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50 大海原での戦い

 俺たちの船を旋回するホーンホエール。

 電撃を二度防がれたことで警戒を強めたらしく、なかなか俺たちとの距離を詰めてこない。

 その間に俺はブランカとドリアへと作戦を伝える。


 『角に触る』という一見すると簡単そうな条件だが、実行しようと思うと中々厳しい状況と言える。


 最大の問題は足場だ。

 俺たちの船とホーンホエールの間は100メートルほど距離がある。

 普通ならブランカの脚力で楽々飛び越えられる距離。

 だが、この真夜中の嵐の中で実行できるかと言われれば無理だろう。


 跳んでいる最中に風に煽られれば海へ落下してしまう。

 まして着地しようとしている場所は動いている魔物の上だ。

 運良く風に煽られなくとも、ホーンホエールに回避されれば海へ真っ逆さま。


 海洋魔物がひしめくこの海に落下する危険性は考えるまでもない。


 よって出来るだけホーンホエールに接近する必要があるが、丸木舟の機動力は浸水によって弱まっている。

 接近する途中でホーンホエールの反撃を受けるのは必至だろう。


 魔法陣によって電撃を防ぐことは出来るが、それだって無限ではない。

 障壁魔法の魔法陣紙は残り5枚。

 紙がなくなればあの電撃を完全に防ぐ手段がなくなる。

 それまでの間に接近しなければならない。


「あっ! 潜った!」


 ドリアが叫んだ。

 ホーンホエールが海中へと姿を消したのだ。


「げっ。やばいな。真下から突き上げられるのは勘弁だぜ」


 顔をしかめながら俺はボヤいたが、その心配は杞憂であった。

 ホーンホエールはすぐに姿を表したのだ。

 俺たちとの距離はそのままに、再び海中から姿を見せた海の王者は勢いよく空中へと跳び上がった。

 

 わずかに差し込む月光に映える銀色の流線形。

 思わず見とれてしまうほど美しく迫力のある姿。

 弧を描きながら跳躍した巨体はやがて勢いよく海中へと落下する。


 凄まじい水飛沫をあげてホーンホエールが着水すると、巨大な波が発生し俺たちの船へと迫ってきた。

 あの波に巻き込まれれば間違いなく船は転覆する。

 俺は障壁魔法陣を使わざるを得なかった。


「今のを連発されるのはマズい。早めに決着をつけるぞ。作戦開始だ」


 俺の言葉を受け、ドリアが飛び上がる。

 これまで歩いて旅をしていたこともあってついつい忘れがちだが、ドリアは飛べるのだ。

 背中から生えた2対の羽。

 それを羽ばたかせながらドリアはホーンホエールへと近づいていく。

 その両手には種ポンポンと名付けたユリに似た植物が握られていた。


 海上ではドリアの能力はうまく使えないらしい。

 植物を生やすための土壌がないからだ。


 現状、ドリアが能力を使うには船を苗床に植物を生やすか、もしくは自分の体を苗床にするしかない。


「ひゅー、あたいの出番だ!」


 元気よく飛んでいくドリア。その体には植物の蔓が巻きついている。

 俺の作戦を聞いたドリアはお腹へと種を仕込み一気に発芽させ、植物を纏っているのだ。


 種ポンポンで攻撃を仕掛けてくるドリアに対しホーンホエールは角を輝かせた。

 空中にいるドリアに津波攻撃は効果がないので、予想通りの電撃攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


「今日こそはあたいが大活躍だもんねぇ!」


 ホーンホエールが電撃を発しようとする前に、ドリアの体に巻きつく蔓から一斉に花が咲き始めた。

 咲き乱れる薔薇の花。

 その花びらがまるで雪のように空中へと散っていく。

 

 放たれた雷撃。

 大型の魔物を消し炭にした裁きの光がドリアへと注がれた。


 轟音と共にドリアのいた場所で火花が起きる。


「むひぃ〜凄い音だなぁ〜」


 耳を塞ぎながらドリアは空中に浮かんでいた。

 生存している。


「上手くいった! これは何て名付けよう。『花びらひらりん』でいいか」


 にんまりと笑うドリアの周囲には雷撃を受け、燃えかすとなった花びらが舞っている。

 ホーンホエールの雷撃は空中に撒き散らされた花びらによって防がれていた。


 ドリアの魔力によって暴風の中でも彼女を囲むように宙を漂う花びらたち。

 花びらには電撃の威力を分散させ、本体であるドリアを守る効果を持っているようだ。

 ドリア流の障壁と言えるだろう。


「うー。ナイトのアドバイスが役に立ってるね。あの子、本当に強くなってる」


 中空で繰り広げられる攻防にブランカは感心したように呟いた。


「けど、あの技は防御に必要な花びらを準備する必要があるみたいだ。一方のホーンホエールは電撃を連発できるし、多分まだ全力で攻撃してないだろう。そのうちに攻撃が通っちまう。俺たちも急ごう」


 俺は魔法鞄から魔法陣紙を取り出すと宙へと放った。

 紙たちは暴風に流されることなく、列を作りながらホーンホエールへと向かっていく。

 やがて描かれた魔法陣が発動し空中へと巨大な槍が出現した。

 『風車の国』の元王子が使っていた攻撃魔法陣だ。


「頼むぞ、ブランカ!」


「任せて!」


 掛け声と共に俺を背負ったブランカが丸木舟から跳び上がった。

 強化魔法による跳躍。

 目指すは空中に出現した槍だ。


 海へと落下する槍たちは数秒間そのまま形を保持している。

 形成する際に調整し、槍の中を空洞にして浮力を持たせていた。


「よっ! はっ! とう!」


 海上に漂う槍を足場にブランカは跳躍する。

 

 ドリアへとホーンホエールの注意を引きつけ、その間に俺たちが接近する。

 作戦としては極めてシンプルだが、大切なのはスピードだ。

 ドリアが耐えている間にケリをつけなければいけない。


 最後の槍を踏みつけ、ブランカが跳ぶ。

 目の前にはホーンホエールの外殻が見えた。


 ブランカの右手がホーンホーエルの外殻の一部を掴んだ。

 場所としてはホーンホエールの左目後方あたり。

 外殻の突起を握り、俺とブランカは宙吊り状態。


 俺は『封魔の鎖』を発動し、ホーンホエールの上部へと鎖を伸ばした。

 鎖の先端が外殻へと刺さり固定される。

 鎖を巻き上げ、俺たちはなんとかホーンホエールの体表へと無事到達した。


 さすがにホーンホエールも異物の存在に気づいたらしく、俺たちを振り払おうと暴れ出す。

 上体を反らせると勢いよく海面へと体を叩きつけ始めたのだ。


「「ぬわあああああああっ!」」


 衝撃に悲鳴をあげながら、俺とブランカは『封魔の鎖』を握り耐えていた。

 鎖を次々に錬成しては打ち込みながら、俺たちはゆっくりと頭頂部へと近づいていく。


 空中からはドリアが植物の種を放ち、ホーンホエールの意識を自分に向けようと動いていた。

 わざと目の前を飛行してみせたりとホーンホエールを挑発するが、


「くそっ! 暴れんなって!」


 俺たち2人の存在が気に入らないらしく、ホーンホエールは暴れ続ける。


「海中に潜られる前に角を!」

 

 俺たち2人の前にホーンホーエルの角が見えてきた。 

 鎖をあちこちに張り、振り落とされないように俺たちはゆっくりと角へと近づいていく。

 すると角が白く輝き始めた。


 すかさず俺は魔法陣紙を取り出したが、その刹那に悪寒を感じた。

 

 頭で考えるよりも先に手の方が動いていた。

 俺は残っていた障壁魔法陣4枚を全て同時起動させる。

 多重に展開される魔法障壁。

 本来ならば透明に近いはずなのだが、4枚も重なると流石に視界が歪んでみえる。

 そしてーー


 これまでとは比べ物にならない衝撃波が魔法障壁へと襲いかかった。

 おそらくは最大出力で放たれた雷魔法の電撃。

 視界が全て白く染まり、障壁の中だというのに鼓膜を超えて脳内まで揺さぶられそうな爆音に包まれる。

 手元の魔法陣紙が次々と完全な白紙になっていった。

 あまりの威力に障壁が突破されつつあるようだ。


「「あああああああああっ!」」


 もう叫ぶしかない。

 俺とブランカは抱き合いながら障壁の耐久力を信じるしかなかった。


 視界が開き、音が止む。


 障壁魔法は消え失せたが、俺たち2人は無事だった。

 ギリギリで電撃を防ぎきったらしい。

 

 いつの間にかブランカが正面から俺をがっしりと抱きしめ、全身を強化魔法で発光させている。

 よく見ると俺の体も光っていた。


「ブランカ。もう大丈夫だ」


 声をかけてやるとブランカが顔を上げた。

 狼耳はぺたんと垂れていて、目にはほんのり涙が浮かんでいる。


「ひょっとして泣いてる?」


「べ、別に。雷なんか平気だもん!」


 慌てて俺の体から離れたブランカは、


「と、とにかく。早く角に触ったら? ほら、えーっと、あれだよ。ホーンホエールも流石に今の攻撃は反動があるみたいだし?」


 顔を赤らめながらホーンホエールを指差した。

 確かにホーンホエールは動きを鈍らせていた。

 暴れることなく、大きく呼吸を繰り返している。


 確かに今がチャンスだろう。

 俺は鎖を解除し、急いで角へと向かった。

 『魔物図鑑』を取り出し、角へと触れようとしたその時。


「ぬわぁ!」


 足元がぐらりと傾く。堪らずバランスを崩し、俺は尻餅をついた。

 ホーンホエールが潜行し始めたのだ。

 

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