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43 魔女からのスカウト

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 2人の足元に浮かび上がる魔法陣に俺は見覚えがあった。

 あの元王子が使っていた空間移動魔法を引き起こす魔法陣だ。


 ブランカとドリアが移動させられる。

 その刹那、俺は『封魔の鎖』を2本生み出し鎖の先端を魔法陣へと打ち込んだ。

 『封魔の鎖』によって魔法陣が抑制され、消え失せる。


「やるじゃない、ボウヤ」


 女の声が上から聞こえた。

 家の屋根に女が立っている。

 どうやら空間移動したらしいが、その表情は極上の宝石でも見つけたかのように高揚とした様子だった。


「『封魔の鎖』をそんなに早く、しかも2本出現させる魔法使いなんて初めて見たわ。やっぱり私の目に狂いはなかったわね。ますますボウヤを助手にしたくなったわ」


 うっとりとした目つきで俺を見る女。そのどこか余裕のある態度に俺は不快と怒りを覚えた。


「何の真似だ」


「あら、顔つきが変わったわよボウヤ。さっきまでは優しい紳士風だったのに、今は飢えた獣みたい。そっちが君の本性かしら?」


「質問に答えろ。空間移動で俺の仲間をどうするつもりだったんだ? 返答次第じゃ穏やかじゃない事態になるぞ」


「あら怖い。んふふ、ただの悪戯よ。ここから100メートル先の通りに飛ばすだけのね。君がどういう反応をするのか興味があったのよ。結果は期待以上。ねぇねぇ、ボウヤ?」


 屋根から女の姿が消えた。

 次の瞬間、女は俺たちの正面にふわりと出現する。


「一体いつから構えていたのかしら?」


 女は続けた。


「いくら何でも対応が早過ぎるわ。私が魔法陣で何かすると予想していないと出来ない動き。私って何か怪しいそぶりしていたかしら?」


「…………別に。単にあなたの放つ雰囲気が知っている奴に似ていたんで警戒していただけっすよ」


「へぇ。誰に?」


「『七色の風』のリーダーに」


「あらぁ、これはまたとんでもない大物と比べられたわね。人類最強の男と似てるか。んふふ」


「人類最強?」


「『七色の風』のリーダー。確かロードという名前だったかしらね。人類最強とこの西岸地方では噂されているのよ。直接会ったことはないけど、噂は色々聞いているわ。ボウヤは彼の知り合いなの?」


「別に」


「ふーん。ひょっとして彼とその仲間に追われているとか?」


 女の言葉に俺が返答に詰まっていると、


「えー、何でわかるんだ? このメス、心でも読むのか?」


 俺の後ろからドリアが驚いた様子でそう口にしたのだ。


「あらあら逃亡者だったのね。じゃあ、私と一緒じゃない」


 女はくるりと後ろを振り返ると俺たちを手招いた。


「いらっしゃい。逃亡者同士仲良くしましょ」





 女に連れられた場所は、やはりと言うか例の『謎の塔』だった。

 ただし、女は塔の最上階ではなく1階に俺たちを案内した。


 高さ20メートルほどある塔の内部。

 風車であれば様々な木材や歯車で埋まっているはずの空間は空っぽだ。

 最上階の部屋に続く螺旋階段以外は窓もない。


「あれ? 私が壊した壁が直ってる」


 ブランカの言葉に、


「あれお嬢ちゃんが壊したのね。もう、修理するのに結構手間が掛かったのよ」


 女はちょっとだけ不満げにそう言うと、持っていた杖で床をコンコンと叩き始めた。


「最上階の部屋へは行かないんですか?」


「ええ。作業はこの空間で行うわ」


 俺の問いに答えながら、女は杖で床を突いて回っている。


「その杖って宝具ですよね?」


「その通りよ。魔杖『ヴァーティン』。よく分かったわねボウヤ。褒めてあげる」


「……魔法陣について多少知識があるなら、あなたの引き起こしている現象に疑問を持ちますからね。そんな現象を起こせるとしたら宝具しかないです」


「んふふ。そうね。そして君も宝具を持っているわね?」


 女が俺を見て微笑む。

 俺は右手を前に差し出すと、


「ふーん。本の形をした宝具か」


 女は『魔物図鑑』を眺めながら何やら得心したらしい。


「ボウヤの後ろにいる女の子だけど、2人とも魔物よね? 実は昨日会った時からそうじゃないかなって思っていたのよ。仕事柄、魔物とはよく触れ合うから。新国王から聞き出して確信すると同時に、ボウヤへの興味も沸き起こったわ。魔物を2匹使役するなんて不可能だもの。でも現実としてボウヤは魔物2匹を引き連れている。そういう現象を起こせるとしたら宝具しかないものねぇ」


 女がにっこりと微笑む。


「それじゃあ、助手の君へ仕事内容を教えるわ。ちょっと技術がいるけど、宝具持ちのしかも魔法の練度が高い君ならすぐ覚えると思うわ」


「いやいや、まだ助手になるなんて言ってないっすよ。お金がいるのは事実なので、とりあえず何をするのを見せてくれって言っただけ」


「あぁ、そうだったわね。やることは単純よ。でも、その前にちょっと講義をしてあげる」


 女は床を宝具の杖で突きながら話を始めた。

 それは魔石に関する話だった。


 この世に生まれた生物は必ず魔石をその身に宿す。

 昔から魔法使いを中心に魔石は研究され続けていた。

 自らの魔力を高めるため。国を支える力を得るため。まだ見ぬ魔法を開発するため。

 

 しかし、そうした研究の結果、魔石の性能は生まれつき決まっていて、変えることはできないという残酷な事実が明らかになったのだ。


「その事実が知られて以降、魔法使いによる魔石集めが広まったわ。魔物の魔石を併用することで少しだけ魔力が高まるからね。でも知っての通り、魔石を得ることは難しいわ」


 女の言う通り、魔石を手に入れることはかなり難しい。

 最大の理由は魔石を取り出す方法が確立されていないからだ。


 小型の魔物ーー例えば妖精などは魔法の力がなくとも捕獲することは昔から出来ていた。

 捕まえた妖精を解体し、体内の魔石を取り出そうという発想が生まれるのも自然なこと。

 しかし、現実に成功した例は極めて少ない。


 原因としては魔石が体内のどこにあるかは誰にも分からないという点が1つ。

 魔物の種類どころか、個体ごとに場所も大きさも形すら違うのだ。

 さらに魔石には正しい手順で取り出さないとすぐに崩れてしまうという厄介な性質があり、入手の困難さに拍車をかけているのだった。


 出力の高い質の良い魔石を手に入れようとすれば、当然強力な魔物を仕留めなければならないのだが、激しし戦闘によって戦いの最中に魔石も壊れてしまうことが圧倒的に多い。

 かと言って、妖精のように弱い魔物からは貧弱な魔石しか手に入らず、確実に取り出せる保証もない。


 よって、魔石の入手方法は原始的な手段に限られているのが現状が。

 すなわち、野山に落ちている魔石を拾い集めるという手段だった。


「化石や宝石と採取するのと同じ方法ね。自然死した魔物は魔石を残す可能性が高い。そうして偶然野山に落ちている魔石を集めて売買するのが一般的な魔石の流通。でも労力がいるし、運の要素が強すぎる。大昔から効率の良い魔石の入手手段は模索され続けたわ」


 女は空間の中央部分から少し離れた場所へと立ち止まると、俺たち3人に向けて微笑んだ。


「じゃあ、あなたはその効率の良い方法を見つけたってことですか?」


 問いかけながら俺は信じられない思いだった。

 東西の地方における数百年の歴史を持ってしても誰も確立できなかった魔石の安定供給。

 それをこの女1人で成し遂げたなど、簡単には信じられない。


 女はやや間を置いてから語り始める。

 それと同時に床に巨大な魔法陣が浮かび上がり、青色の光を放ち始めた。


「少し話が逸れるけど、ボウヤは真珠という宝石を知っているかしら? ……ええ、二枚貝から採取できる宝石よ。あれは貝の体に異物が入ると、貝の成分がそれを包みこんで真珠になるのよ。500年前から二枚貝の体に人工的に異物を入れて、真珠を作る実験が始まっていてね。西岸地方で流通する真珠の9割以上は養殖真珠なのよ」


 魔法陣の光が塔の内部を怪しく照らす。

 窓がないため、外部からは何が起きているかは分からないだろう。

 

 やがて、魔法陣の中央部から何かが姿を表した。


「一度養殖真珠を作る現場を見たことがあってね。その時に思ったのよ。『もしかして、魔石も養殖できるんじゃないか』ってね」


 その何かは水の塊だった。

 ぶよぶよとゼリーのような質感で、シャボン玉のように球体を維持しながら浮かんでいる。


「ようこそ! 魔石の養殖場へ!」


 うっとりとした表情を浮かべる女。

 その背後に浮かぶ球体の中には、頭部を不自然に連結させられた合成獣が胎児のように収容されていた。

 

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