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5 その頃 七色の風

 ーー少しだけ時は遡り。


「どうだった?」


「いいえ。見つからないわ」


 石畳で舗装された路地を4人の男女が走っていた。

 今しがた合流したばかりの4人は走りながら報告を交わしている。

 いずれも美男美女。そして身に纏う装備は一般人のものではなかった。


「3チームに別れて探しているというのに未だに見つからないなんて。しぶとい魔物ね」


 金髪の美女が後方を走りながら忌々しそうにを呟いた。

 

「すまないな、ララ。俺たちの到着が遅れたばかりに」


「別にロードを責めているわけじゃないわ。あの場合は逃してしまった私に非があるだろうし」


 ララと呼ばれた美女が先頭を走る青年へと慌てて言葉を返した。

 

「全く狼人間の討伐なんてすぐに終わる仕事だと思ったのに。まさか私たちがひと月かけてまだ達成できていないなんて」


 金髪美女の嘆きに2人の間を並んで走る男女が同意するように頷いた。


「確かに。僕らがここまで手こずるなんて思いもしなかった。あげくこんな穏やかな国に逃してしまうなんて」


「悔しいですわ」


 眼鏡の男と祭服を纏った美女もぼやく。


「一度全員と合流だ。おのおの持ち寄った情報を出し合い今度は別チームを組んで奴を追跡する。いいね?」


「「「了解!」」」


 リーダーらしき青年の言葉に3人が同意する。4人は路地を抜け大通りへと抜けた。

 深夜帯にも関わらずそれなりに通行人がいるのはこの国が安定している証拠と言えるだろう。

 4人の姿を見て声援を送る人々も何人かいた。

 

 慣れているのか4人は通行人へと手を振りながらスピードを落とすことなく走り抜ける。

 やがて彼らが辿り着いたのは大通りに設置された噴水の前。

 そこには4人と似たような雰囲気を纏った3人の男女がいた。


「待たせたねベルデ」


「気にするなロード。俺たちも今しがたここへ来たところだ」


 3人の中ーーというより7人の中でもっとも背が高い男がリーダーの言葉に応じた。

 大男の両脇には、それぞれ紺色のローブを纏った美女と緑色の服を来た青年が立っている。


「俺たちの方は収穫なしだ。目撃情報すらない。ロード、お前の方は?」


「追跡をしている途中で血痕を見つけた。宿屋が集まる区域だ」


「だが見つけられなかったと?」


「残念だがね。一応それぞれの宿屋を見て来たが、荒らされている様子もなく平穏だった」


 そうか、と大男が厳しい顔つきをしてみせる。


「アズ。君の放った矢は確かに狼人間に当たったんだね?」


「ああ。間違いない。ベルデの旦那も確認した。いつも通り魔物の魔力を乱す術もかけてある」


 リーダーに呼びかけられた緑の服の男がしっかりとした口調で受け答える。ただその表情は若干暗い。


「どうしたアズ? 気分が悪いのか?」


「いや、大丈夫だロード。それより気になることがある」


「気になること?」


「俺の放った矢は知っての通り魔法の矢だ。この宝具『聖弓ブラマ』から放ったな」


 そう言ってアズと呼ばれた男は背中に納めていた美しい弓を指差した。


「普通の魔法使いが生み出す矢とは違って複数の効果を打ち込んだ対象に与えることができる。今回は魔力を乱す効果に加えて、止血妨害の術もかけた。そしてもう一つ。探知の術もかけた」


「打たれた魔物のおおよその位置を把握出来る効果だね。だからこそ君のいるグループを一番多い3人にした」


 リーダーの言葉に弓使いは頷いた。


「だが、今俺には狼人間の位置が分からない。ロード、おそらくだがあの狼人間は矢を抜いたのだと思う」


「矢を抜いた? しかし、君の放った矢は魔物には抜けないだろ? 触ることが出来ないのだから」


「そうだ。魔物が俺の矢を触ろうとしても空気を掴むように通り抜けて触れないはずなんだ。だから」


「だから?」


「おそらく人間が抜いたと思う」


 弓使いの言葉に他のメンバーが互いに顔を見合わせた。


「それはつまり魔物を助けた人間がいると言いたいわけか、アズ? 信じられん」


「ありえないですわ。正気を疑います」


 大男と祭服姿の女がそれぞれに意見を口にした。

 人と魔物は敵対するもの。これは世界の常識だ。

 それを覆すようなことをしでかした輩がいる。そのことにこの2人は驚きと共に戦慄していた。


「いや、全くありえないってことはないでしょ」


 そう言い出したのは眼鏡の男。一同が彼へと注目すると、


「普通の魔物ならどんな人間だって恐怖と嫌悪感で協力なんてしないと思うよ。でも僕らが追っている狼人間はさ。毛むくじゃらなわけでも、狼の頭をもっているわけでもない。耳と尻尾の存在さえなければ普通の人間と変わらない外見をしているんだ。しかもそれが17、8歳の少女の姿ときてる。こんな夜遅くに矢に射られてフラフラな少女が倒れていたらさ。助けようとする奴がいても変じゃない。場合によっては邪な考えを持つ奴も出てくるかも」


 眼鏡の男の言葉に女性陣の表情が曇る。自分が余計な一言を発してしまったことに気付いた男は、


「いや、あの、そういうこともあるってわけでさ」

 

 愛想笑いでごまかそうとした。


「………………彼か」


 パーティの雰囲気が暗くなったその時、リーダーらしき青年がそう呟いた。

 

「彼? 誰のことだロード」


 反応したのは背の高い男。他のメンバーもロードへと注目する。


「さきほど血痕を見つけたと言ったろ? その時、近くの荷車にもたれて休んでいる18歳くらいの男がいてね。一応彼に狼人間を見ていないか訪ねたんだよ。それらしい少女が路地を走って言ったと答えたから、俺とヴィオはその方向へ探しに行ったんだ」


「そいつがどうかしたのか? もしかしてその男が狼人間を(かくま)ったとでも?」

 

「ないとは言えない。奴があの場所で瀕死状態だったのなら、助けを求められる位置に彼はいたことになる。急いでいたのもあって荷台を確認するのを怠ったのは俺の失態だ」


「気にするなロード。その男の特徴は覚えていないのか?」


「これと言って外見に特徴はなかったな。黒髪の平凡な青年だった。ただ、今思うと年の割に落ち着いているというか、底が知れない不気味さのようなものがあったかもしれない」


「特徴なしか。面倒だな」


「そうでもないさ。彼はこの国の人間でいながら宿を探している魔法使いということは分かってる」


「は? 何でそんなことが言えるんだ?」


 大男の疑問に、ロードは答える。


「いくら触ることが出来ると言ってもだ。宝具から放たれた魔法の矢を抜き取るのは一般人には難しいだろう。俺たちのように宝具を持っているか、でなければ魔法使いであることは間違いない。

 次に彼はこの国の人間だ。『ブラッタ通り』という通りの名を知っていた。旅人や行商人が行くような場所じゃない。この国に住んでいるからこそ知っていたんだ。にも関わらず彼は地図を見ていた。赤丸が書き込まれているのをちらりと見たよ。誰か、この国の地図を持っていないか?」


 金髪の美女がポケットから地図を取り出すと、ロードへと手渡した。


「ふむ。彼と出会った宿屋エリアとは反対側の宿屋エリアに赤丸は付いていたようだ。俺たちが護衛した行商人によって宿屋が一杯だったから別の宿屋を教えて貰った……ってところかな?」


「よく覚えてるな。その地図を見たの一瞬だろ?」


 大男の驚きにロードは微笑み返した。


「さて。件の彼はこの国の住人だ。それなのに国内で宿を探している。これはどういうことだろう?」


 ロードからの問いかけに、


「家がない。もしくは家があってもそこに帰れないからですかね? 家が無いとなると、浮浪者かもしくは職を失った人かな?」


 眼鏡の男が意見を述べた。


「彼の服装は汚れもなく綺麗で、彼自身の血色も健康的だった。少なくとも浮浪者ではないだろうね」


 ロードが続ける。


「魔法使いはそんなに多くない。だいたいは国によってある程度重宝されているはずだ。この『石畳の国』は豊かで安定しているから、彼も魔法使いなら何かしらの形で国、もしくは公的な存在と関係がある可能性が高い。それでいて宿を探す必要のある人物とはどんな存在か?」


 再びロードから出された問いかけにすぐに答えるものはいない。

 やはあって口を開いたのはまたしても眼鏡の男だった。


「国や公的機関から追い出された魔法使い……かな? 寮や借家で生活していたなら住む場所から退去することになるだろうし」


「多分ね。ララ。ホアン。君ら2人は国に掛け合って条件に合いそうな魔法使いがいないか調べてくれ。年齢から考えて学生である可能性もある。頼んだよ」


「「了解!」」


 金髪美女と眼鏡男がリーダーの指示を受け夜の街を走り去った。


「ベルデ。マリン。君らは西側の宿屋エリアを捜索してくれ。狼人間を(かくま)ったまま宿を利用できるとは思えないけど、念のために調べて欲しい。ターゲットを見つけた場合、マリンの魔法で僕らに知らせろ。可能なら気づかれずに追跡。やむなく戦闘になった場合は合流するまではベルデが接近戦で奴を抑え、マリンは逃さないように中距離攻撃で牽制しろ。あくまでも逃さないことを重点に動いてくれ。仕留めるのは5人以上合流してからだ」


「了解だ」「わかりました」


 大男と紺色ローブを着た女も走り去る。


「アズ。ヴィオ。君らは俺と一緒にもう一度血痕を見つけた宿屋エリアを捜索だ。今度は宿だけでなく、野宿できそうな橋の下なども探す。いいね?」


「ああ」「了解ですわ」


 弓使いと祭服姿の女がロードに従い走り始めた。


「ところでロード? もしその彼氏が邪魔をして来たらどうしますの?」


 女からの質問に、走りながらロードは答えた。


「逃さないように振舞いながら事情を聞く。もしかしたら狼人間に脅されている可能性もあるからね。ただそうではなく。本心から奴を手助けし、俺たちを邪魔するのなら……」


 ロードは腰に装備した剣をぽんぽんと叩きながら言い放った。


「その時は別の『説得』をする。それだけさ」

 



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