺たちは人里へ向かうのだった。






 海岸を歩いた先には大きな岬があり、その裏側に漁港が広がっていた。

 大小様々な木造船が並ぶ大きな港。

 その港に隣接して家々が立ち並び、賑わいを見せている。


 様々な海産物が荷車に乗せられ運ばれる様があちこちで見られた。

 市場では競りが行われていて、大声に満ちている。


「すごい活気だな。男も女もみんな筋骨隆々だ。この人たち全員漁師か?」


「うー。なんかいい匂いがあちこちからする。これは魚の匂いね。ん? こっちはエビかな?」


「海藻ってあたいの能力効くのかな?」


 漁港を通り抜け、俺たちは陸地側の通りを進んで行く。


「ん?」


「うー、どうしたのナイト?」


「……いや、なんでもない」


 海に近いだけあり通りに並ぶ食事処は海産物を扱うお店がほとんどだ。

 その様子にブランカは露骨に落ち込んでいる。


「だ、大丈夫だって。1軒くらい牛肉を扱ってる店はあるって」


 宝石を無事売り払い、俺はブランカを慰めながら店を探した。

 色々な人に話を聴きながら、ようやく牛肉を提供する店を見つけると、


「「「乾杯!」」」


 俺たち3人はささやかに宴を始めたのだった。

 2キロ近い牛肉を前にブランカは目を輝かせている。

 俺とブランカの前には大きなグラスが置かれ、


「一度飲んでみたかったんだよな」


 ブグブグと泡を立てた飲み物が注がれていた。


「これ何なの? 変わった匂いね」


 注がれた飲み物へとブランカが鼻を近づける。

 ドリアも興味津々らしくストロー状の植物を使って味見をしようとしていた。


 俺はドリアの手を払うと、


「これは酒だよ。この『潮風の国』だと16歳で成人らしいから俺も飲酒できるってわけ。石畳の国じゃあ19歳が成人だったからなぁ。1年早く飲めるってのは何か得した気分。ドリアは外見的に注意されそうだから飲むなよ」


「うー、これがお酒かぁ。人間が飲んで騒いでいるの見たことある」


「よーし。飲むぞ食うぞ!」


 俺とブランカはグラスを手に取ると、恐る恐る酒を飲み始めた。


「「むわぁああ、苦い」」


 顔をしかめ悶える俺たちを周囲の大人たちが半笑いの表情で見ていた。






「さて、そろそろ真面目になるか」


 食事を食べ終えた俺はテーブルの上へと地図を広げた。

 牛肉を頬張っていたブランカも、一度手を止め地図を眺める。俺は地図の左端を指さすと、


「店員さんが貸してくれた地図だ。俺たちがいるのはここ。『潮風の国』。予想通り西岸地方の海沿いの国だった。そして、この前俺たちがいた場所はここ」


 俺は地図の中央ーー大山脈よりやや左寄りの場所を指差した。


「ここが『風車の国』だ。この『潮風の国』からだと歩いて3ヶ月くらいかかるだろうな。とんでもない移動距離だよ。あの魔法陣使いめ」


「うー。この距離をナイトは一瞬で飛ばされたわけね」


「あぁ。ついでに言うと『魔物図鑑』の『図鑑に戻す』効果範囲も同じ程度あるみたいだ。それが分かったのは1つの収穫かな」

 

 それでだ、と俺は続けた。


「ドラゴンを仲間にするとなると、当然大山脈を目指すことになる。つまり、直線距離を進めばもう一度『風車の国』に向かうことになるんだよな。でも戦力増強がドラゴンを目指す目的なわけだし、わざわざこっちから魔法陣使いにケンカを売るようなルートは選ぶ必要ないと思うんだ。だから北か南に迂回することになると思う」


 地図によると『風車の国』の南北にはそれぞれ『水路の国』や『火薬の国』など大小様々な国が乱立している地帯のようだった。


「西岸地方の中央地帯における人間の拠点。それが『風車の国』を含むここら一帯らしい。この『水路の国』は位置的に多分あの土魔法使いのおっさんが住んでた国だと思うんだよ」


「あの水害に見舞われてた国か。何だか懐かしいね」


「そうだな。南北どちらに行くかはまだ決めてない。『魔物図鑑』を考えると北側の方が都合がいいような気はするんだけどな」


「うー、何で?」


「東岸地方も西岸地方も大雑把に言うと、南側が人間の生活圏で、北側が魔物の生活圏なんだよ。理由は簡単。『竜のわだち』ていう大陸の南側にある交易路の存在だ。東西の行き来が盛んだから南部の地域は人間の生活が豊かで、武力や魔法使いも充実いているから魔物が繁栄しにくい。南部が発展している分、北側はそもそも人間が住まないから魔物が繁栄しているんだ」


 説明をしながら俺はあらためて自分たちが通ってきた大山脈地下のルートを思い返した。

 もしもあのルートが人間によって整備された場合、大陸内のパワーバランスを崩壊させるような事態を引き起こしていただろう。

 まさしく大発見のルートだったのだ。


「とりあえず今は『潮風の国』で旅支度をしよう。目指すは大山脈。南北のどちらに行くかは道中に情報を集めながら考えよう。今の所は北側が有力候補だな。まずは宿を探して、それから物資を調達するぞ。エメラルドフロッグにばかり頼っていられないからな。肉喰ったら行動開始だ」


 説明を終えた俺はちらりとドリアを見た。

 砂糖水をたらふく飲んだ妖精は、


「うぃ〜もう飲めましぇん」


 よだれを垂らしながらテーブルへ突っ伏し寝言を言っていた。


「その前にこいつを叩き起こそう」





 宿を見つけた俺たちは市場で物資を調達すると漁港横の海岸へとやってきていた。

 太陽はとっくに沈んでいるのだが、漁港の灯りはまだ煌々としているおかげで海岸の様子は十分に見える。

 夕食時ということもあって、海岸には誰もいない。

 俺にとって都合がよかった。


「うー。ナイトったらこんな場所で何するの? 買い物は終わったんでしょ?」


「あたいそろそろ寝たいよ」


 疑問に首をかしげる魔物2人に対し、俺は『魔物図鑑』を取り出すと、


「ちょっと実験をしようと思うんだよ。ほら『風車の国』から岩場までブランカたちを図鑑の力で回収できただろ? それなら逆も出来るんじゃないかと思ってさ」


 そう言って俺はワイルドボア(大猪)のページを開くと、


「召喚。ワイルドボア」


 いつも通りにワイルドボアを呼び出した。

 しかし、ワイルドボアの姿は海岸にはいない。


「あっ」

 

 気付いたのはブランカだった。

 ブランカが指さす方向ーー海岸のはるか先にある灯台の近く。そこにワイルドボアは召喚されていた。


 図鑑を再び操作すると、ワイルドボアの姿が消える。


「どうやら俺が知覚できる範囲なら離れた場所にも召喚が出来るみたいだ。これは使えるかもしれない」


「うー。なるほど。じゃあ、実験はこれで終わりね。早く宿に帰って寝ようよ。私も眠くなってきた」


 ブランカとドリアが同時に欠伸をしてみせる。

 昼まで寝ていたというのに、よほど腹が満ちたらしい。

 だが、俺はそんなブランカの意見を拒否した。


「いや。まだ試したいことがあるんだ。それに、()()も来たみたいだしな」


 俺の言葉にブランカとドリアが振り返る。

 

 人気のなくなった海岸へと姿を表す1つの影。

 のそのそと歩くその影は俺たちに向かって近づいてくるのだった。 

 

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