49 洋上に瞬くは裁きの光
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嵐に巻き込まれ、そのうえ洋上にて魔物に襲われる。
命の危険としては最大級とも言える現状。
そんな中で出現したその魔物を見て俺が抱いた印象は、
「綺麗だな……」
おおよそ緊迫したこの場にふさわしくないものだった。
銀色に輝く体表に流線型のフォルム。
昔、書物のスケッチで見たことがあるクジラと呼ばれる生物に似た魔物だった。
50メートル近い巨体。
魚の胸ビレに似た部位はかなり長く翼のようにも見えるほど。
透き通った飛膜のようなものがヒレを覆うように生えていて、神秘的な印象に拍車をかけていた。
頭部には金属を思わせる鎧のような外殻がある。
その外殻の頭頂部には後方へ傾いた太い角が1本生えていた。
魔物が体を上下にくねらせ泳ぎ始めた。
巨体が動くことで波が発生し、俺たちの船が大きく揺らぐ。
俺たちに目もくれず進む巨大な魔物。他の魔物達が慌てて逃げたのはこいつが原因らしい。
だが、1匹だけ逃げずいた魔物がいた。
触腕を威嚇するように海面へ叩きつけるのはイレブナー(イカ型魔物)だ。
先ほど俺たちが見かけた個体とは別個体らしい。
図鑑の記述によるとかなりの空腹で、気が立っているようだ。
イレブナーが大型魔物へ急接近し、その触腕をもってへばりついた。
倍近い大きさの相手へ挑む姿はまさに蛮勇。
そして、蛮勇とは往往にして散る定め。
イレブナーもその例外とはならなかった。
大型魔物の角が白く輝いた瞬間。
空気を割るような激しい音が洋上へと鳴り響いた。
胃袋まで震えるような、本能的に思わず身が竦む独特な音。
音と同時にイレブナーの体が大きく震える。そして次の瞬間にはイレブナーの体は焼け焦げていた。
大型魔物が軽く身を振ると、体表へとへばりついていたイレブナーの体がぼろぼろと崩れ、海中へとゴミのように散っていく。大型魔物は口を大きく開くと、水面を漂うイレブナーの破片を食べていった。
『魔物図鑑』を開いた俺は追加されたページの内容へと目を通す。
『種族名 ホーンホエール(角鯨)
危険性 低(通常時) 極高(縄張りへの侵入者に対して)
鯨型の海洋魔物。頭部に生えた角を使い雷に匹敵もしくはそれ以上の電撃を操る。ドラゴンを除く海洋生物群における頂点生物の一種。高い魔力を保持し長寿。浮遊能力を持ち、水流を操作したり自身を浮かすこともできる。肉食ではあるが食べるために人間を襲うことはない。ただし、縄張り意識が強いため侵入者として攻撃される例は多数ある。
捕獲条件 魔物図鑑で角に触れる。
状態 縄張りを主張。侵入者への攻撃の意思あり』
危険性における『極高』と言えば、あの惨毒蛇ヴェノマムと同じレベル。
確かに巨大な魔物を一瞬で消し炭にする力を見れば納得の評価だ。
ホーンホエールの角が再び光った。
細い電撃が高速で放たれる。
放たれた先にいた海蛇型の魔物が電撃を受け黒焦げになり沈んでいった。
同じような光景がそれから数度繰り返される。まるで天の裁きを受けているかのような光景だ。
「すげぇ威力だ。しかもあのレベルの攻撃を連発してるのに疲労している様子もない」
雄大かつ美しき海の王者。
その裁きの光は瞬く間に他の魔物達を殲滅している。
かなりお怒りのご様子らしく、時折唸り声をあげホーンホエールは胸ビレを海面へと叩きつけた。
そして、そんな王者の裁きは俺たちにも向けられようとしていた。
魔物達を蹴散らしたホーンホエールはようやく俺たちの存在に気づいたようだ。
俺たちの方へ進路を変えると、ホーンホエールの角が光だす。
俺はとっさに魔法鞄へと手を伸ばした。
ーー間に合え!
雷鳴にも似た爆音が俺たちの上空から響き渡る。
魔物達を焼き尽くした雷魔法。
その裁きの光が俺たちへと降り注がれる。だがーー
「ふぅ。間に合った」
俺たち3人と船は無傷だった。
俺は1枚の紙を船底へと散らしていたのだが、その紙にはうっすらと魔法陣が描かれている。
ホーンホエールの角が再び輝き出した。
一撃目とは違い準備を済ましていた俺は持っていた白い紙を再び船底へと投げる。
すると船の周囲へと目には見えない魔法障壁が展開された。
ブランカのパンチすら受け止めたあの魔法陣使いお手製の障壁だ。
期待通りに障壁はホーンホエールの電撃を完璧に防いでみせる。
流石のホーンホエールも二度も攻撃を防がれたことに驚いた様子だ。
俺たちの周囲を警戒するように旋回しながら泳ぎ始めた。
「うー。その紙ってあの王子が使ってた魔法陣? 王様からもらった時に鎖で無力化してなかったっけ?」
ブランカが首を傾げてくる。
確かにその通りだ。『風車の国』の新国王から紙を見せられ、俺は『封魔の鎖』で紙を貫いたのだ。
「その通り。けどさ、こんな便利なものを消すとか勿体無いだろ? 俺としても魔法陣に興味があった。だからあの時は鎖の能力を停止した状態で紙を貫いたんだよ。おかげさまで命拾いってわけ」
「なるほどね。ナイトのずる賢い性格が役に立ったわけだ。納得納得」
「なんか言葉に棘がありゃしませんかね、ブランカさん?」
「うー。気のせいだよ。それよりあの魔物だけど、捕まえるんでしょ?」
俺はブランカの言葉に頷いた。
すでに丸木舟はボロボロだ。
船底には大きな亀裂が入り、ドリアの能力でカバーしてはいるものの浸水が止まらない。
もっともドリアの能力をフルに使えば新しい丸木舟を作ることは可能だ。
だが、この先海洋魔物に襲撃される可能性はかなり高いように思える。
その度に船を構築するのは手間も時間もかかるし、何よりも丸木舟という狭い足場ではブランカも満足に戦えない。
奇襲を受けて船を失えば、俺たちは水中戦を挑まざるを負えない。
圧倒的な地の利を持つ海洋魔物相手にそれは何としても避けたい事態だ。
だが、もしホーンホエールを味方にできればどうだろうか?
足場としてはその巨体が申し分ない働きをしてくれるはずだ。
それに海洋生物の頂点であるホーンホエールは他の魔物に対する防御手段としても優秀なはず。
大抵の魔物は逃げていくし、向かってくる魔物も電撃で撃退できる。
この嵐や潮の流れであっても問題なく航行できる泳力も理想的だ。
「ブランカ、ドリア聞いてくれ。ホーンホエールの角を『魔物図鑑』で触ることができれば俺たちの勝ちだ。なんとしても奴の背中に俺は乗らなきゃいけない。相手は強敵だ。気合い入れていくぞ。陸地に辿り着いたら宴会しよう」




