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53 七色の探索隊

 ーーナイト達が陸地へたどり着こうとしていたのと同じ頃。


 東岸地方のとある小国の旅館。

 その食堂には7人の男女が集っていた。


 一流の冒険者であることを裏付ける上等な装備に身を包んだ7人。

 周囲から羨望の眼差しを浴びながら、7人とも気にすることなく朝食を摂り続けていた。


 ただ、その表情は一様に疲れているように見える。

 食事中の会話は調味料の貸し借りを求める事務的で短い言葉ばかり。

 女性達ですら、喋ることなく黙々と食事を進めていた。


 食後のコーヒーが運ばれたころになって、ようやく7人の表情が緩む。

 

「やれやれ。まるで葬式だね」


 端正な顔立ちの青年が声をかけると、他の6人が小さく笑った。

 青年の言葉に7人の中で一番大きな男が口を開く。


「無理もない。もう1週間経過するっていうのに、狼人間もナイトって野郎の足取りも掴めないんだからよ」


 金髪の女も大男の言葉に頷きながら、


「はぁ。あたしたちがパーティーを結成して以来、ここまで成果のない1週間ってあったかしら?」


 ため息とともにコーヒーをすすった。


 1週間ほど前。

 『麦の国』を出国した彼ら『七色の風』は周辺の森や岩石地帯を捜索したのちに、3グループに別れて行動していた。各々各地を調査し、標的の足取りを調べる。

 そして今朝が集合の待ち合わせ時間。

 

 リーダーと神官の女がこの宿へ到着したことで、久しぶりの7人での食事となったのだった。


「最後の目撃証言は盗賊団に襲撃された商人から。それ以降、一切情報がない。これはなんと言うか奇妙ですよね」


 眼鏡をかけた魔法使いの男が首を傾げる。


「僕とマリンさんの魔力探知にも反応がないですし、痕跡すらない。まるで空間移動でもしたかのような現象ですよ」

 

 男の言葉を最後に再び7人の間に沈黙が流れる。

 

 大男の視線はリーダーである青年へと向けられていた。

 7人の中でもっとも疲労の色が少ないその様子に、大男は何かを察したらしい。

 コーヒーカップを置くと、


「おい、ロード。何を考えているんだ? もしかしてまた例の与太話か?」


「ん? まぁね」


 ロードと呼ばれた青年はコーヒーを啜ると、少し長めに息を吐き、


「商人たちの間で噂されている『大山脈を超えるルート』。おそらくはナイトくんも耳にしているはずだ。俺たちに目をつけられたと彼が警戒していたのなら、そのルートはかなり魅力的に感じたんじゃないだろうか?」


「だからそのルートを使って西岸地方に逃げたんじゃないか。俺たちが連中の痕跡を見失ったのはそのためだと言いたいわけか?」


 大男の声音に若干の苛立ちが含まれているようだ。

 他のメンバーが背筋を伸ばし、緊張した様子でリーダーと大男へと注意を向けている。


「なぁ、ロードよ。お前だって十分理解しているはずだ。大山脈を超えるってことはドラゴンたちに喧嘩を売るってことだ。人間どころか魔物だってそんな無茶をしようなんて思わないだろうぜ。少しでも知識があるのなら、それがどれほど無謀なことか分かるはずだ。ナイトって野郎もそこまで愚かではないだろうぜ」


「そうだね。それはそうだと思うよ。だが、現実として俺たちはナイトくん達の足跡すら見つけることが出来ない」


「俺らの想像を超えた速さで南下しているんだろうよ。あの狼人間なら人1人おぶっても超高速で移動するだろう。ロード、俺たちがするべきことは一刻も早く『竜のわだち』へ向かい、検問を依頼することだ。もうこの周辺を捜索することじゃない。ましてそんな与太話を信じて引き返すなんて愚策だと思うぞ」


「『竜のわだち』に検問の依頼をするってことは、ベルデはナイトくん達が西岸地方に向かったと考えているわけかい?」


 ベルデと呼ばれた大男が頷く。


「俺たちに目をつけられた連中は大抵西岸へ逃げようとする。だから東西を繋ぐ貿易路である『竜のわだち』を押さえておくのが重要なんだ。今までだって犯罪者はその手で追い詰めたじゃないか。どうして今回はそうしないんだ」


 大男は続ける。


「だいたいそのルートの件なら商人から話を聞いた翌日に調べたじゃないか。結局ルートどころか盗賊団すら見つからなかった。多分、商人たちの作り話だったんだよ…………ちょっと待て。おい、ロード。まさかこの1週間、俺たちに『麦の国』周辺を調査させたのは、実のところそのルートを調べたいって考えがあったからじゃないか? 『竜のわだち』まで行ったら引き返すのが手間だから、時間稼ぎしてたんじゃないか?」


 大男がリーダーを睨みつける。

 大抵の人間なら失禁してしまうそうな強面だが、リーダーは特に恐れる様子もなく、


「そうだよ」


 のんびりと落ち着いた口調でそう言うのだった。


「そうだよってお前」


 大男は口元を歪め呟いた。


「ちょっとベルデ。成果がでなくてイライラするのは分かるけど、ロードにあたらないでよ。他の皆だって最年長のあんたにそんな態度されたら萎縮するじゃない」


 金髪女にそう(たしな)められ大男はようやく我に返ったようだ。

 自分を心配そうにみる若手4人の姿を見て、


「すまない。つい、苛立っちまった。申し訳ない……」


 すんなりと頭を下げた。

 

「でもロード。私も正直ベルデの言うことがもっともだと思うわ。こうしている間にも『竜のわだち』に狼人間は向かっているかも。西岸に逃げられたら簡単には追えない。彼らが『竜のわだち』を突破する前に私たちも出発するべきよ」


 金髪女の言葉を受け、6人がリーダーへと注目した。

 

「ベルデの言うように皆に調査してもらっている間に、俺とヴィオでそのルートを再度探していたんだよ」


 リーダーの言葉に一同が驚きの声をあげた。ヴィオと呼ばれた神官の女にも注目が集まる。


「私たちはそのルートを見つけましたわ」


 神官の言葉に他の5人が目を見開いた。


「私たちが以前探した時は見落としていましたが、大山脈の麓に洞窟がありました。内部には人が住んでいた痕跡があり、最近になってついたと思われる戦闘の痕跡も見つかりました。それにーー」


 そう説明しながら神官は持っていた鞄の中から折りたたまれた紙を取り出すと、紙を広げ中に入っていた数本の毛を取り出した。


「洞窟の中で見つけたものです。ホアンさんたちの魔法で調べてもらえば、多分あの狼人間の毛だと判明すると思います」


 毛を受け取った眼鏡の魔法使いが何やら呪文のようなものを唱えて調べだした。やがてーー


「間違いない。あの狼人間の毛です。以前採取したサンプルと同じ反応がある」


 沈黙が7人を包んだ。

 やがて口を開いたのは大男だった。


「洞窟か……確かに地下ならドラゴン達の警戒を突破できるかもしれない。ロード、洞窟の奥は調べたのか?」


「あぁ、かなり複雑な洞窟だった。ヴィオの力がなければ確実に迷っただろうね。2日かけて内部を調べて狼人間の体毛も数カ所で見つけた。ただ、大雨の為なのか途中から洞窟は水没していてね。それ以上先には進めなかった」


「ロードも人が悪いぜ。先に言ってくれりゃ良かったのに」

 

「悪かったよ」


 大男は呆れ顔だが、重苦しい雰囲気が消えている。他のメンバーも表情を和らげ笑みが出ていた。


「でもそうなると狼人間とナイトって野郎は西岸地方にもういるってことじゃ?」


 背中に弓矢を背負った男がリーダーへと問いかける。


「俺はそう思っている。洞窟内で迷って死んだ可能性もあるけど、仮にもナイトくんは『宝具持ち』だしに狼人間だっているからね。無事に西岸へ着いたんじゃないかな。昔、東岸から西岸へと逃げ切った宝具持ちの例もあるしね」


「へぇ。そんな奴がいたんですかい?」


「あぁ、俺も聞いた話だけどね。指名手配されていた女の宝具使いだそうだ。とにかくーー」


 リーダーは続けた。


「俺たちがやるべきことは西岸地方へ行くことだ。その為にも現在受けている主な東岸での仕事を片付ける。終わり次第、俺たちも西岸地方へ行こう。洞窟の水もその間に引くだろうから洞窟ルートが使えないか試してみよう思う。絶対にあの狼人間を逃すわけにはいかない。あれほど貴重かつ強力な魔石の持ち主はいないからね。必ず仕留めるよ」


 リーダーの言葉に他の6人は力強く頷いたのだった。

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