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44 水底に眠るもの

「んふふ。すごいでしょ?」


 背後を漂う球体を指差しながら女が微笑む。

 自慢のペットを紹介するかのような態度だ。


「……なんてことを」


 俺は突如現れた異形の生物を前に言葉が上手く出てこない。

 ブランカとドリアも目の前の光景に呆然としている。むしろ魔物である2人の方が俺よりも受けた衝撃は大きかったかもしれない。


 球体の内部にいるのは、『金色の羊』『赤い鱗の蛇』そして『長い尾を持つ鳥』の魔物だ。

 3種類とも人間よりふた回りほど大きいが、その一方で魔力の弱い魔物とされている種類だ。

 特別に珍しい存在ではない。

 だが、目の前の3匹ーーいや1匹はあまりにも異形だった。

 

 3匹の魔物は頭部を連結させられていた。

 連結といっても紐で頭部を縛ってまとめているわけではない。

 絵の具の色を混ぜるかのように、3種類の魔物の頭部が1つに融け合っているのだ。


 融け合わされた頭部は見るに耐えないおぞましい姿となっている。6つの目に3つの口がばらばらの状態で散らばり、角や牙などももはや無秩序に生えていた。さながらおとぎ話に登場する悪魔のような醜悪さ。


「融合魔法…………禁術じゃないか!」


 俺が叫ぶ。

 

 この世には様々な魔法があるが、その中でも禁術と呼ばれる魔法がある。

 文字通り使用することを禁じられた魔法だ。

 融合魔法はその筆頭とも言われる忌まわしき魔法と言われている。


 複数の生物を混ぜ合わせ、新たな生物を生み出す魔法ーーそれが融合魔法だ。

 かつての戦場では合成獣と呼ばれる人造魔物が活躍した歴史もあるが、命への冒涜とされる倫理性、おぞましい外見、そして人が制御できない力をもつ合成獣は忌避され、それを生み出す魔法使いも同じく恐れられた。


 現在では使用するだけで終身刑を受けるに値する魔法とされている。

 もっともその難易度と膨大な魔力が必要なこともあって、使える魔法使いは限られるのだが……。


「ご覧の通り、この子達は頭部だけを融合させた不完全融合よ。なぜこんな半端な姿かと言うとね。実は合成された魔物の魔石は連結部分に集まる性質があるの。つまり、この3匹の元々の魔石がどこにあったかが分からなくとも、こうして部分的に融合させればその場所に魔石があることが分かるわけ」


 生理的嫌悪感に満たされる俺たちを無視し、女は自慢話のように悠々と説明を始めた。


「さらに面白いことにこの3匹の魔石は集まった箇所でなんと1つに混ざり合うのよ。3匹の魔石が1つになり、純度と魔力を高めるわ。この3匹は元々それほど強力な魔物ではないけど、溶け合って生まれた魔石は3ランクくらい上質な魔石となるの。んふふ。素敵でしょ?」


「……この3匹、いや1匹か。この魔物は不完全状態なのにまだ生きているんですか? 完全な融合状態でも合成獣の寿命は極端に短いと聞いたことがある。場合によっては1時間も保たない」


「あら、融合魔法についても知識があるみたいね。えぇ、その通り。普通こんな不完全融合体は1時間も生きていられない。歴史上、多分私と同じ発想で合成獣を生み出した魔法使いはいたと思うけど、彼らの試みが上手く行かなかったのもその辺にあるわね。魔石が溶け合うのに最低でも1ヶ月はかかるもの。ちなみにこの子は3ヶ月生きているわ」


「そんなバカな……」

 

 思わず俺は否定の言葉を発したが、女が無意味な嘘をつく理由がない。

 多分3ヶ月生きていると言うのは事実なのだろう。

 だが、常識としてありえない現象だ。一体なぜ?


 次第に嫌悪感よりも好奇心の方が俺の中で膨らんでくる。

 その好奇心をもって俺は液体に浮かぶ合成獣をじっと観察した。

 融合魔法以外の魔法がかけられている様子はない。せいぜい液体を球状にして浮かべる浮遊魔法程度。

 と言うことはーー。


「秘密はこの液体ですか?」


 俺の言葉に女は拍手で応じた。


「正解よ。これこそが『風車の国』を拠点にしている理由であり、魔石を格安で譲ってでも私がこの塔を求めている動機よ」


 俺は再び球体を観察する。

 球体内を満たす液体は無色透明だ。何かが溶け込んでいるようには見えない。ただの水だ。


「地下水ですか? この国では200年くらい前から地下水が溢れすぎて風車で排水しないと半月で国が水没してしまうと聞きました」


「またまた正解。理解が早くて助かるわ」


「一体この水は何なんです? ただの水じゃないんですよね?」


「さぁね。何だと思う?」


 女がニヤリと笑みを見せた。

 少し考えてみるが、俺に分かるはずもない。

 俺が首を振ると女は床へと指差した。


「この国の地下には巨大な空洞があってね。そこから地下水は溢れている。でも雨水が大地から溢れるような自然の地下水ではないわ。ある存在の亡骸からこの水は溢れているの」


 女は俺たち3人へと視線を向けながら、種明かしをするように自慢げに口を開いた。


「亡骸の主は水龍『アクアドラゴン』。その亡骸から溢れる水こそ私にとって最大の発見だったわ」


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